令和8年度 第2次試験 予想問題 事例Ⅱ
与件文
1B社は、Y県X市に店舗を構える日本茶の専門店である。創業は1926年(大正15年)で、現在の社長は3代目にあたる。資本金1,000万円、従業員は10名(社長夫妻、正社員3名、パートタイマー5名)、直近の年商は約1億2,000万円である。
2X市は人口約8万人の地方都市であり、江戸期の城下町の町並みが市の中心部に残されている。市内には、老舗の和菓子店、陶器店、着物のレンタル店などが軒を連ね、行政もこの一帯を「歴史的町並み保存地区」として整備してきた。市を代表する観光資源は城跡と町並みであり、これまでの来訪者は主に県内および近隣県からの日帰り客であった。
3B社の事業の柱は、日本茶の小売である。B社は、県内の茶産地から荒茶を直接仕入れ、自社の焙煎機で火入れを行い、複数の茶葉を独自に配合して商品化している。この焙煎とブレンドの技術は初代から受け継がれてきたもので、社長は「同じ茶葉でも、火の入れ方で味は別物になる」と語る。B社の煎茶は、地元の茶の品評会で複数回の入賞歴があり、市内では「B社の茶は間違いない」という評価が定着している。
4販売チャネルは3つある。第1は本店での対面販売で、売上の約60%を占める。量り売りを基本とし、社長や店員が客の好みを聞きながら茶葉を選ぶ接客が特徴である。第2は卸売で、売上の約30%を占める。市内の旅館5軒と飲食店12軒に対し、業務用の茶葉を継続的に納入している。第3は自社ECサイトで、売上の約10%にとどまる。ECサイトは5年前に開設したが、商品写真と価格を並べただけの構成で、更新はほとんど行われていない。
5本店の2階には、10席ほどの喫茶スペースが併設されている。抹茶と季節の和菓子のセット、抹茶パフェなどを提供しており、休日には満席となることも多い。ただし平日の利用は少なく、稼働率は総じて低い。
6B社の顧客の中心は、市内在住の60代以上の女性である。長年にわたり贈答用と自家用の茶を購入し続けてくれる固定客であり、B社の経営を支えてきた。しかし社長は近年、この層の購入頻度が落ちていることを実感している。高齢化により来店が難しくなる顧客や、贈答の習慣そのものが薄れつつあることが背景にある。B社が保有する顧客情報は、購入時に手書きの台帳へ記入する氏名・住所と、購入した商品名・金額の記録のみであり、それがどのように活用されているわけでもない。
7市場環境も厳しい。全国的に、急須で淹れるリーフ茶の消費量は長期的な減少傾向にある一方、ペットボトル飲料の緑茶の消費は伸び続けている。3年前には、市の郊外に大型ショッピングセンターが開業し、全国チェーンの日本茶専門店が出店した。同店は品揃えが広く、パッケージのデザイン性も高い。また、市内のドラッグストアでは、100g当たりB社の3分の1程度の価格の茶葉が販売されている。
8一方で、明るい変化もある。2年前に完了した駅前の再開発を機に、古民家を改装したカフェや雑貨店が町並み保存地区に相次いで出店し、20代から30代の若い来訪者が増えた。さらに、この1〜2年で外国人観光客が目に見えて増加している。近隣の空港に国際線が就航したことに加え、海外での日本食ブームを背景に「抹茶」が世界的な人気を集めていることが影響しているとみられる。B社の店頭にも、欧米やオーストラリアからの個人旅行客が立ち寄るようになった。彼らは店内の茶葉を熱心に見て回るものの、商品説明が日本語のみであること、また量り売りの単位が大きいことから、購入に至らないまま店を出ていくことが少なくない。抹茶を指差して「これはどうやって飲むのか」と尋ねられることも多いという。
93代目社長の長女(38歳)は、5年前にB社に入社し、ECサイトとSNSの運用を担当している。彼女が2年前に始めた、茶畑や焙煎作業の様子を紹介するSNSアカウントは、フォロワーが1万人を超えた。投稿への反応は良く、「きれい」「飲んでみたい」というコメントも多く寄せられる。しかし、ECサイトの売上は開設時からほとんど変わっていない。ECサイトで一度購入した顧客のうち、2回目の購入に至る割合は約15%にとどまっており、長女はこの数字を課題と感じている。
