第1章 簿記の基礎と決算

この章のねらい 財務・会計という科目は、大きく分けて「①簿記・会計のしくみ(帳簿づけ〜決算)」→「②財務諸表を読む・分析する」→「③意思決定に使う(ファイナンス・原価計算)」という順で積み上がっていきます。 その いちばん土台になるのが本章「簿記の基礎と決算」 です。仕訳のルール、帳簿の流れ、そして年に一度の「決算」で何をするのか。ここが分かっていないと、第2章以降の財務諸表も、経営分析の数字も、"どこから出てきた数字か"がずっと霧の中になってしまいます。

過去問での出方:財務・会計は例年 第1問〜第5問あたりが簿記・決算・会計基準 の出題枠です。ここは ① 仕訳を選ぶ/取引を推定する問題(H24第1問・H27第5問・R02第2問・R05第2問)、 ② 決算整理をして純損益を出す計算問題(H21第1問)、 ③ 精算表・勘定記入の穴埋め(H19第2問・H22第3問)、 ④ 経過勘定・会社法の知識問題(H19第3問・R07第2問) という4タイプが繰り返し出ます。パターンが決まっている=勉強すれば必ず取れる、得点源にしやすい分野です。


1-0 この章の地図

この章は、「日々の記録(仕訳)」→「帳簿への集計」→「決算で1年を締める」という、簿記の一年間の流れ(=簿記一巡)に沿って進みます。まず全体像をつかみましょう。

1-1 複式簿記の仕組み        … 取引→仕訳→転記→試算表(記録のルール)
   │  (借方・貸方/貸借は必ず一致する/簿記一巡の手続き)
   │
1-2 発生主義と実現主義      … 「いつ」費用・収益を計上するか
   │  (現金主義との違い/費用収益対応の原則)
   │
1-3 決算手続の流れ          … 試算表→決算整理→精算表→財務諸表
   │  (1年を締める作業の全体像)
   │
1-4 主な決算整理仕訳        … 減価償却・貸倒引当金・経過勘定(★頻出)
   │  (計算問題で必ず使う「決算の型」)
   │
まとめ → 対応過去問表 → 次章予告 ▶ 第2章

「1-1で記録のルール」「1-2でタイミングの考え方」「1-3・1-4で決算の実務」——この3ブロックを意識して読み進めてください。


1-1 複式簿記の仕組み

まず「簿記」とは何をすることか

簿記とは、ひとことで言えば

「会社のお金やモノの動き(=取引)を、決まったルールで帳簿に記録し、 最後に 財政状態(貸借対照表)経営成績(損益計算書) にまとめる技術」

です。中小企業診断士試験で扱うのは、この記録を 借方(かりかた)貸方(かしかた) の2面で書く「複式簿記」です。

  • 単式簿記:家計簿のように「現金がいくら増えた・減った」だけを記録する(お小遣い帳の発想)。
  • 複式簿記:1つの取引を 原因と結果の両面 で記録する。たとえば「商品を現金で買った」なら、〈仕入という費用が発生した/現金という資産が減った〉の両方を書きます。

💡 覚え方:借方=、貸方=。ひらがなの「かり」の"た"が左にはらう、「かし」の"た"…と覚える人もいますが、迷ったら「借方は左・貸方は右」とだけ丸暗記して先に進んで大丈夫です。

5つの要素と「増えたらどっち?」の大原則

すべての勘定科目は、次の 5つのグループ のどれかに入ります。そして「増えたとき借方・貸方のどちらに書くか」が決まっています。ここが複式簿記の心臓部です。

グループ 増えたとき 減ったとき 財務諸表
資産 現金・売掛金・商品・備品・建物 借方(左) 貸方(右) 貸借対照表・左
負債 買掛金・借入金・支払手形 貸方(右) 借方(左) 貸借対照表・右
純資産(資本) 資本金・繰越利益剰余金 貸方(右) 借方(左) 貸借対照表・右
費用 仕入・給料・支払家賃・支払利息 借方(左) 貸方(右) 損益計算書・左
収益 売上・受取利息・受取手数料 貸方(右) 借方(左) 損益計算書・右
  • 資産と費用は「増えたら借方(左)」負債・純資産・収益は「増えたら貸方(右)」 ——この対称性をまず頭に入れます。
  • 貸借対照表は「左=資産/右=負債・純資産」、損益計算書は「左=費用/右=収益」。財務諸表の左右と、増えたときの左右が一致しているのがポイントです。

