平成27年度 第2次試験問題 事例Ⅱ
与件文
1B商店街は、ローカル私鉄のX駅周辺に広がる商店街である。B商店街域内の総面積は約4万㎡(店舗、街路、住宅、公園を含む)であり、約180店が出店している。商店街運営はB商店街協同組合が行っており、約8割の店舗が組合に加盟している。組合には加盟店から選出された理事13名、専従職員2名が属している。組合運営費(専従職員給与、街路灯保守費、イベント実施費など)は、月数千円の組合費、各種補助金、組合事務所のイベントスペース収入、駐車場収入などから賄われる。
2現在の代表理事は商店街で寝具店を営む50歳代男性である。代表理事が先代から寝具店を引き継いだ頃、後述する総合スーパーの出店により、経営は厳しいものであった。しかし、購入者向けのアフターサービスに注力した結果、経営が安定し始めた。現在は後継者に店舗経営を任せ、自身は組合活動に軸足を移している。
3現在の代表理事も以前は、持ち回りで選出された他の理事と同じように、運営に対して消極的な理事の1人であった。しかし、寝具店の後継者が決定後、県が主催したセミナーで全国の商店街活性化事例を目にした。このセミナーをきっかけに、後継者が将来にわたり寝具店を経営し続けるためには、商店街全体の活性化が必要であると感じ、以降は積極的に組合運営に関与するようになった。その後、代表理事に就任し、10年後を見据えた組合運営という方針を打ち出した結果、志を同じくする若手店主数名の賛同を得るに至った。現在はそれらの店主達が理事に立候補し、理事の平均年齢は低くなり、逆に運営への関与度は高くなりつつある。この動きを受けて、県や市、商店街の店主、土地・建物の所有者も組合に協力的になりつつある。
4B商店街の誕生は、明治中期に現在のB商店街周辺に数千人の工員が勤務する大規模織物工場が建設されたことに起因する。その後、当該工場の周辺に関連工場が多数建設され、工場街が形成された。結果、工員を対象とする飲食業、小売業、(狭義の)サービス業等で構成される歓楽街が周辺に形成された。昭和初期にはX駅が開業し、駅と工場街の間に現在とほぼ同面積の商店街が完成した。第2次世界大戦時の空襲により、工場街は炎上し、商店街も大きな被害を受けたが、戦後、工場街が再生したのに伴い商店街も復興を成し遂げた。昭和後期に入り、公害問題から工場の移転が始まり、工員の来店が大幅に減少した。娯楽施設の大半が撤退し、周辺住宅街に住む住民を対象とした商店街へと変化していった。主力の飲食店も、かつては“工員が疲れを癒す居酒屋”という趣の店が多かったが、“大人が落ち着いて食事ができる食事処”といった趣の店に変わっていった。
5同時期に食品販売を得意とする大手総合スーパーチェーンによる織物工場跡地への出店計画が立ち上がった。総合スーパーは4階建てであり、延床面積は商店街の延床面積に比べて小規模なものとなっている。組合は商店街と総合スーパーを一体とする商業集積としての魅力向上を期待し、出店を歓迎した。なお、B商店街は元々歓楽街としての側面が強く、食品を扱う小売店はほとんどなく、周辺住民は主に遠方の別の商店街で食品を購入していた。当時の組合は総合スーパー出店を機に「食品販売を提供する総合スーパー」と「飲食、非食品販売、サービスを提供する商店街」という補完関係による商店街来訪客の増加を将来像として描いていた。しかし総合スーパー出店後、そのもくろみは大きく外れた。総合スーパーの低価格のNB商品やPB商品が、低価格志向にある周辺住民の非食品需要も吸収し、多くの非食品小売店が廃業した。また、総合スーパーに低価格を売りにする外食チェーン店が入店したため、外食需要もそれらに吸収され飲食店の売上もそれほど伸びなかった。
62000年以降、B商店街周辺の環境に変化が起きつつある。それは工場街跡地の再開発である。空き地となっていた工場街跡地に高価格で販売される高層マンションが多数開発され、高層マンション街が形成されつつある。そして2015年以降も高層マンションの建築が計画されている(図1はB商店街周辺の概略図である)。同時に近年は高層マンション開発を契機とする地価の値上がりを受けて、住宅街の中高年層が土地・建物を売却し、他地域へ転居する例も増えつつある。この傾向は当面続くものと見込まれている。現在は人口の流入分が流出分を超過し、周辺人口は増加傾向にある。同時にB商店街の周辺住民の構成も変化しつつある(図2は2015年と2005年の商圏の年齢別人口である)。
7この間におけるB商店街の空き店舗率(店舗物件における空き物件の割合)は2005年時点で約3%、2010年時点で約5%、2015年時点で約7%となっている。この傾向に代表理事は強い危機感を抱いており、B商店街が生き残る道を模索し始めている。
8現在、B商店街の業種構成は店舗数ベースで飲食業約65%、サービス業約20%、非食品小売業約15%で、食品小売業はほぼない状況となっている。なお、店舗ごとの床面積は極端には変わらないので、延床面積もほぼ同様の比率である。一方、総合スーパーの売場構成は延床面積ベースで食品、非食品、飲食、サービスがそれぞれ約25%となっている。なお、商店街の各店舗の営業終了時間は、総合スーパーの対応する売場の営業終了時間に合わせている場合が多い。それは総合スーパーに対抗する意味合いもあるが、B商店街が元々歓楽街であったため、当初から営業終了時間が遅かったことの名残でもある。