10最近、X市の商工会議所から、町並み保存地区の事業者に対して「個店ではなく地区全体で来訪者をもてなす取り組みを考えたい」という呼びかけがあった。すでに和菓子店、陶器店、着物レンタル店などが関心を示している。B社社長は、この呼びかけを機に、地域の他業種と連携した新たな取り組みを検討したいと考えている。
11B社社長は、「先代から受け継いだ茶の味を守りながら、次の100年に向けて顧客を作り直したい」と語り、中小企業診断士に助言を求めることにした。
設問
現在のB社の状況について、SWOT分析をせよ。各要素について、①〜④の解答欄にそれぞれ40字以内で説明すること。
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① 強み(S)地元産茶葉の自社焙煎・ブレンド技術、100年の老舗ブランド、喫茶併設店舗と卸先。(40字)
② 弱み(W)顧客が60代以上に偏り、顧客情報は購入履歴のみ。SNSが購買に結び付かない。(38字)
③ 機会(O)駅前再開発で若年層と外国人観光客が増加、海外で抹茶人気。近隣に和菓子店等が集積。(40字)
④ 脅威(T)リーフ茶消費の減少とペットボトル普及、郊外SCの全国チェーンや低価格茶との競合。(40字)
型① 現状分析事例ⅡのSWOTは、令和元年・2年・3年・6年度と繰り返し出題されている定番です。与件の事実を4つの箱に仕分けるだけの作業ですが、後続の設問すべての土台になります。
STEP1/内部と外部を機械的に切り分けるSWOTで最も多いミスは、機会(O)に自社の取り組みを書いてしまうことです。判定基準はシンプルで、「B社が努力してもコントロールできないもの」が外部(O・T)、「B社が持っているもの」が内部(S・W)です。
- 「海外で抹茶が人気」→ B社にはどうにもできない → 機会
- 「SNSのフォロワーが1万人」→ B社が作った資産 → 強みとも読めますが、購買に結び付いていないので、解答例では弱み側に寄せています。どちらに置くかより、「フォロワーはいるが売れていない」という因果を書けているかが重要です。
第2問はインバウンド、第3問は顧客情報、第4問は地域協業を問うています。したがってSWOTには、それぞれの伏線を入れておくのが理想です。
- 機会に「外国人観光客の増加」「近隣に和菓子店等が集積」を入れる → 第2問・第4問の根拠になる
- 弱みに「顧客情報は購入履歴のみ」を入れる → 第3問の根拠になる
2次試験のSWOTは「網羅する」ものではなく、事例全体のストーリーに効く要素を選ぶものだと考えてください。
STEP3/40字への圧縮40字では2〜3要素が上限です。「〜という強みがある」といった述語は削り、名詞の羅列+読点で構成します。数字(60代、100年)は短くて情報量が多いので、優先的に入れます。
B社の店頭には外国人観光客が立ち寄るようになったが、購入に至らないまま退店する者が少なくない。B社は、この状況を改善し、外国人観光客を新たな顧客として取り込みたいと考えている。ターゲットとする客層を明確にしたうえで、店頭においてどのような商品・サービスを提供すべきか、100字以内で助言せよ。
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ターゲットは抹茶に関心を持つ欧米豪の個人旅行客。①店内で点て方を学べる実演・試飲体験を提供し、②少量で持ち帰りやすい抹茶や茶器の土産用小分け商品を多言語表示で販売し、購買と口コミを促す。(93字)
型④ 助言・提案事例Ⅱの主力設問です。「ターゲットとする客層を明確にしたうえで」という切り口指定が入っている点に注目してください。過去問でも平成28年度「ターゲット層を明確にしたうえで」、平成30年度「今後のメインターゲット層を明確にして」、令和3年度「ターゲットを明確にした上で」と繰り返し使われています。