仕訳のやり方 ― 3ステップ

「取引を借方・貸方に振り分けて書くこと」を 仕訳(しわけ) といいます。手順はいつも同じ3ステップです。

ステップ① その取引で「何が」「増えた/減った」かを2つ以上見つける ステップ② それぞれが5グループのどれかを判定する ステップ③ 上の表に従って、増減を借方・貸方に振り分ける(借方合計=貸方合計になるよう金額を置く)

例:商品30,000円を掛けで仕入れた(代金は後払い)

  • 「仕入」という費用が発生(増加)→ 費用の増加は借方
  • 「買掛金」という負債が発生(増加)→ 負債の増加は貸方
(借)仕 入 30,000  (貸)買掛金 30,000

例:商品を50,000円で売り上げ、代金は現金で受け取った

  • 「現金」という資産が増加→ 借方
  • 「売上」という収益が発生(増加)→ 貸方
(借)現 金 50,000  (貸)売 上 50,000

つまずきポイント:「仕訳から取引を逆に読む」問題

試験では、仕訳を見せて「この仕訳になる取引はどれか」を選ばせる問題が繰り返し出ます(H24第1問・H27第5問)。逆算のコツは、借方・貸方の科目が"何グループの増減か"を先に言語化することです。

たとえば 「(借)仕入 500,000/(貸)支払手形 500,000」 なら——

  • 借方「仕入」=費用の発生 → 商品を仕入れた取引
  • 貸方「支払手形」=負債の発生 → 自分が支払義務を負う手形を振り出した取引

したがって「商品を仕入れ、(自己宛の)手形を振り出して支払債務を負った」取引が正解になります。掛け仕入なら貸方は「買掛金」になるはずで、支払手形は立ちません——ここが引っかけです。

📝 過去問はこう出る(H27 第5問) 「(借)仕入 500,000/(貸)支払手形 500,000」になる取引を選ぶ問題。 正解は 「商品を仕入れ、代金として自己宛為替手形を振り出した」(=自社が支払人なので支払手形が生じる)。 「掛けで仕入れた」(→貸方は買掛金)、「為替手形を振り出し得意先の引受けを得て仕入先に渡した」(→自社は支払人でなく支払手形は生じない)などは、貸方科目が支払手形にならないのでバツ。 → H27 第5問

📝 過去問はこう出る(H24 第1問) 「(借)仕入 400,000/(貸)売掛金 400,000」の説明を選ぶ問題。正解は 「商品を仕入れ、為替手形を振り出し、得意先(自社に売掛金がある相手)の引受けを得て仕入先に渡した」。 為替手形で得意先が支払人になると、自社の売掛金が減る(=貸方・売掛金)というやや難しい論点ですが、 「掛売り商品の返品を受けた」なら借方は売上になるはず、と考えれば消去法で絞れます。 → H24 第1問

転記と勘定 ― 仕訳を科目ごとに集める

仕訳しただけでは「現金は今いくら?」が分かりません。そこで、仕訳を 勘定(かんじょう) という科目ごとの箱に書き写します。この書き写しを 転記(てんき) といいます。勘定はよく T字形(Tフォーム) で表します。