9代表理事は手始めに、比較的短期間で成果が出やすい取り組みとして、周辺住民に商店街との接点を持ってもらうイベントを開始した。月に1回、県内の農水産物および加工品を組合事務所周辺の街路で販売する「物産市」を実施している。食品小売業がほぼない商店街の弱みを補いつつ、低価格食品販売を主とする総合スーパーと差別化しながら周辺住民を商店街に呼び込むことを狙っている。代表理事は、イベント業者任せにせず、自らが県内を回って、大手チェーンにはない、こだわりの商品を販売する小売店に物産市への参加を説得して回った。結果、当該イベントは集客力を持つイベントに成長している。しかし、イベント当日は飲食店、サービス業の売り上げは大幅に増加するが、非食品小売店の店主からは「売上増加効果が現れていない」といった不満の声が挙がっている。
10代表理事は短期的な課題としてイベントの改善を実現したいと考えている。また総合スーパーに対して劣勢にあるB商店街の立場を改善するため、総合スーパーとのすみ分けが重要であると考えている。そのために中期的には、環境の変化に対応した業種誘致が必要だと考えている。また長期的には、顧客と店主、店員が顔見知りとなり親しく会話を交わすような状態になることが理想であると考えている。これらの課題解決のため、代表理事は、組合および商店街店主への助言を求めて中小企業診断士に相談することにした。
11(図1「B商店街周辺 概略図(2015年)」および図2「年齢別人口分布」は割愛。原本PDF参照)
設問
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設問1工場跡地の高層マンションに転入してきた、価格より質を重視する高所得の子育て・現役世代をターゲットとすべきである。総合スーパーの低価格志向とは異なる需要を取り込み、商店街の活性化につなげる。(94字)
設問2共働き世帯の家事を支援する、保育・学童や家事代行などの生活支援サービス業を誘致すべきである。(46字)
設問3誘致業種の利用客に向け、落ち着いて食事ができる強みを訴求し、相互送客で来店を促す。(41字)
全体の流れ:設問1でターゲットを決め、設問2でそのターゲット向けの誘致業種、設問3で既存飲食店との相乗効果、と一貫させるのが最大のコツ。
設問1:ターゲット選定
第6段落の環境変化が根拠。工場跡地に高価格の高層マンションが増え、子育て・現役世代が流入。一方、総合スーパーは低価格志向層を握る(第5段落)。差別化のため、価格より質を求める高所得の子育て・現役世代を選ぶ。
設問2:サービス業の誘致
ターゲット(共働き・子育て世代)の困りごとを解決する業種を選ぶ。保育・学童、家事代行、フィットネス等の生活支援サービスが適合。総合スーパーにない機能で差別化。
設問3:飲食店のマーケティング戦略(50字)
第4段落の強み「大人が落ち着いて食事ができる食事処」を活かす。誘致業種の利用客(送迎・利用のついで)を相互送客で取り込み、ついで需要を来店につなげる。テナント・ミックス=回遊・相互送客がキーワード。
物産市当日における非食品小売店の売上向上を実現するためには、非食品小売店の店主達へどのような助言をすべきか。B商店街の主な非食品小売店である家具店、食器店、スポーツ用品店の中からひとつの業種店を対象に選択し、(a)欄の該当する業種店の番号に○印を付けるとともに、(b)欄に助言内容を100字以内で述べよ。
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(a) 選択業種食器店
(b) 助言(94字)物産市で販売される県内農水産物や加工品と関連づけ、店頭で食器に料理を盛り付けた提案や食器とのセット販売を行う。試食や実演で来店客を店内に誘導し、ついで買いを促して当日の売上向上につなげる。
設問の制約:3業種(家具・食器・スポーツ用品)から1つ選び○を付け、(b)で助言。物産市の客(食品目当て)と関連付けやすい業種を選ぶのが正攻法。
業種選択の理由:物産市は県内農水産物・加工品=食のイベント(第9段落)。食器店は「食」と相性が良く、料理・食材との関連購買(クロスセル)を作りやすい。家具・スポーツ用品は食との連想が弱く難度が高い。
助言の組み立て:第9段落の課題「非食品小売店は売上増効果が出ない=物産市の集客が店内購買に結びつかない」を解決する。
・食材と食器を連動(盛り付け提案・セット販売・コーディネート)
・試食・実演で店内へ誘導し、ついで買い・関連購買を促す
「集客を自店の売上に変換する仕掛け」を具体的に書く。
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設問1地元産の生鮮や総菜など、こだわりの商品を扱う高品質な食品専門店を誘致すべきである。総合スーパーの低価格品とは異なる質の高さと対面販売を強みに、質を重視する転入世代の日常の食需要を取り込む戦略をとる。(99字)
設問2誘致した食品店と既存飲食店が協働し、地元食材を使った料理教室や食べ歩きイベントを定期開催する。固定客化と回遊を促し、店主と顧客が顔見知りになる関係を築いて、店の定着と商店街の活性化につなげる。(96字)
設問1:誘致する食品小売店+そのマーケ戦略
第5・9段落より、総合スーパーは低価格の食品を握る。商店街が同じ土俵で戦っても勝てないので、差別化=こだわり・高品質の食品専門店を誘致。ターゲット(第3問の文脈・転入してきた質重視層)に合わせ、対面販売・専門性を強みにする戦略をセットで述べる(設問が「マーケティング戦略と併せて」を要求)。
設問2:定着のための新規イベント+効果
設問の制約は「①誘致と連動」「②長期定着」「③効果も」。第10段落の長期理想像「顧客と店主・店員が顔見知りになり親しく会話する状態」に直結させる。
・イベント例…地元食材の料理教室・食べ歩き・マルシェを既存飲食店と協働で継続開催。
・効果…固定客化・回遊・関係構築→食品店の定着と商店街全体の活性化。
単発の集客ではなく関係性づくり(リピート・定着)を狙う点が物産市(第2問)との違い。