第3問
いわゆる濫用的会社分割に関する以下の会話は、中小企業診断士であるあなた と、顧客であるX 株式会社の代表取締役甲氏との間で行われたものである。X 株 式会社がA 設備株式会社に対して売掛金を請求する場合の法的根拠として、最も 適切なものを下記の解答群から選べ。なお、以下の会話中、A 社とはA 株式会社 のことをいう。 甲 氏:「取引先のA 社から、支払いがなくなったんですよ。それであわてて、A 社の本社に行ってみたら、A 社という会社の看板はなくなっていて、代 わりに、A 社と全く同じ設備、同じ人で、名前だけがA 設備株式会社と いう名前になって、同じ営業をしていたんです。それでどういうことだと 思って話を聞いてみたら、会社分割という方法を使って、今度からはA 設備株式会社がここで営業をする、と言うんですよ。 それなので、うちの売掛金も払ってもらえるもんだと思って話をしてみた ら、A 設備株式会社は、A 社とは別の会社だから支払えない、A 社は閉 めてしまった、と言うんです。」 あなた:「それはやられましたね。濫用的会社分割などと言われているものだと思 います。」 甲 氏:「濫用的会社分割…。それはどういったものですか。」 あなた:「資産を別会社に移して、従来の負債はそのまま元の会社に残しておいて、 実質的に債務を免れるものです。」 甲 氏:「どうしてそんなことができるんですか。債権者に連絡したりしないとい けないんじゃないですか。」 あなた:「元の会社が負債の全部の支払を引き受けるときには、元の会社の債権者へ の連絡はいらないんですよ。今回の場合も、A 社が全部の債務を負うとい うことにしていれば、何の連絡もなく、会社分割ができてしまうんですよ。」 甲 氏:「そうすると、彼らの言うとおり、もうA 設備株式会社には請求ができな いということですか。」 あなた:「いえ、必ずしもそうではありません。何か方法があるはずです。知り合 DKJC-1E 4 いの弁護士を紹介しますから相談してみてください。」 V解答群X
- ア 債権者代位
- イ 詐害行為取消権
- ウ 併存的債務引受
- エ 連帯保証
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正解:イ
解答:イ
〔リード〕事案は「いわゆる濫用的(詐害的)会社分割」。A社が優良な資産・事業をA設備株式会社へ移転(会社分割)し、債務はA社に残置して、A社に対する債権者(X社の売掛金)を害する典型例である。会話では「元の会社(A社)が負債の全部を引き受けるので債権者保護手続(債権者異議)が不要」とされており、X社は会社分割の手続上の異議申立てができない。そこで、債権者を害する財産の移転(会社分割という法律行為)を取り消して、移転先のA設備株式会社に責任を追及できる手段が求められる。本問出題時(H24=2012年)には、最判平成24年10月12日が、詐害的会社分割について残存債権者は民法424条の詐害行為取消権を行使し得ると判示しており、これが法的根拠となる(※その後、平成26年会社法改正で残存債権者が承継会社へ直接履行請求できる規定〔会社法759条4項等〕が新設されたが、H24当時は詐害行為取消権による処理が基本)。
- ア(×):債権者代位権(民法423条)は、債務者が自らの権利を行使しない場合に債権者が代位行使する制度。A社が第三者に対して有する権利を代位行使する場面ではなく、財産移転自体を覆して移転先へ請求する本件には適合しない。
- イ(○):詐害行為取消権(民法424条)。債務者A社が債権者を害することを知って行った財産処分行為(会社分割による資産移転)を取り消し、受益者であるA設備株式会社に対して売掛金相当の責任追及をする根拠となる。濫用的会社分割の被害債権者の救済手段として最も適切。
- ウ(×):併存的(重畳的)債務引受は、第三者が債務者と並んで債務を負う合意。A設備株式会社が任意に債務を引き受ける合意は本件にはなく、X社が一方的に請求する根拠とはならない。
- エ(×):連帯保証は、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負う保証契約。A設備株式会社がX社の売掛金を保証した事実はないため根拠にならない。
よって イ。