STEP1/ターゲットを1文目で言い切るこの指定がある場合、解答の冒頭でターゲットを明示するのが最も確実です。「ターゲットは〇〇である。」と書き切ってから施策に入ります。ターゲットを最後に書いたり、施策の中に埋め込んだりすると、採点者に伝わりにくくなります。
与件第8段落に「欧米やオーストラリアからの個人旅行客」「海外での日本食ブームを背景に抹茶が世界的な人気」とあるので、これをそのまま使います。与件に書かれた属性を勝手に広げない(例:「訪日外国人全般」としない)ことが大切です。
STEP2/「なぜ買わないのか」から施策を導く助言型の設問は、与件が原因を書いてくれていることが多くあります。第8段落を読むと、購入に至らない理由は3つ明記されています。
- 「商品説明が日本語のみ」→ 多言語表示・POP
- 「量り売りの単位が大きい」→ 少量・小分けのパッケージ商品(持ち帰りやすさも旅行者には重要)
- 「これはどうやって飲むのか」と尋ねられる → 飲み方がわからないので、実演・体験で解決する
この3つに1対1で対応させるだけで、施策は自然に決まります。思いつきの施策を書くのではなく、与件の障害を1つずつ取り除くのが事例Ⅱの正攻法です。
STEP3/B社の強みと結びつける施策は必ず自社の強みに紐づけます。B社の強みは「焙煎・ブレンド技術」と「好みを聞きながら選ぶ接客」(第4段落)です。だからこそ「実演・試飲体験」が効きます。単なる翻訳対応だけでは、郊外の全国チェーンでもできてしまい、差別化になりません。
STEP4/効果で締める「購買と口コミを促す」で締めています。訪日客はリピートしにくい層なので、SNSでの拡散や、帰国後のEC購入につながるという効果を書くと、施策の意義が明確になります。喫茶スペースの平日稼働率が低い(第5段落)ことに触れ、体験を平日の遊休スペースで実施すると書けば、さらに与件に即した解答になります。
B社は現在、顧客の氏名、住所、購入した商品名・金額のみを記録している。ECサイトで一度購入した顧客の再購入率を高めるために、どのような顧客情報を新たに蓄積し、どのように活用すべきか、150字以内で助言せよ。
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①購入履歴に加え、嗜好する茶種と濃さ、購入目的(自家用・贈答)、飲用頻度、誕生日、喫茶や体験の利用履歴を、会員登録と同梱アンケートで蓄積する。②これを基に、飲み終える時期を予測した再購入案内、嗜好に合う新茶や限定品の提案、贈答期の先行案内を配信する。以上で購入頻度と客単価を高め関係性を強化する。(148字)
型④ 助言・提案令和7年度事例Ⅱ第3問「どのような顧客情報を新たに蓄積し、どのように活用すべきか」とほぼ同型の設問です。顧客データの活用は近年の頻出論点であり、再出題の可能性が高いと考えて予想問題に組み込みました。
STEP1/設問文の2分割をそのまま骨格にする「どのような情報を蓄積し」「どのように活用すべきか」と、2つのことを聞かれています。解答も①蓄積 ②活用の2ブロックに分けます。片方しか書いていない解答は、それだけで半分の失点です。
STEP2/蓄積する情報は「行動」と「属性」に分けて考える顧客情報の引き出しは、次のように整理しておくと本番で出てきます。
- デモグラフィック:年代、性別、家族構成、誕生日・記念日
- 購買行動:購入頻度、購入金額、最終購入日(=RFM分析の3要素)、購入チャネル
- 嗜好・目的:好みの味・種類、自家用か贈答用か、贈答先
- 接点履歴:来店・イベント参加・問い合わせ、SNSの反応
B社の場合、茶葉は消費財なので必ず飲み終わるという特性があります。したがって「飲用頻度」を取ることで、次に買うタイミングを予測できるようになります。ここが最大の加点ポイントです。
