事例Ⅳ|財務・会計

令和8年度 第2次試験 予想問題 事例Ⅳ

中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅳ / 試験時間 80分 / 配点100点

⚠ 本問題は当サイトの創作(予想問題)です。実在の企業・団体とは関係ありません。実際の出題を予測・保証するものではありません。

与件文

1D社は、1965年に創業した金属部品製造業である。資本金5,000万円、従業員は120名、当期の売上高は2,400百万円である。主力事業は、自動車用の内燃機関に用いられる精密切削部品の製造であり、大手自動車部品メーカー2社を主要取引先としている。

2D社は、高い寸法精度が要求される部品の加工を得意としており、その品質は取引先から高い評価を受けている。この技術力を背景に、D社の売上高総利益率は同業他社を上回る水準を維持してきた。

3一方で、D社は課題も抱えている。第1に、設備である。D社は1990年代から2000年代にかけて、内燃機関部品の増産に対応するため、専用の加工設備を相次いで導入した。これらの設備は特定部品の加工に特化しているため他の用途への転用が難しく、近年の受注減少に伴って稼働率が低下している。第2に、財務体質である。これらの設備投資は主に金融機関からの借入によって賄われており、当期末においても多額の有利子負債が残っている。

4自動車産業では電動化の進展が見込まれており、内燃機関部品の需要は中長期的に縮小することが確実視されている。こうした環境変化を受け、D社は新たな収益の柱として、医療機器分野への参入を進めている。D社が有する精密切削技術は、内視鏡や手術器具の部品加工に応用可能であり、すでに一部の医療機器メーカーとの取引が始まっている。

5D社は現在、内燃機関向けの製品P(既存事業)と、医療機器向けの製品Q(新規事業)の2製品を製造・販売している。D社は、製品Qの拡大により事業構造の転換を図る方針であるが、そのためには新たな生産ラインへの投資が必要である。

6以下は、D社と同業他社の当期の財務諸表である。

財務諸表

貸借対照表(当期末) (単位:百万円)
資産の部D社同業
他社
負債・純資産の部D社同業
他社
<流動資産>9601,100<流動負債>720600
現金及び預金180260仕入債務300330
売上債権420480短期借入金340180
棚卸資産300280その他流動負債8090
その他流動資産6080<固定負債>1,020420
<固定資産>1,4401,000長期借入金1,020420
建物・構築物520380
機械装置480320負債合計1,7401,020
土地400250<純資産>6601,080
投資その他の資産4050
資産合計2,4002,100負債・純資産合計2,4002,100
損益計算書(当期) (単位:百万円)
科目D社同業他社
売上高2,4003,000
売上原価1,6562,190
売上総利益744810
販売費及び一般管理費636660
営業利益108150
営業外収益1215
営業外費用4821
経常利益72144

設問

第1問 配点 25点
(設問1)D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D社が劣っていると考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、劣っていると考えられる指標を②、③の欄に記入し、(b)欄の値については、小数第3位を四捨五入し、小数第2位まで表示すること。また、単位をカッコ内に明記すること。
(設問2)D社が同業他社と比べて劣っている点について、その要因として考えられることを80字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
解答例

(設問1) ① 優れている指標:売上高総利益率 31.00(%)
② 劣っている指標:有形固定資産回転率 1.71(回)
③ 劣っている指標:自己資本比率 27.50(%)

【D社】 売上高総利益率 = 744 ÷ 2,400 × 100 = 31.00% 有形固定資産回転率 = 2,400 ÷(520+480+400)= 2,400 ÷ 1,400 = 1.7142… → 1.71回 自己資本比率 = 660 ÷ 2,400 × 100 = 27.50% 【同業他社(比較)】 売上高総利益率 = 810 ÷ 3,000 × 100 = 27.00% 有形固定資産回転率 = 3,000 ÷(380+320+250)= 3,000 ÷ 950 = 3.1578… → 3.16回 自己資本比率 = 1,080 ÷ 2,100 × 100 = 51.4285… → 51.43%

(設問2)要因は、内燃機関向けの専用設備を多数保有するが受注減少で稼働率が低く資産効率が低いこと、その設備投資を借入で賄い有利子負債が過大で安全性が低いことである。(77字)