        現 金
─────────┬─────────
(借方=増加側)│(貸方=減少側)
  50,000     │
  • 帳簿には主に、仕訳を日付順に記録する「仕訳帳」 と、科目ごとに集計する「総勘定元帳」 があります。この2つを 主要簿 と呼び、簿記の背骨です。
  • それを補う 補助簿(現金出納帳・売上帳・得意先元帳など)もあります。
  • 特殊仕訳帳(現金出納帳や売上帳を仕訳帳として使う仕組み)を導入すると、一定期間の合計をまとめて総勘定元帳へ移す「合計転記」ができます。普通仕訳帳だけなら取引ごとの「個別転記」です。

📝 過去問はこう出る(H22 第1問) 主要簿・補助簿の帳簿組織を問う問題。正解の組み合わせは 「特殊仕訳帳では合計転記と個別転記が併存する」+「普通仕訳帳のみなら個別転記される」。 「特殊仕訳帳の取引は普通仕訳帳にも重複して記録する」は二重計上になるので誤り、 「普通仕訳帳のみで合計を一括転記する」も誤り(合計転記は特殊仕訳帳の特徴)。 → H22 第1問

貸借は必ず一致する(貸借平均の原理)と試算表

複式簿記では、1つの取引で借方と貸方に同じ金額を書きます。したがって、すべての取引を集計すると「借方合計=貸方合計」が必ず成り立ちます。これを 貸借平均の原理 といいます。

この性質を使って、転記が正しいかを途中でチェックする表が 試算表(しさんひょう) です。総勘定元帳の各勘定残高を集めて、「借方合計=貸方合計」になっていれば、少なくとも金額のズレはない、と確認できます。

簿記一巡の手続き ― 1年間の流れ

ここまでを1年の流れに並べると、次のようになります。これを 簿記一巡(ぼきいちじゅん)の手続き といい、本章全体の骨組みです。

【期中】 取引 → 仕訳(仕訳帳)→ 転記(総勘定元帳)
                                   ↓
【決算】 試算表を作る(記録のチェック)
          ↓
        決算整理(後述の減価償却・貸倒引当金・経過勘定など)
          ↓
        精算表で整理 → 損益計算書・貸借対照表を作成
          ↓
        帳簿を締め切る(次期繰越)

期中は「仕訳→転記」の繰り返し、期末(決算)で「試算表→決算整理→財務諸表」——この2つのリズムをつかんでください。1-3・1-4は、この後半(決算)を詳しく見ていきます。


1-2 発生主義と実現主義(費用収益対応の原則)

「いつ」計上するか、という論点

簿記の記録には「いつその費用・収益を計上するか」という時間の問題がつきまといます。ここには2つの立場があります。

立場 いつ計上するか
現金主義 現金を 受け取った/払った ときに計上 家計簿の発想。分かりやすいが期間損益がゆがむ
発生主義 現金の動きと関係なく、その期に発生した事実 で計上 今の企業会計の原則的な考え方

発生主義が原則です。たとえば「12月に電気を使い、料金は翌1月払い」でも、使った12月の費用として計上します。現金の出入りではなく「発生した事実」でとらえるのがポイントです。

収益は「実現主義」で ― もう一歩慎重に

費用は発生主義でよいのですが、収益(売上)は、より慎重に「実現主義」で計上します。 「実現」とは、ざっくり言えば ①商品・サービスを引き渡し、②その対価として現金や売掛金などを受け取った(受け取れる状態になった) こと。まだ売れてもいない商品を「値上がりしそうだから」と勝手に利益にはしない、という歯止めです。

⚠️ 混同注意費用は「発生主義」/収益は「実現主義」。 収益のほうが一段厳しい(=実現するまで待つ)、という非対称をまず押さえましょう。

※現行基準では「収益認識に関する会計基準」

なお、現行基準では、収益は「収益認識に関する会計基準」により、履行義務(お客さんに約束したこと)を果たした時点で認識するという考え方に整理されています。実現主義をより精緻にしたものと理解しておけば十分です。試験でも近年この基準の仕訳が出ています(R05第2問。1-4末のコラムで扱います)。

