令和2年度 第2次試験問題 事例Ⅱ
与件文
1B社は、資本金450万円、社長をはじめ従業者10名(パート・アルバイト含む)の農業生産法人(現・農地所有適格法人)である。ハーブの無農薬栽培、ハーブ乾燥粉末の一次加工・出荷を行っている。
2B社は、本州から海を隔てたX島にある。島は車で2時間もあれば一周できる広さで、島内各所には海と空、緑が鮮やかな絶景スポットがある。比較的温暖な気候で、マリンスポーツや釣りが1年の長い期間楽しめ、夜は満天の星空が広がる。島の主力産業は、農業と観光業である。ただし島では、若年層の人口流出や雇用機会不足、人口の高齢化による耕作放棄地の問題、農家所得の減少などが深刻化し、地域の活力が低下して久しい。
3B社の設立は10年ほど前にさかのぼる。この島で生まれ育ち、代々農業を営む一家に生まれたB社社長が、こうした島の窮状を打開したいと考えたことがきっかけである。B社設立までの経緯は以下のとおりである。
4社長は、セリ科のハーブY(以下「ハーブ」と称する)に目を付けた。このハーブはもともと島に自生していた植物で、全国的な知名度はないが、島内では古くから健康・長寿の効能があると言い伝えられてきた。現在でも祝いの膳や島のイベント時に必ず食べる風習が残り、とくに高齢者は普段からおひたしや酢みそあえにして食べる。社長はこのハーブの本格的な栽培に取り組み、島の新たな産業として発展させようと考えた。
5まず社長が取り組んだのは、ハーブの栽培手法の確立であった。このハーブは自生植物であるため、栽培ノウハウは存在しなかった。しかし、社長は農業試験場の支援を得て実験を繰り返し、無農薬で高品質のハーブが同じ耕作地で年に4〜5回収穫できる効率的な栽培方法を開発した。一面に広がるハーブ畑は、生命力あふれる緑の葉が海から吹く風に揺れ、青い空と美しいコントラストを生み出している。
6一般的にハーブの用途は広く、お茶や調味料、健康食品などのほか、アロマオイルや香水などの原材料にもなる。社長は次に、このハーブを乾麺や焼き菓子に練りこんだ試作品をOEM企業に生産委託し、大都市で開催される離島フェアなどに出展して販売を行った。しかし、その売上げは芳しくなかった。社長は、このハーブと島の知名度が大消費地では著しく低いことを痛感し、ハーブを使った自社による製品開発をいったん諦めた。社長はハーブの販売先を求めて、試行錯誤を続けた。
7B社設立の直接的な契機となったのは、社長が大手製薬メーカーZ社と出合ったことである。消費者の健康志向を背景にますます拡大基調にあるヘルスケア市場では、メーカー間の競争も激しい。Z社は当時、希少性と効能を兼ね備えた差別的要素の強いヘルスケア製品の開発可能性を探っており、美しい島で栽培された伝統あるハーブが有するアンチエイジングの効能と社長の高品質かつ安全性を追求する姿勢、島への思い入れを高く評価した。社長もZ社もすぐに取引を開始したかったが、軽い割にかさばるハーブを島から島外の工場へ輸送するとなるとコストがかかることがネックとなった。
8そこで社長自ら島内に工場を建設し、栽培したハーブを新鮮なうちに乾燥粉末にするところまで行い、輸送コスト削減を図ろうと考えた。Z社もそれに同意した。その結果、B社はハーブの栽培・粉末加工・出荷を行うための事業会社として、10年ほど前に設立された。
9Z社は予定どおり、B社製造のハーブの乾燥粉末を原材料として仕入れ、これをさらに本州の工場で加工し、ドリンクやサプリメントとして全国販売した。これらの製品は、島の大自然とハーブからもたらされる美を意識させるパッケージで店頭に並び、主として30〜40歳代の女性層の支持を獲得した。この島の空港や港の待合室にも広告看板が設置され、島とハーブの名前が大きく明示されている。そのため、とくにヘルスケアに関心の高い人たちから、このハーブが島の顔として認知されるようになってきた。こうした経緯もあって、島民は昨今B社の存在を誇りに感じ始めている。
10ただし、Z社のこの製品も発売から約10年の歳月を経て、売れ行きが鈍ってきた。このところ、B社とZ社とのハーブの取引量は徐々に減少している。Z社担当者からは先日、ブランド刷新のため、あと2〜3年でこの製品を製造中止する可能性が高いことを告げられた。
11現在のB社は、このハーブ以外に、6〜7種類の別のハーブの栽培・乾燥粉末加工を行うようになっている。最近ではこのうち、安眠効果があるとされるハーブ(Yとは異なるハーブ)が注目を集めている。Z社との取引実績が安心材料となり、複数のヘルスケアメーカーなどから安眠系サプリメントなどの原材料として使いたいと引き合いが来るようになった。しかし、取引が成立しても、Z社との取引に比べるとまだ少量であり、B社の事業がZ社との取引に依存している現状は変わらない。
12最近になって、社長は自社ブランド製品の販売に再びチャレンジしたいという思いや、島の活性化への思いがさらに強くなってきた。試しに、安眠効果のあるハーブを原材料とした「眠る前に飲むハーブティー」というコンセプトの製品をOEM企業に生産委託し、自社オンラインサイトで販売してみたところ、20歳代後半〜50歳代の大都市圏在住の女性層から注文が来るようになった。
13島の数少ない事業家としての責任もあるため、社長は早期に事業の見直しを行うべきだと考え、中小企業診断士に相談することにした。
設問
現在のB社の状況について、SWOT分析をせよ。各要素について、①〜④の解答欄にそれぞれ40字以内で説明すること。
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①強み(S)無農薬で高品質なハーブを年4〜5回栽培する技術と、Z社との取引実績による信用。(39字)
