第16問
あらかじめ予測不能な事態が生じた場合、それを危機として認識し、適切に対応 しなければ企業の存続が左右されてしまうことがある。このような対応の管理を、 予測可能な範囲内での変化への対応としてのリスクマネジメントと区別して、「ク ライシスマネジメント」ということがある。 クライシスマネジメントに関する下記の設問に答えよ。 (
設問1
) 不測の事態はあらかじめ予測することが困難ではあるが、多くの場合それに先 立って何らかの兆候が見られる。したがってクライシスマネジメントでは、まず このような兆候を認識し、それが重大な危機を招く可能性があることを予測する 組織能力が必要である。このような組織に関する記述として、最も適切なものは どれか。
- ア ペレーションの現場近くにいる管理者や従業員を重視して、状況のわずか な変化を把握したり、それを事前に伝達した場合、十分に報いるような制度を 整備しておく。
- イ これまでの成功経験や処方箋を基礎に、職務をできるだけ規則的なものに定 型化し、これを遵守するよう義務づける。
- ウ 組織としての情報処理能力を高めるために、他者とは異なる個人的意見を控 え、メンバーが共有している事柄を基礎に議論をするよう習慣づける。
- エ 組織の中間管理職レベルの価値観を統一し、それを一貫性のある体系として 維持することによって、そこから逸脱が生じた場合に問題に気づくことができ るようにしておく。
- オ わずかなミスやヒヤリハット事例を収集し、それぞれの部門で原因や対処方 法について議論する機会を定期的にもつようにする。 ― 20― ◇M3(295―71) (
設問2
) 万一、不測の事態が発生してしまった場合、その影響を最小限のものとし、で きるだけ迅速にその状況から脱却するための組織能力を高めておくことが必要で ある。このような組織に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア 過去においてその組織がどのように成功してきたかに関する事例をできるだ け多く用意しておき、不測の事態が発生した場合に直ちに参照できるようにし ておく。
- イ 組織として同じ過ちを繰り返さないためには、従業員に対して過失を犯さな いよう十分な注意を払わせるとともに、過失を人事考課に反映させる仕組みを 構築しておく。
- ウ 不測の事態が発生したときには、組織内に不安が広がらないよう、非公式な
- エ ミュニケーションルートを遮断し、公式の責任― 権限関係を基礎に対応策 を検討する。
- オ 不測の事態が発生した場合の標準業務手続きや職務規則をあらかじめ用意し ておき、計画的な訓練を行っておく。
- 不測の事態の発生とその深刻さを適切に伝えるために、電話や書類などでは なく、フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションを活用する。 ― 21― ◇M3(295―72)
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正解: 設問1 オ 設問2 ア
解答:設問1=オ、設問2=ア
〔リード〕クライシスマネジメントは予測不能な危機への対応であり、リスクマネジメント(予測可能な変化への定型的対処)とは異なる。鍵となるのは、定型化・規則順守ではなく、わずかな兆候への気づきと柔軟な情報共有を可能にする「高信頼性組織(HRO)」的な発想である。
設問1(危機の兆候を予測する組織能力)
- ア(×):現場の管理者・従業員を重視し、わずかな変化の把握・伝達を報いる発想自体は望ましいが、本肢の主眼は「変化を伝達した場合に十分報いる制度」という報酬制度の整備にとどまり、兆候の早期発見・組織的議論というクライシスマネジメントの本質をオより的確には表していない。設問の最適肢はオ。
- イ(×):過去の成功体験や処方箋を基礎に職務を定型化し規則順守を義務づけることは、予測可能な変化への対応(リスクマネジメント的発想)であり、予測不能な兆候の感知をむしろ阻害する。
- ウ(×):他者と異なる個人的意見を控え共有事項を基礎に議論する習慣は、集団思考(グループシンク)を招き、わずかな異変や弱い兆候を見落とす。兆候認識能力を損なう。
- エ(×):中間管理職の価値観を統一・一貫体系として維持する発想は文化の硬直化を招き、多様な視点からの異変察知を妨げる。
- オ(○):わずかなミスやヒヤリハット事例を収集し、各部門で原因・対処を定期的に議論する仕組みは、弱い兆候(ニアミス)を組織的に学習・共有する高信頼性組織の中核的実践であり、重大危機の予兆を認識する組織能力を高める。
設問2(不測の事態発生後、影響を最小化し迅速に脱却する組織能力)
- ア(○):不測の事態の発生とその深刻さを適切に伝えるために、電話や書類ではなくフェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションを活用する。危機時には情報の正確性・即時性・相互理解が重要であり、リッチな対面コミュニケーションは混乱下での迅速な状況把握と対応に最も適する。
- イ(×):過去の成功事例を多数用意し直ちに参照する発想は、前例のない不測の事態には通用せず、誤った定型対応を招きうる。
- ウ(×):過失防止の注意喚起と過失の人事考課反映は、危機時の率直な情報報告を抑制し(責任追及を恐れ報告しなくなる)、かえって迅速な対応を妨げる。
- エ(×):非公式なコミュニケーションルートを遮断し公式の責任・権限関係のみで対応する発想は、危機時に必要な柔軟・即応的な情報流通を断ち切り、対応を遅らせる。
- オ(×):標準業務手続きや職務規則を用意し計画的訓練を行うことは予測可能な事態への備え(リスクマネジメント)であり、予測不能な不測の事態への即応力を直接高めるものではない。
よって 設問1=オ、設問2=ア。