費用収益対応の原則

発生した費用と、それに対応する収益は、同じ期間に対応させて損益を計算する——これが 費用収益対応の原則 です。

  • たとえば「今期売れた商品」の売上(収益) には、その「売れた商品の仕入原価(費用)」を対応させます。まだ売れ残っている在庫の原価は、当期の費用にはしません(次期に繰り越す)。
  • これが、後で出てくる 売上原価=期首商品+当期仕入−期末商品 という計算の根っこです。

💡 ここが決算整理につながる:「発生したのに未記帳の費用・収益」「払ったが来期分の費用」などを期末に調整するのが、1-4で学ぶ 経過勘定 です。発生主義・費用収益対応を"帳簿の上で実現する"ための作業、と考えるとつながります。


1-3 決算手続(試算表・決算整理・精算表)

決算とは「1年を締めて成績表を作る」作業

決算とは、期末に帳簿を締め切り、貸借対照表(財政状態)損益計算書(経営成績) を作る一連の手続きです。おおまかな流れは次のとおりです。

① 決算整理前残高試算表 … 期中の記録を集計(まだ調整前)
        ↓
② 決算整理仕訳       … 減価償却・貸倒引当金・経過勘定・売上原価の算定 など
        ↓
③ 決算整理後残高試算表 … 調整後の正しい残高
        ↓
④ 精算表           … ①〜③をヨコに並べて財務諸表へ振り分ける集計表
        ↓
⑤ 損益計算書・貸借対照表の作成/帳簿の締切

精算表 ― 決算の全体像が1枚でわかる表

精算表(せいさんひょう) は、「残高試算表+修正記入(決算整理)=損益計算書・貸借対照表」という流れを1枚の表で見せる集計表です。列が「残高試算表/修正記入/損益計算書/貸借対照表」と並び、各行(勘定科目)の金額を左から右へ振り分けていきます。

              残高試算表   修正記入   損益計算書  貸借対照表
勘定科目       借  貸     借  貸     借  貸    借  貸
─────────────────────────────────────────────
(費用の科目)… 借に残高          → 損益計算書の借方へ
(収益の科目)… 貸に残高          → 損益計算書の貸方へ
(資産の科目)… 借に残高          → 貸借対照表の借方へ
(負債・純資産)… 貸に残高          → 貸借対照表の貸方へ
  • 当期純利益 は、精算表では特徴的な入り方をします。
  • 損益計算書では「借方」(費用側)に「当期純利益」として書き、収益>費用の差額を埋めて左右を一致させる。
  • 貸借対照表では「貸方」(純資産側)に書き、資産>(負債+資本)の差額を埋めて一致させる。
  • つまり利益が出ているとき、金額が入るのは 損益計算書・借方貸借対照表・貸方 のペアです。ここは狙われます。

📝 過去問はこう出る(H19 第2問) 精算表の空欄穴埋め。3つの設問がそれぞれ簿記の核心を突いています。 - 設問1:売上総利益から売上原価を逆算(売上原価=売上−売上総利益)し、そこから期首繰越商品を求める。 - 設問2:受取利息の未収分(経過勘定)を当期収益に加算する(B:受取済10+未収5=C:15)。 - 設問3当期純利益が入る位置を問う。正解は 「損益計算書・借方(D)」と「貸借対照表・貸方(G)」。 精算表は「どの科目がどの列に流れるか」を体で覚えれば失点しません。 → H19 第2問

売上原価の算定(三分法)

商品売買を「仕入・売上・繰越商品」の3勘定で処理するのが 三分法 です。決算では、期中の「仕入」を 売上原価 に直す整理が必要です。公式はひとつだけ。

売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高

  • 期首の在庫(去年の売れ残り)は当期に売られた可能性があるので加える
  • 期末の在庫(今年の売れ残り)はまだ売れていないので差し引く(→次期へ繰り越す)。
  • これが前述の「費用収益対応の原則」の具体化です。

