第11問
企業甲は、社長乙氏が代表取締役となり設立された携帯電話用のソフトウェアの プログラムを開発する株式会社であり、開発部門の部長丙氏を含む20名の従業員 が就業している。 社長乙氏が中小企業診断士のあなたに、従業員にかかわる企業甲の営業秘密の保 護の仕方について相談している。 下記の設問に答えよ。 社長乙:「うちの営業を担当していた従業員が辞めるらしくてね。うちでもそろそ ろ、企業秘密について何か対策を取らなくてはならないと考えているとこ ろなんだ。この従業員からは辞めるに際して、守秘義務をうたった誓約書 を取ったら十分かな。」 あなた:「もちろん、誓約書はあった方がいいですね。でも、誓約書を退職時に取 るだけでは不十分ですよ。就業中から秘密情報は企業の重要な財産の一つ として守っていくべきですから、御社で企業秘密としたいものを、ちゃん と、法律によって保護される「営業秘密」という形にした方がよいと思いま すよ。」 社長乙:「営業秘密管理などといわれているものですか。マル秘マークを付けて、 文書を保存したりするんでしょう。うちでも、重要な文書については 「CONFIDENTIAL」というハンコを押してますよ。でも、実のところ、我 が社の場合、一番重要な情報はプログラムなどのデジタルデータでしょ う。パソコンの中に入っているものまでは、ハンコは押せなくて…。」 あなた:「ハンコを押すかどうかということは、営業秘密であることを示す一つの 事情にすぎないんです。「営業秘密」と認められる情報といえるためには、 もっとたくさんのことをする必要があります。判例や経済産業省による指 針などで示されている要件を満たさなければなりません。」 社長乙:「何ですか。それは。」 あなた:「 A 、 B 、 C のつになります。」 社長乙:「最初は A ですか。それは当然ではないですか。」 ― 13― ◇M5(023―116) あなた:「そうですが、実はこの点が認められないために、営業秘密には該当しな いとして、情報漏洩(ろうえい)された会社側が負けている判決が結構多い んですよ。」 社長乙:「判決っていうぐらいだと、会社の方は、当然、営業秘密になるんだと 思って訴えているんでしょう。 A について詳しく教えてもらいた いですね。」 あなた:「まず、 A があると認められるためには、さらに D と E という要件が要求されています。先ほどのハンコの話は、文書 情報に接した者にそれが秘密であると認識できるようになっているので、 文書については E の要件を満たすということがいえますね。た だ、御社は、デジタルデータについては何もしていないということになる かもしれません。」 社長乙:「どうすればよいですか。」 あなた:「まず、情報に接することのできる人を制限するなど、 D の要件 を満たすことができるような社内体制を整えること、それについてマニュ アルを作成し、社内で周知徹底することなど、物理的管理や技術的管理を 行い、これと並行して人的管理を行います。具体的には、就業規則で明示 して、従業員や新入社員から秘密保持誓約書を取りつける。そのほか、従 業員教育を行い、それぞれの責務を明確にすることです。」 社長乙:「営業秘密とすべき情報自体は、どのようなものでなければならないので すか。」 あなた:「 B の要件があります。情報自体が、客観的に事業活動に利用さ れていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に 役立つものでなければなりません。御社で開発したプログラムはもちろ ん、営業活動に資する顧客情報なども含まれることがあります。」 社長乙:「そういうものを、営業秘密として他の雑多な情報と区別して管理しなけ ればいけないということですね。」 あなた:「そのとおりです。最後に C という要件も満たしていなければな りません。これも、秘密というくらいですから一般に入手できない情報で あることが必要となります。当たり前といえば、当たり前ですね。」 ― 14― ◇M5(023―117) 社長乙:「いろいろ大変そうですけど、情報は我が社の生命線ですから、早速、取 りかからないといけないですね。」 (
設問1
) 文中の下線部の法律においては、営業秘密の定義およびこれに関連して損害賠 償請求や刑事罰などの規定がある。この法律の名称として最も適切なものはどれ か。
- ア 個人情報の保護に関する法律
- イ 商法