解説(考え方・プロセス)

型⑦ 説明・整理事例Ⅳ第1問の経営分析は12年連続で出題されており、令和8年度も出る可能性がきわめて高い設問です。ここは確実に満点を取りに行くべき箇所です。

STEP1/個数と欄の指定を確認する

本問は「優れている指標1つ、劣っている指標2つ」で、①が優れている指標、②③が劣っている指標です。過去問では年度ごとに個数と順序が変わります(令和3年度は2つずつ、令和4年度は優2・課題1、令和7年度は優1・劣2)。指定を読み違えると全滅するので、必ず最初に確認してください。

STEP2/収益性・効率性・安全性から1つずつ選ぶ

経営分析の指標選択は、原則として3分類から1つずつ選びます。バランスよく指摘するのが診断の基本だからです。

  • 収益性:売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率
  • 効率性:売上債権回転率、棚卸資産回転率、有形固定資産回転率
  • 安全性:自己資本比率、流動比率、当座比率、負債比率
STEP3/与件が指標を指定してくれている

事例Ⅳの経営分析は、与件文に必ずヒントが書かれています。本問では次のとおり、3つの指標がすべて与件で誘導されています。

  • 第2段落「高い寸法精度」「売上高総利益率は同業他社を上回る」→ 売上高総利益率(優)
  • 第3段落「専用の加工設備を相次いで導入」「転用が難しく」「稼働率が低下」→ 有形固定資産回転率(劣)
  • 第3段落「借入によって賄われており」「多額の有利子負債」→ 自己資本比率(劣)

計算する前に与件を読み、「この3つだ」と当たりをつけてから電卓を叩くのが時間短縮のコツです。

STEP4/計算上の注意
  • 有形固定資産の範囲:建物・構築物+機械装置+土地=1,400百万円。「投資その他の資産」は有形固定資産に含めません。ここを含めて1,440で計算すると誤答になります(1.67回)。
  • 端数処理:設問文は「小数第3位を四捨五入し、小数第2位まで表示」です。1.7142…→1.71、51.4285…→51.43。31.00%のように、末尾がゼロでも「31.00」と2桁まで書くのが指示に忠実な解答です。
  • 単位:(%)(回)をカッコ内に明記します。書き忘れは減点対象です。
STEP5/設問2は「指標 → 与件の原因」で書く

記述は「どの指標が悪いか」ではなく「なぜ悪いのか」を書きます。指標名を並べるだけでは点になりません。解答例は、

  • 効率性が低い理由 → 専用設備を多数保有+受注減少+稼働率低下
  • 安全性が低い理由 → その設備投資を借入で賄った

と、2つの指標の悪さを1つの原因(過去の過大な設備投資)に結びつけています。バラバラに書くより、因果を1本につなぐと評価が高くなります。

第2問 配点 30点

D社は、内燃機関向けの製品Pと医療機器向けの製品Qを製造・販売している。両製品に関する当期のデータは以下のとおりである。なお、当期においてD社は製品Pを45,000個、製品Qを15,000個販売した。年間の固定費は224,000千円である。また、両製品の製造に使用する機械の年間最大運転時間は40,000時間である。以下の設問に答えよ。

製品1個当たりのデータ(当期)
項目製品P製品Q
販売単価12千円20千円
変動費7.2千円12千円
機械運転時間0.4時間0.8時間
(設問1)当期の販売数量の構成比が維持されるものとして、当期の損益分岐点売上高を計算せよ。解答にあたっては、損益分岐点売上高を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問2)次期においては、原材料価格の上昇により製品P・Qともに1個当たり変動費が5%上昇し、固定費が10%上昇すると見込まれる。この予測の下で、製品Pを40,000個販売するものとして、目標営業利益120,000千円を達成するために必要な製品Qの販売数量を計算せよ。解答にあたっては、販売数量を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。なお、最終的な解答では小数点以下を切り上げること。
(設問3)設問2と同じ費用条件の下で、次期の営業利益を最大にする製品Pと製品Qの販売数量と、そのときの営業利益を計算せよ。ただし、次期の需要見込みは製品Pが60,000個、製品Qが30,000個を上限とし、機械の年間最大運転時間は40,000時間である。解答にあたっては、①製品Pの販売数量、②製品Qの販売数量、③営業利益を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
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解答例

