第13問
あなたがコンサルタントとしてアドバイスしている家庭用品メーカーA 社には、 以下のような特徴がある。これを読んで下記の設問に答えよ。 A 社は40年の歴史があり、主力事業は既に成熟期に入っていて、その事業を展 開する部門では安定的な利益率を確保していた。社員は部品レベルでの品質改善に 取り組んでおり、皆忙しいと言っているが、市場シェアはほとんど変わらない。全 体的に現状に満足している社員が多く、職場は比較的和気あいあいとしている。 社長が主力事業部の従業員を活性化しようと、工場やマーケティング部門に権限 を委譲し、生産コストや市場シェアによって評価する人事管理システムを導入し た。しかし、 その結果、市場シェアは増大したが、歩留りが悪化し、利益率は低下 してしまった。 その一方で、トップマネジメントは 新規事業に対して積極的に取り組むことを指 示したが、部門管理者たちは最初は綿密な計画を立てるものの、実行段階になると 業務がスムーズに運ばなくなり、いつのまにか撤退を余儀なくされてしまうことを 繰り返してきた。 ― 16― ◇M3(295―67) (
設問1
) 文中の下線部のような結果は、なぜ生まれたのか。考えられうる可能性とし て最も適切なものを選べ。
- ア この事業部が扱う家庭用品市場がすでに成熟しており、価格競争でしかシェ
- イ 拡大が難しくなっていたため、コスト削減をトップが指示した可能性がある から。
- ウ 事業部によって異なる目標管理制度が導入されたため、当該事業部の従業員 が公平性を欠くと認識しこれに反発した可能性があるから。
- エ 市場シェア目標やコスト管理目標が、事業部の投資利益率目標とは連携して いても、A 社全体の利益率目標と合理的に連携していなかった可能性があるか ら。
- オ 市場シェア目標を達成するために、マーケティング部門は価格を低く設定 し、その結果、販売数量が増加し、生産部門はコスト管理を徹底したために品 質を犠牲にすることになった可能性があるから。
- 市場シェアや生産コスト管理のような、成果主義による管理方針に対して、 従業員が反発した可能性があるから。 (
設問2
) A 社が下線部のような組織になってしまう理由として考えられうる可能性と して、最も不適切なものはどれか。
- ア 従業員の間で意思決定権限が細分化されており、多くの管理者の同意を得な ければならない可能性があるから。
- イ 従業員の業績評価システムが、ミスや失敗による減点方式になっている可能 性があるから。
- ウ 従業員の職務と責任・権限が、会社の利益と関係づけて理解されていない可 能性があるから。
- エ 主力事業部の規模や資産等のスラックが大きく、従業員が市場における変化 や競争圧力を感じにくくなっている可能性があるから。
- オ 新規事業開発についてミドルマネジメントに十分な権限を委譲していないた め、彼らの知識創造力を十分活用できていない可能性があるから。 ― 17― ◇M3(295―68) (
設問3
) A 社の組織全体が抱えている問題点を改善する方策として、最も適切なものは どれか。
- ア 市場の動向に関する情報をもつ現場の従業員に権限を与え、ボトムアップで 変革案を作成させる。
- イ 従業員に業績連動型の報酬制度を導入し、企業の利益と職務の関係を明確に する。
- ウ 中間管理職に権限を委譲し、彼らの自主性を重視したチーム運営ができるよ うにする。
- エ 中間管理職を横断する組織を作って、合議による変革プランを作成させる。
- オ トップマネジメントによる方針決定と執行担当管理者の意思決定権限の所在 を明確に定義する。
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正解: 設問1 エ 設問2 ア 設問3 オ
解答:設問1=エ、設問2=ア、設問3=オ
〔リード〕成熟事業で権限委譲と成果評価を導入したA社で「市場シェアは増大したが歩留り悪化・利益率低下」が生じ、新規事業も実行段階で頓挫を繰り返す、というケース。組織・管理システムの整合性を問う。
【設問1】下線部の結果(シェア増・歩留り悪化・利益率低下)はなぜ生まれたか。最も適切なもの。
- ア(×):成熟市場で価格競争でしかシェア拡大が難しく、コスト削減をトップが指示した可能性、では「歩留り悪化」という品質面の結果を説明しきれない。
- イ(×):事業部ごとに異なる目標管理で従業員が不公平と反発した可能性、は本文の「シェア増大・歩留り悪化」という具体的結果と整合しない。
- ウ(×):市場シェア・コスト目標が事業部のROI目標と連携していてもA社全体の利益率目標と連携していなかった、という全社整合の問題は一因たり得るが、現場で実際に起きた歩留り悪化のメカニズムを直接説明する選択肢ではない。
- エ(○):市場シェア目標達成のためマーケティング部門が価格を低く設定して販売数量が増加し、一方で生産部門がコスト管理を徹底するあまり品質を犠牲にした、という記述は、「シェア増大(低価格による数量増)」と「歩留り悪化・利益率低下(品質犠牲)」の両方を整合的に説明する。部分最適な評価指標が招いた弊害として最も適切。
- オ(×):成果主義への従業員の反発、では具体的結果(シェア増を伴う歩留り悪化)を説明できない。
【設問2】A社が新規事業の実行段階で頓挫する組織になる理由として最も不適切なもの。
- ア(○:最も不適切):「意思決定権限が細分化され多くの管理者の同意を要する」のは、むしろ計画段階での停滞や保守化の理由にはなり得るが、本ケースは「最初は綿密な計画を立てるが実行段階でスムーズに運ばなくなる」点が問題。権限の細分化・多数同意は実行段階の機動性低下を一定説明するものの、設問が問う「実行段階で頓挫する組織」の理由として他肢に比べ整合性が弱く、最も不適切とされる。
- イ(×):業績評価がミスや失敗の減点方式だと、従業員が失敗を恐れて挑戦的な新規事業の実行をためらう。実行段階の頓挫を説明でき適切。
- ウ(×):職務・責任・権限が会社の利益と結びつけて理解されていないと、新規事業を自分事として遂行する動機が弱く、頓挫の理由として適切。
- エ(×):主力事業のスラック(余裕資源)が大きく変化・競争圧力を感じにくいと、危機感が乏しく実行が緩む。理由として適切。
- オ(×):ミドルへの権限委譲が不十分で知識創造力を活かせないと、新規事業の実行力が育たず頓挫する。適切。
【設問3】A社組織全体の問題点を改善する方策として最も適切なもの。
- ア(×):現場にボトムアップで変革案を作らせるだけでは、全社的な権限・責任の所在の曖昧さという根本問題は解決しない。
- イ(×):業績連動報酬の導入は設問1で見たように部分最適の弊害を再生産しかねず、全体の整合問題の根本解決にならない。
- ウ(×):中間管理職への権限委譲・自主性重視は、すでに権限委譲を行って弊害が出ている状況で、責任所在の明確化という課題に答えていない。
- エ(×):中間管理職横断の合議組織は意思決定の遅さや責任分散を招きやすく、実行段階での頓挫という問題に逆行しかねない。
- オ(○):A社の根本問題は、トップの方針決定と執行担当管理者の意思決定権限の所在が曖昧で、全社目標と現場目標が整合しないこと。トップマネジメントによる方針決定と執行管理者の意思決定権限の所在を明確に定義することが、計画と実行の接続・全体最適を回復する最も適切な方策。
よって 設問1=エ、設問2=ア、設問3=オ。