第20問
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。 メーカーA社では、経営陣が「次世代の主力製品」と鳴り物入りで導入した製品X について、累積損失が膨らんだため、市場から撤退する決定がなされた。実は5 年 ほど前から、製品Xには深刻な問題があると気づいていた現場管理者が数人いた。 生産上のトラブルが続き、そのコストを価格に転嫁すれば競争力を失うことに気づ いていたのである。しかしこの情報が、経営陣に伝わるには時間がかかりすぎた。 その原因を探求すると、以下のような状況であったことが分かった。 生産現場の管理者たちは、改善運動で成功してきた実績と有能感を持っていた。 当初は、改善運動で問題が処理できると考えていたが、マーケティング面の問題が より深刻であることが分かった。そこで彼らは、製品Xのプロジェクトマネジャー (以下、「ミドル」という)に問題の深刻さを伝える報告書を作成した。A社では、こ うした報告書には改善提案を付けることが当然視されていたため、時間をかけて詳 細なデータを付けた。 しかしこの精緻な報告書は、製品Xの導入決定の際に、トップ主導で行った生産 やマーケティングの調査を根底から覆すような内容を含んでいた。そこでミドル は、まず現場管理者たちに、その報告書に記載されたデータが正しいのか詳しく調 べるよう指示した。報告書が正しそうだと分かると今度は、経営陣に悲観的な情報 を小出しに流し始めた。経営陣からはいつも「説明資料が長すぎる」と叱られていた ので、資料のデータを大幅に割愛し、問題の深刻さをオブラートに包み、現場では 事態を十分掌握しているように表現していた。そのため経営陣は製品Xについて、 引き続き「次世代の主力製品」と熱い期待を語り続け、必要な財務的資源も保証して いったのである。 現場の管理者たちは問題点を指摘したにもかかわらず、経営陣は製品Xへの期待 を語り、ミドルからは再検討の要請がなされたため混乱した。そのうち彼らは、製 品Xに悲観的な資料を作ることを控え、責任はミドルにあると考えるようになっ た。やがて、納得したわけではなかったが、あまり気に留めることもなくなった。
設問1
あなたがコンサルタントとしてA社の問題を分析するとしたら、A社の組織メ ンバーが持つ行動モデルに当てはまるものはどれか。最も適切なものを選べ。
- ア 自分たちの考え方を頻繁に検証する。
- イ 情報の妥当性を重視する。
- ウ 積極的にリスクを取ろうとする。
- エ 全社的な観点から自己の責任を果たそうとする。
- オ 問題の論理的な部分を重視し、感情的な部分は排除しようとする。
設問2
あなたがコンサルタントとしてA社の組織を変革する際に、その方針や手段と して、最も適切なものはどれか。
- ア Off-JT のワークショップやセミナーを活用し、真実を明らかにしたからと いって不利な立場に立たされることはない、という態度を経営者が率先して組 織メンバーに身に付けさせる。
- イ 与えられた目標について利得の可能性を最大化し、損失の可能性を最小化す るよう、組織のメンバーを動機づける。
- ウ 管理職には自らの役割を明確にさせ、それを強化するために、他者に指示を 出したり、他者を傷つけることのないよう、伝える情報の範囲を自身でコント ロールするよう訓練する。
- エ 組織のメンバーは個人の責任と業績に応じて適切に報酬を得ることができ る、という理念を定着させる。
- オ 組織の和を重視し、組織メンバーや既存の制度を脅かすような言動は慎むよ う訓練する。
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正解: 設問1 オ 設問2 ア
解答:設問1=オ、設問2=ア
本問はアージリス(C. Argyris)の組織学習論を題材とする。悪い情報が経営陣に届かず、関係者が自己防衛的に情報を加工・回避する状況は、防衛的思考に基づく「モデルI」の行動特性とシングルループ学習の限界を示す。変革には「モデルII」(防衛を解き、真実を率直に共有してもよいという規範)への転換が必要となる。
設問1(行動モデル)=オ
ミドルは不都合な情報を小出しにし、現場は問題を指摘しつつも責任転嫁し気に留めなくなる。これは葛藤や感情・対立を回避し、表面的・論理的な体裁を整えて自己を守るモデルIの防衛的行動である。
- ア(×):自分たちの前提を頻繁に検証する姿勢はモデルII(探究的)であり、A社の実態と逆。
- イ(×):情報の妥当性を重視するなら不都合な真実を直視するはずで、実態と逆。
- ウ(×):積極的にリスクを取る姿勢はなく、むしろリスク回避・防衛的。
- エ(×):全社的観点から責任を果たすどころか、責任をミドルへ転嫁している。
- オ(○):論理的体裁を重んじ、葛藤や感情的側面を排除・回避して自己防衛する、まさにモデルIの行動モデルに合致する。
設問2(変革の方針)=ア
防衛的な組織を変革するには、真実を語っても不利にならないという心理的安全と率直な探究を組織に根づかせること(モデルII・ダブルループ学習への転換)が必要。
- ア(○):真実を明らかにしても不利にならないという態度を経営者率先で定着させるのは、防衛を解きモデルIIへ転換する正攻法。
- イ(×):利得最大化・損失最小化の動機づけは、不都合な情報の隠蔽を助長しかねず防衛を強める。
- ウ(×):伝える情報の範囲を自身でコントロールさせるのは情報の出し惜しみ(モデルI)を温存・強化するもの。
- エ(×):個人の責任・業績で報われる理念は、失敗を隠す誘因を生み防衛的行動を助長しうる。
- オ(×):和を重んじ既存制度を脅かす言動を慎ませるのは、率直な問題提起を封じモデルIを固定化する逆方向の施策。
よって 設問1=オ、設問2=ア。