例:期首商品6,000/当期仕入57,000/期末商品8,000のとき

売上原価 = 6,000 + 57,000 − 8,000 = 55,000

売上が68,000なら、売上総利益=68,000 − 55,000 = 13,000 となります。


1-4 主な決算整理仕訳(減価償却・貸倒引当金・経過勘定)

決算整理は「型」が決まっています。ここで扱う ①減価償却 ②貸倒引当金 ③経過勘定 の3つは、計算問題でも知識問題でも最頻出です。仕訳の形ごと覚えてしまいましょう。

① 減価償却 ― 固定資産の価値を毎年少しずつ費用にする

建物・備品・機械などの 固定資産 は、使ううちに価値が下がっていきます。その価値の減少分を、毎年少しずつ費用にする手続きが 減価償却 です。試験の中心は 定額法(毎年同じ額を費用にする方法)です。

定額法の年間償却費 =(取得原価 − 残存価額)÷ 耐用年数

  • 取得原価:買ったときの値段
  • 残存価額:使い終わったときに残ると見込む価値(「取得原価の10%」などと指定される。※現行の税制では残存価額ゼロで計算する方法が主流ですが、試験では問題文の指定に従います)
  • 耐用年数:何年使えると見込むか

例:取得原価12,000/残存価額は取得原価の10%/耐用年数8年(定額法)

年間償却費 =(12,000 − 12,000×0.1)÷ 8 =(12,000 − 1,200)÷ 8 = 10,800 ÷ 8 = 1,350

仕訳は、費用(減価償却費)を計上し、資産のマイナスを表す 減価償却累計額 を積み上げる形(間接法)が基本です。

(借)減価償却費 1,350  (貸)減価償却累計額 1,350

⚠️ つまずき注意:定額法は毎年の額が一定です。「取得後4年経過」などと書いてあっても、当期に費用にするのは1年分だけ。経過年数は"累計額がいくらか"の話であって、当期償却費は年額そのままです。

② 貸倒引当金 ― 回収できないかもしれない額を前もって見積もる

売掛金や受取手形などの 売上債権 は、取引先の倒産などで回収できなくなることがあります。そこで、期末に「このくらいは回収できないだろう」という額を見積もって費用にしておくのが 貸倒引当金 です。

  • 設定額 = 売上債権の期末残高 × 貸倒実績率(設定率)
  • 診断士試験で主流なのは 差額補充法「設定すべき額」と「すでにある残高」の差額だけを繰り入れる方法。

繰入額 = 設定すべき額 − 決算整理前の貸倒引当金残高

例:売上債権=受取手形3,000+売掛金21,000=24,000/設定率5%/既存残高300(差額補充法)

設定すべき額 = 24,000 × 5% = 1,200 繰入額 = 1,200 − 300 = 900

(借)貸倒引当金繰入 900  (貸)貸倒引当金 900

⚠️ 混同注意:差額補充法 vs 洗替法 - 差額補充法:差額だけを繰り入れる(戻入は原則生じない)。 - 洗替法:期首にいったん全額を戻し入れ(貸倒引当金戻入)、あらためて全額を繰り入れる。 「戻入と繰入を両建て」している選択肢は洗替法の考え方。差額補充法の問題ではバツです。

📝 過去問はこう出る(R02 第2問) 差額補充法での貸倒引当金の仕訳を選ぶ問題。売上債権に受取手形も含めるのがポイントで、 売掛金21,000+受取手形3,000=24,000 × 5%=1,200、既存300を引いて 繰入900。 正解は (借)貸倒引当金繰入 900/(貸)貸倒引当金 900。 売掛金だけで計算した「750」、戻入を両建てした選択肢はすべて誤り。 → R02 第2問

③ 経過勘定 ― 発生主義に合わせて「期ずれ」を調整する

家賃や利息のように、支払い・受取りの時期と、実際にサービスを使う期間がズレるものがあります。発生主義に合わせるため、期末に当期分だけを損益に含める調整が 経過勘定 です。4つあり、「費用か収益か」×「前か後か」 のマトリクスで整理できます。

