平成26年度 第2次試験問題 事例Ⅲ
与件文
【C社の概要】
1C社は、世界市場で著名かつ高額な精密機器の構成部品となる超精密小型部品を生産、販売している。C社で生産される超精密小型部品の約90%は、主要取引先である大手精密機器メーカーX社の精密部品事業部を経由して国内外の精密機器メーカーに納品されて組み込まれている。
2C社は、自動旋盤による精密部品加工業として1993年に先代の経営者が創業した。そして経営を継承した現社長が超精密加工と超小型加工技術に特化してX社との取引に成功し、新たに熱処理設備およびメッキ設備を加えて精密部品の一貫生産体制をつくることでX社からの受注を拡大してきた。
3現在の従業員数は48名、近年の年商は7億円前後で推移している。組織は、製造部、総務部で構成されている。製造部は、顧客からの受注、生産計画、材料調達、精密部品生産、検査、出荷など受注・生産・出荷に関するすべての業務を担当し、管理スタッフ、設備オペレーター、製品検査担当で構成されている。新規受注などの営業業務については社長と専務の役員2名で対応している。
4主要取引先であるX社には、売上面ばかりでなく製品設計や工程設計などの生産技術や管理技術についても指導を受けるなど、経営のかなりの面で依存している。
【C社の生産概要】
5C社の生産工程は、切削工程、熱処理工程、メッキ工程、検査工程の4工程から構成される。自動旋盤による切削工程では、材料供給を行う設備オペレーターの監視下で24時間稼働による連続生産が行われ、その他の工程では、前日までに切削工程で加工された精密部品を昼間8時間稼働でロット処理している。
6生産計画は、X社から受注する精密部品約100品種の受注数量を基に、設備稼働状況や材料保有状況などC社社内の都合に合わせて1カ月ごとに前月末に作成される。X社からの確定受注数量は、X社顧客からの翌月1カ月の受注予想数量であり、C社へは毎月前月の中旬にFAXで送られてくる。C社では、X社からの確定受注数量を基に、精密部品の各品種1カ月確定受注分を切削工程の各自動旋盤に割り付け負荷調整し、生産計画がつくられている。その他の熱処理工程、メッキ工程、検査工程については、切削工程の加工終了後に各工程担当者の判断で加工順を決めている。X社への納品は月内であればよいことになっているため、生産完了後順次全品納入している。
7生産計画数は、最近増加傾向にある切削工程での加工不良率を加味して決めている。切削工程の加工精度は、自動旋盤の精度に左右される。現在の経営計画には自動旋盤の更新計画はないため、設備オペレーターが故障対応に主眼を置いて、それぞれの経験で行っている自動旋盤のメンテナンスについての対策が必要となっている。
8C社で生産される精密部品に使われている原材料は、特殊仕様品であり高額な材料が指定されている。納期は材料商社に発注後約2週間であるが、月末の在庫数、翌月の生産計画数と翌々月前半の生産予測数を勘案してほぼ2カ月分の必要量が確保できるよう毎月月末に定期発注していて、在庫量の増加傾向がみられる。C社のコストに占める原材料費の割合は高く、上述した切削工程での加工不良率の増加による歩留りの低下傾向とともに問題視されている。
【C社の主要取引先X社の動向】
9主要取引先X社は、精密機器メーカーに精密部品を供給する精密部品加工専門企業として発展してきた。現在は精密部品事業と精密機器事業の2つの事業部を有し、創業時の得意分野であった精密部品の生産は外部に依存し、X社の工場では精密機器の組立、検査、出荷業務が中心となっている。
10X社の精密部品事業部では、国内外顧客約50社から受注される約200品種の精密部品を取り扱っている。X社の主要な顧客からは、大日程生産計画に基づいた3カ月および中日程生産計画に基づいた1カ月の発注情報の内示が毎月あり、確定発注は1週間ごとにある。X社では、納品リードタイム1週間に対応するために品種ごとに在庫を管理している。
11X社の精密部品事業部は、売上高の約半数を海外に依存しており、近年生産拠点を海外にシフトし、部品も現地調達化を進めている。そのため、精密部品事業部では国内発注量の減少が続いている。そこでX社では、精密部品事業部の国内部品調達および物流の合理化計画を進めている。これまで国内調達部品は品種別に分けてC社を含めた国内協力企業数社から調達していたが、この計画では超精密加工と超小型加工技術の評価が高く、必要な生産能力を有するC社1社に集約し、同時にX社の業務コストの削減を狙って、これまでX社が行ってきた精密部品の在庫管理および受注・発送業務もC社に業務移管することが検討されている。具体的には、X社が入手する顧客の3カ月、1カ月発注情報および1週間ごとの確定発注情報をC社とオンライン化し、C社から直接顧客に納品させるものである。また、この業務の移管に伴ってC社に支払う業務委託費についても検討されている。
12この計画が実施されると、受注情報はX社の顧客からの受注情報となり、C社の納品リードタイムは1.5カ月から1週間に短縮され、各品種の1回の受注ロットはX社の各顧客からの1週間分の確定受注数量となり大幅に縮小される。このため、生産システムの大幅な見直しが急務になる。
設問
C社の創業からの事業変遷を理解した上で、精密小型部品加工業界におけるC社の強みと弱みを60字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
強みは評価の高い超精密・超小型加工技術と熱処理・メッキを含む一貫生産体制。弱みは売上の約9割をX社に依存する取引構造である。