STEP3/活用は「タイミング・内容・チャネル」で書く活用策は「メルマガを送る」だけでは弱く、誰に・いつ・何をまで書きます。
- いつ:飲み終える頃合い、贈答シーズンの直前、誕生日
- 何を:その顧客の嗜好に合う新茶・限定品、贈答セットの提案
- どうやって:メール、SNSのDM、同梱チラシ
「情報を蓄積する」と書くだけでは、どうやって集めるのかが不明です。解答例では「会員登録と同梱アンケート」と収集手段を明記しています。B社は手書き台帳(第6段落)なので、ECの会員登録機能に一本化するという運用面の助言も有効です。
STEP5/効果で締める設問文が「再購入率を高めるために」と目的を明示しているので、効果はその目的に対応させます。「購入頻度と客単価を高め関係性を強化する」=顧客生涯価値(LTV)の向上、という事例Ⅱの王道の締め方です。
B社社長は、商工会議所の呼びかけを受け、町並み保存地区の他業種との連携による新たな取り組みを検討している。どのような相手と、どのような連携を行うべきか。期待される効果と併せて、中小企業診断士として150字以内で助言せよ。
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①和菓子店・陶器店・着物レンタル店と協業し、着物で城下町を歩き、茶と和菓子を味わい器を選ぶ回遊型の体験プログラムを商工会議所と共同で企画する。②各店共通のクーポンとSNS投稿企画で相互送客する。以上で滞在時間と客単価を高め、地域のブランド価値向上と自社の新規顧客獲得を図る。(137字)
型④ 助言・提案協業・連携は、令和元年度事例Ⅱ第3問(商店街の他業種との協業)、令和4年度事例Ⅱ第4問(オンライン販売事業者との協業)など、繰り返し問われている論点です。
STEP1/設問文が要求する3点を確認する「どのような相手と」「どのような連携を」「期待される効果と併せて」の3点が明示されています。この3つが揃っていない解答は減点されます。解答を書き始める前に、3つの空欄を用意するイメージを持ってください。
STEP2/相手は与件から選ぶ(創作しない)与件第2段落と第10段落に「和菓子店、陶器店、着物のレンタル店」が明記され、しかも「すでに関心を示している」と書かれています。与件が用意した相手を使うのが鉄則で、「地元の大学と」「ホテルと」など与件にない相手を持ち出すと、実現可能性が疑われます。
STEP3/連携の中身は「顧客の1日」で設計する協業の設問で弱い解答になりがちなのは、「合同でイベントを開催する」で終わってしまうケースです。顧客がどう動くか(回遊)を具体的に描くと一気に説得力が出ます。
- 着物レンタル店で着替える → 町並みを歩く → B社で茶と和菓子(喫茶スペース活用) → 陶器店で急須・湯呑みを選ぶ
- この流れは、B社の遊休している平日の喫茶スペース(第5段落)を活かせるうえ、陶器店との組み合わせは茶器=茶葉の関連購買を生みます。
また、単発のイベントではなく継続する仕組み(共通クーポン、周遊マップ、共同のSNS発信)を入れると、「長期にわたり定着するか」という観点でも評価されます。
STEP4/効果は「自社」と「地域」の両方で書く設問文は商工会議所の「地区全体で来訪者をもてなす」という呼びかけが起点です。したがって効果も、自社の利益(新規顧客獲得・客単価向上)だけでなく、地域全体への効果(滞在時間の延長、地域ブランドの向上、相互送客)まで書くのが望ましい形です。過去問でも平成27年度事例Ⅱは「代表理事への助言」として、個店ではなく商店街全体の視点を求めていました。
STEP5/150字の配分150字は4〜5要素が目安です。解答例は「相手+連携内容(1要素)」「継続の仕組み(1要素)」「効果(2要素)」で構成しています。要素を増やしすぎて各記述が「連携する」「発信する」という動詞だけになると、点は伸びません。1つの施策を具体的に描き切るほうが有利です。