名称 どんな状態か 期末の処理 BS上の分類
前払費用 費用を先に払った(来期分を含む) 当期費用から除く(繰延べ) 資産
前受収益 収益を先に受け取った(来期分を含む) 当期収益から除く(繰延べ) 負債
未払費用 費用が発生済だが未払い 当期費用に加える(見越し) 負債
未収収益 収益が発生済だが未回収 当期収益に加える(見越し) 資産
  • 「前」がつく=先に受払い済み → 来期分を今期から追い出す(繰延べ)
  • 「未」がつく=まだ受払いしていない → 発生済み分を今期に呼び込む(見越し)
  • BS分類のコツ「前払・未収=資産」/「前受・未払=負債」。自分が"あとで得する側(払い過ぎ・もらい損ね)"が資産、"あとで果たす義務がある側"が負債、と考えると覚えやすいです。

例:家賃の前払い額400/利息の未払い額200

(借)前払家賃 400  (貸)支払家賃 400   … 来期分を当期費用から除く
(借)支払利息 200  (貸)未払利息 200   … 発生済の利息を当期費用に加える

📝 過去問はこう出る(H19 第3問) 経過勘定の穴埋め。「役務を提供する側が、まだ提供していない役務の対価を先に受け取った」ケースは 前受収益。当期の収益から除去(繰延べ)し、貸借対照表の負債の部に計上します(正解ウ)。 「役務を受ける側」なら前払費用(資産)、「既に提供したが未回収」なら未収収益(資産)—— 主語(提供する側/受ける側)と時制(前/未)を取り違えさせる問題です。 → H19 第3問

📝 過去問はこう出る(H22 第3問) 受取利息勘定の勘定記入(経過勘定+損益振替)の穴埋め。正解は A:未収利息/B:損益/C:未収利息。 ポイントは、①前期末に見越計上した未収利息を当期首に受取利息へ再振替する(A)、 ②期末に収益総額を損益勘定へ振り替える(B、収益は繰越記入せず損益へ)、 ③当期未収分を見越計上する相手が未収利息(C)、という勘定の流れ。 → H22 第3問

決算整理を全部使う「純損益の算定」総合問題

以上の決算整理(売上原価・貸倒引当金・減価償却・経過勘定)を 一気に反映して当期純損益を出す のが、計算問題の王道です。手順は次のとおり。

ステップ① 売上総利益を出す:売上 −(期首商品+当期仕入−期末商品) ステップ② 販管費等を集計する(給料、減価償却費、貸倒引当金繰入、経過勘定で調整した家賃・利息…) ステップ③ 売上総利益 − 販管費等 = 当期純損益

📝 過去問はこう出る(H21 第1問) 決算整理前残高試算表+決算整理事項から当期純損益を求める総合問題。 売上原価の確定、貸倒引当金繰入、減価償却、家賃の前払・利息の未払(経過勘定)をすべて正しく反映すると、 販管費等が売上総利益を上回り、公式正解は 損失(当期純損失)。 「経過勘定や貸倒・減価償却を反映し忘れると"利益"が出てしまう」——決算整理の入れ忘れが不正解の正体です。 → H21 第1問

※現行基準のトピック:収益認識と会社法の帳簿

決算・簿記の周辺では、次の2つも近年出題されています。あわせて押さえましょう。

(a)収益認識(契約資産・契約負債) — ※現行基準では 「収益認識に関する会計基準」では、履行義務を果たした(引き渡した)時点で売上を計上します。このとき、代金を請求する権利がまだ「条件付き」(残りの引渡し待ちなど)の場合は、売掛金ではなく 契約資産 で計上します。逆に、先に代金だけ受け取った場合は 契約負債(前受け)です。