設問解釈:1つの解答(60字)に強みと弱みの両方を盛り込む。事業変遷(自動旋盤加工→一貫生産体制構築でX社取引拡大)を踏まえて書く。
- 強み…第2段落「超精密加工と超小型加工技術に特化」、熱処理・メッキを加えた一貫生産体制。第11段落でも「超精密・超小型加工技術の評価が高く」とX社が認める強み。
- 弱み…第1段落「約90%がX社経由」、第4段落「経営のかなりの面でX社に依存」=X社への過度な依存。加工不良率増加(第7段落)も弱みだが、これは第2問の論点なので、第1問では取引構造の弱みを選ぶと事例全体の整合が取れる。
字数配分:60字と短いため強み・弱みを各1要素に絞り、体言止めで簡潔に。後続の第3・4問(X社依存への対応・販路開拓)と一貫させるため、弱みは依存構造を採る。
C社の切削工程で問題視されている加工不良率の増加について、その改善を図るために必要な具体的対応策を100字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
対応策は、①故障対応中心のメンテナンスを改め、点検基準を定めた計画的な予防保全を実施する事、②設備オペレーターの経験頼みの作業を標準化し教育を行う事で、自動旋盤の精度を維持し加工不良率を低減する。
原因の特定:加工不良率増加の原因を与件から押さえる。第7段落「加工精度は自動旋盤の精度に左右」「更新計画はない」「設備オペレーターが故障対応に主眼を置きそれぞれの経験でメンテナンス」。
原因→対策の対応付け:
- 設備更新ができない&故障対応中心 → 計画的な予防保全(TPM)。点検基準・周期を定め、事後保全から予防保全へ転換し設備精度を維持。
- 各オペレーターの経験任せでばらつく → メンテナンス・作業の標準化と教育。
方向性:設備投資(更新)は経営計画にないため、既存設備の保全・標準化で精度を保つ方向にまとめる。「具体的対応策」なので、予防保全・標準化・教育と手段を明示する。
C社では、主要取引先X社精密部品事業部の国内部品調達および物流の合理化計画に対応するための対策が検討されている。この課題について、以下の設問に答えよ。
解答例・解説を見る
設問1メリットは、①X社の国内調達を1社に集約され受注が拡大・安定する事、②業務委託費という新たな収益を得られる事、③顧客の発注情報をオンラインで直接入手でき、需要変動への対応力が高まる事である。(95字)
設問2納品リードタイムが1.5カ月から1週間へ短縮され受注ロットも小口化するため、生産計画は月次から週次へ短サイクル化し、全工程を計画対象として進捗管理する。資材調達は2カ月分の定期発注を改め、確定受注情報に基づく発注点管理で在庫を圧縮しつつ欠品を防ぎ、小ロット・短納期生産に対応できる体制へ改革する。(148字)
設問1:業務移管のメリット
第11段落の計画内容から、C社が得るものを列挙する。
- 国内調達をC社1社に集約→受注の拡大・安定(X社の国内発注減という逆風下で受注を確保)。
- 在庫管理・受注発送業務の移管に伴う業務委託費=新たな収益源(第11段落)。
- 顧客の3カ月・1カ月・1週間の発注情報をオンラインで直接入手→需要予測・計画の精度向上。
設問2:生産計画・資材調達計画の改革
変化の把握:第12段落「納品リードタイムが1.5カ月→1週間」「受注ロットが1週間分に縮小」。短納期・小ロット化に現行体制が合わない点を改革する。
- 生産計画…現状は月次・前月末作成で切削以外は現場判断(第6段落)→週次の短サイクル計画へ、かつ熱処理・メッキ・検査も含め全工程を計画・統制対象に。
- 資材調達…現状は2カ月分の定期発注で在庫増(第8段落)→確定受注情報に基づく発注点管理・小口発注で在庫圧縮と欠品防止を両立。
構成:「変化(短納期・小ロット)→生産計画の改革→資材調達の改革」の順で、160字に2テーマを過不足なく収める。
C社社長は、主要取引先X社で進められている国内部品調達先の集約化の動きに対応して、X社との取引を高める一方で、X社以外の販路開拓を行う方針である。この方針を実現するためには、中小企業診断士としてどのような提案を行うか、C社の経営資源に注目して160字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
提案は、①評価の高い超精密・超小型加工技術と熱処理・メッキを含む一貫生産体制という強みを活かし、X社向けは業務移管に応じて在庫管理・短納期対応力を高め取引を拡大する事、②役員依存の営業体制を強化し、X社経由で蓄積した技術力を武器に新規顧客を直接開拓する事で、X社依存を低減し経営の安定を図る事である。
設問の制約:「C社の経営資源に注目して」が指定。①X社との取引深耕、②X社以外の販路開拓、の2方向を、C社の資源(強み)を根拠に提案する。
注目すべき経営資源:
- 第2・11段落…評価の高い超精密・超小型加工技術、熱処理・メッキを含む一貫生産体制。
- 第4段落…X社から生産技術・管理技術の指導を受け蓄積したノウハウ。
方向①(X社深耕):第3問の業務移管に応じ、在庫管理・短納期対応力を高めて唯一の国内調達先としての地位を固め、取引を拡大。
方向②(新規開拓):営業が役員2名のみ(第3段落)という弱みを補強し、蓄積した技術力を武器に他の精密機器メーカーへ直接販路を開拓。これによりX社依存(弱み)を低減し経営を安定させる、と締める。強みの活用+弱みの補強を両論点に対応させるのがコツ。