②弱み(W)Z社との取引に依存し、ハーブと島の知名度が大消費地で低く自社製品開発力も弱い。(39字)
③機会(O)健康志向で拡大するヘルスケア市場で、安眠系ハーブへの引き合いやEC需要が増加。(39字)
④脅威(T)Z社製品の売行鈍化で取引が縮小し、2〜3年で製造中止の可能性が高いこと。(36字)
着眼点:SWOTは内部(S/W)・外部(O/T)に分け、各40字と短いので最も象徴的な要素に絞る。後続設問(取引先構成・自社EC)の布石になる要素を選ぶ。
- 強み(S)…第5段落「無農薬で高品質、年4〜5回収穫できる効率的栽培方法」、第7・11段落「Z社との取引実績(信用)」。
- 弱み(W)…第11段落「Z社との取引に依存」、第6段落「ハーブと島の知名度が大消費地で著しく低い」「自社製品開発をいったん諦めた」。
- 機会(O)…第7段落「拡大基調のヘルスケア市場」、第11・12段落「安眠系ハーブへの引き合い」「自社ECで大都市圏女性層の注文」。
- 脅威(T)…第10段落「Z社製品の売行鈍化・取引減少」「2〜3年で製造中止の可能性が高い」。
弱み=Z社依存、脅威=Z社製造中止、を押さえると第2問(取引先構成の分散)へ自然につながる。
Z社との取引縮小を受け、B社はハーブYの乾燥粉末の新たな取引先企業を探している。今後はZ社の製品とは異なるターゲット層を獲得したいと考えているが、B社の今後の望ましい取引先構成についての方向性を、100字以内で助言せよ。
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特定企業への依存を避け、複数のヘルスケアメーカーと取引する分散型構成とする。Z社製品の30〜40代女性とは異なる、安眠系ハーブを求める層など別ターゲットを持つ企業を開拓し、リスク分散と安定を図る。
設問の制約:「取引先構成の方向性」「Z社と異なるターゲット層の獲得」の2点を必ず押さえる。
課題の構造:第11段落「事業がZ社との取引に依存」=1社依存のリスク。第10段落でZ社取引が縮小・製造中止懸念。よって方向性は取引先の分散。
異なるターゲット層の根拠:Z社製品の支持層は「主として30〜40歳代の女性層」(第9段落)。一方、安眠系ハーブには「複数のヘルスケアメーカーから引き合い」(第11段落)がある。これら別ターゲットを持つ複数企業と取引することで、層を広げつつ依存リスクを下げる。
「複数社との分散+異なるターゲット層の企業開拓+リスク分散・安定化」で構成する。
B社社長は最近、「眠る前に飲むハーブティー」の自社オンラインサイトでの販売を手がけたところ、ある程度満足のいく売上げがあった。
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設問1既存のハーブ栽培技術を用い、新製品を新たな大都市圏女性層に販売する多角化戦略である。(42字)
設問2サイト上で顧客の感想や要望を投稿・共有できる場を設け、新商品の企画やモニターに参加してもらう。双方向の対話で意見を製品開発に反映し、島やハーブの情報も発信して愛着と関与を高め関係を深める。(94字)
設問1:アンゾフの製品・市場マトリックス
枠組み:「製品(既存/新規)」×「市場(既存/新規)」の4象限で分類する。
- 製品…「眠る前に飲むハーブティー」はOEM委託した新製品(従来はZ社向け乾燥粉末の原材料供給)。ただし栽培技術は既存の応用。
- 市場…自社ECで新たに獲得した「20歳代後半〜50歳代の大都市圏女性層」は新市場(従来はZ社という企業向けBtoB)。
新製品×新市場=多角化に該当。50字で「何を・誰に・どの戦略か」を簡潔に書く。
設問2:顧客関与を高めるコミュニケーション施策
設問の制約:「自社オンラインサイト上で」「顧客を製品づくりに巻き込む(=関与・共創を高める)」が条件。チャネルはECサイト内に限定。
施策の方向(双方向コミュニケーション):①口コミ・レビュー・要望の投稿/共有の場、②新商品企画への参加・モニター・アンケート、③島やハーブのストーリー発信で愛着醸成。これらで顧客の声を製品開発に反映し(顧客参加型開発)、長期的関係(関係性マーケティング)を築く。
B社社長は、自社オンラインサイトのユーザーに対して、X島宿泊訪問ツアーを企画することにした。社長は、ツアー参加者には訪問を機にB社とX島のファンになってほしいと願っている。
絶景スポットや星空観賞などの観光以外で、どのようなプログラムを立案すべきか。100字以内で助言せよ。
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ハーブ畑での収穫や栽培の体験、乾燥粉末加工工場の見学、ハーブ料理やハーブティーの試食・調理体験を組み込む。社長が島やハーブの思いを語り、生産者と交流する場を設け、B社と島への共感と愛着を高める。
設問の制約:「観光(絶景・星空)以外」「ツアー参加者にB社とX島のファンになってほしい」が条件。よってB社の事業・ハーブに直結する体験を設計する。
B社の資源を体験化:与件のB社固有の資源を「見る・する・味わう・交流する」体験に変換する。
・第5段落…一面のハーブ畑→収穫・栽培体験
・第8段落…島内の加工工場→乾燥粉末加工の見学
・第4段落…おひたし・酢みそあえなど食文化→ハーブ料理・ハーブティーの試食/調理体験
・第3段落…島への思いを持つ社長→社長や生産者との交流・ストーリーの共有
狙い:体験を通じて愛着・共感を醸成し、リピート購入やファン化(関係性強化・口コミ)につなげる、という効果まで書くと完成度が上がる。