📝 過去問はこう出る(R05 第2問) 商品B・Cを別々の履行義務として販売し、代金は両方の引渡し後に請求する取引。 Bを先に引き渡した時点では、売上25,000を認識しつつ請求権は条件付きなので (借)契約資産/(貸)売上。 Cも引き渡して請求権が確定した時点で (借)売掛金/(貸)契約資産・売上 と振り替えます(正解ア)。 先に受け取っていない以上「契約負債」で処理する選択肢は誤り、という点が急所です。 → R05 第2問

(b)会社法の計算書類・会計帳簿 決算で作る書類は、法律上のルールもあわせて問われます。

  • 計算書類=貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書個別注記表(「包括利益計算書」は含まれない)。
  • 会計帳簿の保存期間=閉鎖の時から 10年間
  • 会計帳簿は電磁的記録でもよい(「書面で作成しなければならない」は誤り)。
  • 取締役会設置会社は、定時株主総会の招集通知に際し、取締役会の承認を受けた計算書類を株主に提供する。

📝 過去問はこう出る(R07 第2問) 会社法上の計算書類・会計帳簿の知識問題。正解は 「取締役会設置会社は招集通知に際して承認済みの計算書類を株主に提供しなければならない」(エ)。 「保存期間は3年」(正しくは10年)、「計算書類に包括利益計算書が含まれる」(含まれない)、 「会計帳簿は書面で作成しなければならない」(電磁的記録も可)はすべて誤り。数字と用語の細部が勝負です。 → R07 第2問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 複式簿記=取引を 借方(左)・貸方(右) の両面で記録する
  • ☐ 5要素の増加の向き:資産・費用は借方/負債・純資産・収益は貸方
  • ☐ 仕訳→転記→試算表という流れ(簿記一巡)。仕訳から取引を逆算する問題は科目のグループ・増減を先に言語化
  • 貸借平均の原理:借方合計=貸方合計は必ず一致 → 試算表でチェック
  • ☐ 主要簿=仕訳帳・総勘定元帳/特殊仕訳帳は合計転記、普通仕訳帳のみは個別転記
  • ☐ タイミング:費用は発生主義/収益は実現主義(現行基準では収益認識基準=履行義務の充足)
  • 費用収益対応の原則売上原価=期首商品+当期仕入−期末商品
  • ☐ 決算の流れ:試算表 → 決算整理 → 精算表 → 財務諸表
  • ☐ 精算表で当期純利益が入るのは 損益計算書・借方貸借対照表・貸方
  • ☐ 減価償却(定額法)=(取得原価−残存価額)÷耐用年数(当期分は毎年一定・1年分だけ)
  • ☐ 貸倒引当金(差額補充法)=設定額−既存残高。売上債権には受取手形も含める/戻入両建ては洗替法
  • ☐ 経過勘定4種:前払・未収=資産/前受・未払=負債。「前」=繰延べ、「未」=見越し
  • ☐ 収益認識:条件付きの請求権は契約資産、前受けは契約負債
  • ☐ 会社法:計算書類に包括利益計算書は含まない/会計帳簿の保存は10年

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H19 第2問 精算表(売上原価・経過勘定・純利益の位置) 問題
H19 第3問 経過勘定項目(前受収益) 問題
H21 第1問 決算整理と当期純損益の算定 問題
H22 第1問 帳簿組織(主要簿・補助簿・特殊仕訳帳) 問題
H22 第3問 経過勘定の勘定記入(受取利息) 問題
H24 第1問 仕訳からの取引推定(為替手形) 問題
H27 第5問 仕訳からの取引推定(支払手形) 問題
R02 第2問 貸倒引当金の仕訳(差額補充法) 問題
R05 第2問 収益認識(契約資産・履行義務) 問題
R07 第2問 会社法の計算書類・会計帳簿 問題

次章予告 ▶ 第2章「財務諸表の基礎(貸借対照表・損益計算書)」 本章で作った決算書を、いよいよ「読む」段階に進みます。貸借対照表・損益計算書の構造、 資産・負債の分類(流動/固定)、利益の5段階(売上総利益〜当期純利益)など、 経営分析(第3章)の土台となる財務諸表の読み方を身につけます。