(設問1)(a) 560,000千円

(b) 計算過程 1個当たり限界利益 P:12-7.2=4.8千円  Q:20-12=8千円 販売数量構成比 P:Q = 45,000:15,000 = 3:1  → Pを3個・Qを1個で1セットとして考える セット当たり売上高  12×3+20×1 = 56千円 セット当たり限界利益 4.8×3+8×1 = 22.4千円 限界利益率 = 22.4 ÷ 56 = 0.4(40%) 損益分岐点売上高 = 224,000 ÷ 0.4 = 560,000千円

(設問2)(a) 25,514個

(b) 計算過程 次期の1個当たり変動費 P:7.2×1.05=7.56千円  Q:12×1.05=12.6千円 次期の1個当たり限界利益 P:12-7.56=4.44千円  Q:20-12.6=7.4千円 次期の固定費 = 224,000×1.1 = 246,400千円 必要限界利益 = 固定費 + 目標営業利益 = 246,400+120,000 = 366,400千円 製品Pの限界利益 = 4.44×40,000 = 177,600千円 製品Qで必要な限界利益 = 366,400-177,600 = 188,800千円 製品Qの販売数量 = 188,800 ÷ 7.4 = 25,513.51… → 25,514個

(設問3)(a) ① 製品P 60,000個 ② 製品Q 20,000個 ③ 営業利益 168,000千円

(b) 計算過程 機械運転時間当たりの限界利益(=制約条件1単位当たりの限界利益)  製品P:4.44 ÷ 0.4 = 11.10千円/時間  製品Q:7.4 ÷ 0.8 = 9.25千円/時間  → 製品Pの方が有利なので、製品Pを需要上限まで優先して生産する 製品P:60,000個(需要上限) 使用時間 = 60,000×0.4 = 24,000時間 残余時間 = 40,000-24,000 = 16,000時間 製品Q:16,000 ÷ 0.8 = 20,000個(需要上限30,000個以内のため実行可能) 限界利益 = 4.44×60,000 + 7.4×20,000      = 266,400 + 148,000 = 414,400千円 営業利益 = 414,400 - 246,400 = 168,000千円
解説(考え方・プロセス)

型⑧ 計算・算定CVP分析とセールスミックスは、事例Ⅳの三大論点の一つです。令和7年度第2問、令和6年度第2問、令和4年度第2問と近年3年連続で制約条件付きの最適生産が問われており、令和8年度も要警戒です。

STEP1/設問1は「セット法」を使う

製品が2種類あり、販売構成比が一定の場合の損益分岐点は、複数製品を1つのセット商品とみなすと簡単に解けます。

① 構成比を最も簡単な整数比にする(45,000:15,000 → 3:1) ② セット1組の売上高と限界利益を求める ③ セット全体の限界利益率を求める ④ 固定費 ÷ 限界利益率 = 損益分岐点売上高

加重平均限界利益率を先に求める方法でも同じ答えになりますが、セット法のほうが計算ミスが起きにくいのでおすすめです。

なお、参考までに当期の実績は、売上高=45,000×12+15,000×20=840,000千円、限界利益=336,000千円、営業利益=112,000千円です。損益分岐点比率は 560,000÷840,000=66.67%となります。

STEP2/設問2は「必要限界利益」から逆算する

目標利益達成の設問は、次の式を頭に入れておけば必ず解けます。

必要限界利益 = 固定費 + 目標利益

あとは、すでに数量が決まっている製品P(40,000個)の限界利益を差し引き、残りを製品Qの単位当たり限界利益で割るだけです。

変動費が5%上昇するとき、限界利益は「単価-変動費×1.05」で計算します。「限界利益を5%減らす」のではありません。ここは間違えやすいポイントです(4.8×0.95=4.56としてしまうと誤り。正しくは12-7.56=4.44)。