- ウ 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
- エ 不正競争防止法 (
設問2
) 文中の空欄A、B、Cのいずれにも、当てはまらないものはどれか。
- ア 認識可能性(情報が秘密であると認識できること)
- イ 非公知性(公然と知られていないこと)
- ウ 秘密管理性(秘密として管理されていること)
- エ 有用性(有用な情報であること) ― 15― ◇M5(023―118) (
設問3
) 企業甲における営業秘密について、文中の空欄B~Eに関連した説明として最 も適切なものはどれか。
- ア B :企業甲が脱税をしている事実を記載している情報について、こ れを秘匿していることが企業甲の利益につながることから、企 業甲の営業秘密として B の要件を満たすことができ る。
- イ C :一般に公表されている取引先の企業名やその住所について、こ れが当該企業のその他の情報と一体となって管理されている場 合であっても、企業甲の営業秘密としては C の要件を 満たすことができない。
- ウ D :部長丙氏自らが職務上創作した情報について、これが社長乙氏 のみがアクセスできるものとして D の要件を満たし、 企業甲の営業秘密として管理されている場合でも、部長丙氏が 第三者に開示することができる。
- エ E :デジタルデータは、パスワードを設定してこれを知る人を限定 するなど情報・人の管理の対象を明確化し、デジタルデータが 保存されているデータベースを外部ネットワークから遮断する こと等により、 E の要件を満たすことができる。 ― 16― ◇M5(023―119)
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正解: 設問1 エ 設問2 ア 設問3 エ
解答:設問1=エ、設問2=ア、設問3=エ
〔リード〕営業秘密の保護に関する事例。不正競争防止法上の「営業秘密」と認められるには、(1)秘密管理性(A:秘密として管理されていること)、(2)有用性(B:有用な情報であること)、(3)非公知性(C:公然と知られていないこと)の3要件を満たす必要がある。空欄D・Eは秘密管理性を支える要素(アクセス制限=D、客観的認識可能性=E)に対応する。
設問1(法律の名称):エ
- ア(×):個人情報の保護に関する法律は個人情報の取扱いを規律する法律であり、営業秘密の定義や損害賠償・刑事罰を定めるものではない。
- イ(×):商法に営業秘密の定義規定はない。
- ウ(×):不正アクセス行為の禁止等に関する法律は不正アクセス行為を規律するもので、営業秘密の定義を置くものではない。
- エ(○):営業秘密の定義、その侵害に対する差止め・損害賠償請求、刑事罰(営業秘密侵害罪)を定めているのは不正競争防止法である。正しい。
設問2(A・B・Cのいずれにも当てはまらないもの):ア
- ア(○=当てはまらない):営業秘密の3要件は秘密管理性・有用性・非公知性であり、「認識可能性」はこの3要件そのものではない(秘密管理性を判断する一要素にすぎない)。したがってA・B・Cのいずれにも当てはまらず、これが正解。
- イ(×):非公知性はC(公然と知られていないこと)に当てはまる。
- ウ(×):秘密管理性はA(秘密として管理されていること)に当てはまる。
- エ(×):有用性はB(有用な情報であること)に当てはまる。
設問3(B〜Eに関連した説明・最も適切なもの):エ
- ア(×):脱税の事実のような反社会的・違法な情報は、法が保護する正当な事業活動上の「有用性(B)」を欠くため営業秘密として保護されない。要件を満たすとするのは誤り。
- イ(×):一般公表されている取引先名・住所であっても、それらが他の情報と一体となって管理され全体として非公知といえる場合には非公知性(C)を満たしうる。「満たすことができない」と断定するのは誤り。
- ウ(×):秘密管理性(D:アクセス制限)の要件を満たし営業秘密として管理されている情報を、創作者である部長丙氏であっても第三者へ自由に開示できるわけではない。守秘義務に反する開示は許されず、誤り。
- エ(○):デジタルデータについて、パスワード設定でアクセスできる者を限定し、保存先データベースを外部ネットワークから遮断する等の措置をとることで、秘密管理性(E:客観的に秘密と認識でき管理されていること)の要件を満たすことができる。正しい。
よって 設問1=エ、設問2=ア、設問3=エ。