端数処理は「小数点以下を切り上げ」の指示があります。25,513.51…なので25,514個。切り捨てて25,513個にすると目標利益に4千円足りません(119,996.2千円)。目標「以上」を達成する必要があるため、この種の設問はほぼ必ず切り上げになります。

STEP3/設問3は「制約条件1単位当たりの限界利益」で判断する

セールスミックスの鉄則は次のとおりです。

制約条件(機械時間・作業時間・材料など)1単位当たりの限界利益が 大きい製品から優先して生産する

ここで絶対にやってはいけないのが、1個当たり限界利益で比較することです。1個当たりでは製品Q(7.4千円)が製品P(4.44千円)を上回りますが、製品Qは機械時間を2倍使うため、時間当たりでは製品P(11.10千円/時間)が有利になります。この逆転こそが、この論点の出題意図です。

手順は、①時間当たり限界利益を計算して順位づけ、②有利な製品を需要上限まで生産、③残った時間を次の製品に配分、④需要上限を超えていないか確認、の4ステップです。

STEP4/診断士としての視点(実務上の含意)

この設問には、単なる計算を超えた含意があります。短期的な利益最大化では、既存事業の製品P(内燃機関向け)を優先すべきという結論になりますが、与件第4段落のとおり、内燃機関部品の需要は中長期的に縮小することが確実です。

つまり、短期の最適解と中長期の戦略は必ずしも一致しません。令和7年度事例Ⅳ第2問でも「製品Xの割合が25%を下回らないこと」という戦略的な制約が課されていました。本問がもし「製品Qを25,000個以上販売する」という条件付きであれば、答えは製品P 50,000個・製品Q 25,000個・営業利益160,600千円となり、7,400千円が事業転換のためのコストだと読み解けます。こうした視点まで持てると、記述問題にも強くなります。

第3問 配点 25点

D社は、医療機器向け製品Qの本格生産のため、新たな生産ライン(設備R)の導入を検討している。設備Rの初期投資額は180,000千円であり、耐用年数5年、残存価額をゼロとする定額法で減価償却する。5年経過後の処分価額は20,000千円と見込まれる。

この投資により、年間の売上高が150,000千円、変動費が60,000千円、現金支出を伴う固定費が30,000千円それぞれ増加すると予測される。また、この投資に伴い運転資本が15,000千円増加し、この増加額は耐用年数経過後に全額回収される。

なお、設備Rは、D社が現在、年間4,000千円の賃貸料を得て近隣企業に貸している減価償却済みの倉庫に据え付ける予定である。当該倉庫の賃貸借契約は、相手方の合意を得て更新しないこととする。

法人税等の税率は30%、資本コストは5%である。初期投資以外のキャッシュフローは各年度末に生じるものとする。以下の設問に答えよ。なお、利子率5%のときの複利現価係数(5年)は0.784、年金現価係数(5年)は4.329である。

(設問1)この投資による年間のキャッシュフロー(初期投資額および設備売却、運転資本の回収を除く)を計算せよ。解答にあたっては、キャッシュフローを(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問2)5年経過後の設備Rの売却によるキャッシュフローを計算せよ。解答にあたっては、キャッシュフローを(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問3)この投資案の正味現在価値を計算し、投資の採否を決定せよ。解答にあたっては、正味現在価値および採否を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。なお、採否については、カッコ内の「する」または「しない」に○印を付けること。
解答例・解説を見る
解答例

(設問1)(a) 50,000千円

(b) 計算過程 減価償却費 = 180,000 ÷ 5 = 36,000千円 機会原価(放棄する賃貸収入)= 4,000千円 税引前利益の増加額  = 150,000 - 60,000 - 30,000 - 36,000 - 4,000 = 20,000千円 税引後利益 = 20,000 ×(1-0.3)= 14,000千円 年間キャッシュフロー = 14,000 + 36,000(減価償却費)= 50,000千円

(設問2)(a) 14,000千円

(b) 計算過程 5年経過時点の帳簿価額 = 0(残存価額ゼロで全額償却済み) 売却益 = 20,000 - 0 = 20,000千円 売却益にかかる税金 = 20,000 × 0.3 = 6,000千円 売却によるキャッシュフロー = 20,000 - 6,000 = 14,000千円

(設問3)(a) 正味現在価値 44,186千円 採否:投資 (する)・しない

(b) 計算過程 初期投資額 = 180,000(設備R)+ 15,000(運転資本)= 195,000千円 1〜5年度末のCF(年間50,000千円)の現在価値  = 50,000 × 4.329 = 216,450千円 5年度末の追加CF(設備売却14,000+運転資本回収15,000=29,000千円)の現在価値  = 29,000 × 0.784 = 22,736千円 正味現在価値 = 216,450 + 22,736 - 195,000 = 44,186千円 正味現在価値が正であるため、この投資案を採用する。
解説(考え方・プロセス)

型⑧ 計算・算定意思決定会計(NPV)は、事例Ⅳで13年間ほぼ毎年出題されている最重要論点です。配点も大きく、ここを取れるかどうかが合否に直結します。

STEP1/【最重要】機会原価を見落とさない

本問最大の仕掛けは、「年間4,000千円の賃貸料を得ている倉庫」です。設備Rをここに据え付けると、この賃貸収入を失います。これは機会原価(逸失利益)であり、投資案の費用として必ず差し引きます。

倉庫は「減価償却済み」なので簿価はゼロであり、倉庫そのものの取得原価は投資額に含めません(過去の支出=埋没原価)。含めるのは「これから失う4,000千円/年」だけです。

令和7年度事例Ⅳ第3問でも、まったく同じ構造(年間2,400千円で貸している倉庫を工場に転用)が出題されました。「〜に貸している」「〜に使用している」という記述が出たら機会原価を疑うのが鉄則です。

STEP2/営業CFの公式を体に入れる

税引後キャッシュフローの計算式は2通りありますが、どちらでも同じ答えになります。

【方法1】税引後利益に減価償却費を足し戻す(解答例の方法) CF =(収入-現金支出費用-減価償却費)×(1-税率) + 減価償却費 【方法2】タックスシールドを使う CF =(収入-現金支出費用)×(1-税率) + 減価償却費×税率   =(150,000-60,000-30,000-4,000)×0.7 + 36,000×0.3   = 56,000×0.7 + 10,800 = 39,200 + 10,800 = 50,000千円 ✓

検算のために両方の方法で計算して一致を確認すると、本番でのミスを防げます。

STEP3/設備売却は「簿価との差額に課税」

売却時のキャッシュフローは、次の式で求めます。

売却CF = 売却価額 -(売却価額-帳簿価額)× 税率

本問は残存価額ゼロで5年間全額償却するため帳簿価額は0となり、売却額20,000千円がまるごと売却益になります。したがって税金6,000千円を控除して14,000千円です。

もし売却損が出る場合は、税金が減る(節税効果)ので売却CFは売却価額より大きくなります。符号を機械的に処理せず、式の意味を理解しておいてください。

STEP4/運転資本の扱い

運転資本の増加は投資時点のキャッシュアウト、耐用年数経過後の回収は最終年度のキャッシュインです。損益計算書には現れませんが、キャッシュフローには必ず影響します。

また、運転資本の回収には税金がかかりません(利益ではなく、立て替えた資金が戻ってくるだけだからです)。ここで30%を掛けてしまうミスが多いので注意してください。

STEP5/係数の使い分け
年金現価係数 … 毎年同額のCFが複数年続く場合(1〜5年の50,000千円) 複利現価係数 … 特定の1時点のCF(5年度末の売却・運転資本回収)

5年度末のキャッシュフローは「毎年の50,000千円」+「売却14,000千円」+「回収15,000千円」ですが、50,000千円の分はすでに年金現価係数で処理済みなので、複利現価係数を掛けるのは追加分の29,000千円だけです。ここで50,000千円を二重計上しないよう気をつけてください。

STEP6/結論を必ず書く

「正味現在価値を計算し、投資の採否を決定せよ」と書かれているので、数値を出して終わりではいけません。「正味現在価値が正であるため採用する」と根拠つきで結論を明記します。○印を付ける指示があるときは、必ず付けてください。

部分点戦略:事例Ⅳの計算問題は「(b)欄に計算過程を示せ」がほぼ必ずあります。最終値が合わなくても、減価償却費・機会原価・タックスシールドの各段階が書けていれば部分点が入ります。時間がなくても、途中まで必ず書いて提出してください。

第4問 配点 20点
(設問1)D社が設備Rの導入資金を調達するにあたり、とるべき資金調達手段について、D社の財務状況を踏まえながら、その理由とともに80字以内で助言せよ。
(設問2)D社が医療機器分野へ本格的に参入する場合に生じる財務的なリスクを挙げるとともに、そのリスクへの対処について60字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
解答例

(設問1)増資や補助金の活用、遊休設備の売却など借入以外の手段を優先すべきである。自己資本比率が同業他社の約半分と低く、追加借入は安全性を一層悪化させるため。(74字)

(設問2)リスクは、認証取得の遅れや稼働率低迷で投資回収が長期化すること。段階的な投資と汎用性の高い設備の選択により対処する。(58字)

解説(考え方・プロセス)

型⑤ 効果・影響事例Ⅳの最終問題は、計算不要の記述問題であることがほとんどです(令和7年度第4問、令和5年度第4問、令和4年度第4問など)。時間切れになりやすい試験だからこそ、ここを最初に解くという戦略も有効です。

STEP1/「財務状況を踏まえながら」=第1問と接続せよ

設問1には「D社の財務状況を踏まえながら」という切り口指定があります。これは第1問で指摘した指標を使って答えよという意味です。事例Ⅳの記述問題は、第1問の経営分析と一貫させるのが基本です。

D社の自己資本比率は27.50%で、同業他社51.43%の約半分。すでに有利子負債は1,360百万円(短期340+長期1,020)あり、支払利息を含む営業外費用は48百万円です。この状態でさらに借入を増やせば、安全性はいっそう悪化します。

STEP2/資金調達手段の引き出しを持つ
  • 自己資本(返済不要):内部留保、増資(第三者割当・ベンチャーキャピタル)、経営者からの出資
  • 負債:金融機関借入、社債、劣後ローン(資本性借入金=自己資本とみなされる)
  • その他:補助金・助成金、リース(設備を所有せず使用できるため初期支出を抑えられる)、資産売却(遊休の専用設備・土地の処分)

加点の工夫:D社は「転用が難しく稼働率が低下している専用設備」(第3段落)を保有しています。これを売却して投資資金に充てると書けば、資金調達と資産効率の改善(有形固定資産回転率の向上)を同時に実現でき、与件に即した優れた解答になります。

STEP3/設問2は「財務的な」リスクに限定する

財務的なリスク」という限定に注意してください。ここで「技術者が不足する」「競合が多い」といった経営一般のリスクを書くと、問いに答えていないと判断されます。令和4年度事例Ⅳ第4問も「リスクを財務的観点から2点指摘し」という出題でした。

財務的リスクの引き出しは次のとおりです。

  • 投資回収の不確実性:需要が予測を下回り、NPVが負に転じる/回収期間が長期化する
  • 固定費の増加:減価償却費と人件費が固定費化し、損益分岐点が上昇する(オペレーティング・レバレッジの上昇)
  • 資金繰り:売上債権や棚卸資産の増加による運転資金の負担増
  • 設備の専用性:転用できない設備は、撤退時に売却損が出る(D社は過去にこれで失敗している)

医療機器分野の特性として、薬機法に基づく認証・許可の取得に時間がかかるため、稼働開始が遅れて回収が長期化する、という論点も有効です。

STEP4/対処までセットで書く

設問文が「リスクを挙げるとともに、そのリスクへの対処について」と2つを求めています。60字と短いため、リスク30字+対処30字で配分します。対処の定番は、

  • 段階的投資:一度に全額投資せず、需要を確認しながら小さく始める(リアルオプション的な考え方)
  • 汎用設備の選択:専用設備で失敗した過去を踏まえ、転用可能な設備を選ぶ
  • 既存事業のCFで補完:製品Pが稼いでいるうちに転換を進める

D社は「専用設備に投資して稼働率が下がった」という失敗を過去にしています。同じ失敗を繰り返さないという視点で書くと、与件を踏まえた説得力のある解答になります。

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