事例Ⅱ|マーケティング・流通

平成26年度 第2次試験問題 事例Ⅱ

中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅱ / 試験時間 11:40〜13:00 / 配点100点

与件文

1B社は、資本金1,500万円、従業員12名(パートを含む)の旅行業者である。創業以来、X市内の商店街に1店舗を有している。X市は中小製造業とベッドタウンが混在する街である。現在は高齢層比率が高まっているベッドタウンの高齢化対応が地域課題の1つとなっている。B社の創業は1990年、創業者は前社長である。前社長はもともと県内の大手旅行会社Y社の社員であった。史学科出身の前社長は歴史に関する豊富な知識と話術で、Y社在籍当時から、添乗員付きパック・ツアーのガイドとしてツアー参加者から高く評価されていた。やがてY社の方針に縛られずにツアーを企画したいと希望するようになり、Y社を退職しB社を創業した。

2創業当時の主力商品は前社長が得意とする、国内外の添乗員付きパック・ツアー(以下、「一般向けツアー」という。)であった。当時は知名度の低さから顧客獲得に苦戦する時期がしばらく続いたが、商工会議所主催のX市名所巡りでガイドをボランティアで担当したことをきっかけに新規顧客の獲得に成功した。やがて高い評価が口コミで広まりX市内を中心に顧客が増大した。顧客増大と並行して根気強く社員教育にも力を入れ、新入社員をツアーに同行させ、前社長の知識や話術を吸収させた結果、前社長が添乗するツアー以外でも高い評価を獲得し、組織として高いリピート率を得ることに成功した。創業5年後に調査会社を通じて実施したX市内消費者に対する市場調査では、添乗員付きパック・ツアーの市場シェアがそれまでシェア1位であったY社を上回るに至り、2000年頃までその地位を維持し続けた。

3創業直後の1990年代前半は一般向けツアーで高い評価を得たB社であったが、創業時点で既に一般向けツアーの市場は徐々に縮小しつつあった。その中にあって新商品を模索する必要に迫られていたが、1990年代後半に企業からの要望に応じた添乗員付きの海外研修ツアー(以下、「海外研修ツアー」という。)を主力商品に加えることに成功した。きっかけは、一般向けツアーに参加したX市内の中規模小売業チェーンの人事部長から依頼された米国の小売店視察ツアーであった。前社長は当初「小売ビジネスに役立つようなガイドはできない」と難色を示した。それに対する人事部長の反応は「視察とバス内の意見交換だけでは時間が持たない。海外で見聞を広めたいという社員の本音もある。研修の時間以外はバスでいつもの歴史の話をして欲しい」というものであった。このように始まった海外研修ツアーは社員から高い評価を得て、口コミを通じてX市内の中小企業を中心に依頼が増加した。2000年頃にはX市内における中小企業の海外研修ツアー市場でシェア1位を獲得するに至った。

4このように創業からの10年間は順調に成長を続けてきたB社であったが、2000年を過ぎた頃から状況は徐々に変化し始めた。まず大手旅行会社によるパック・ツアーの低価格化、インターネット利用による宿泊先やチケットの予約の簡易化が進み、一般向けツアーの業績が悪化し始めた。さらに2008年9月のリーマンショック後には、それまでグローバル化の流れの中で海外研修を拡大させていたX市内中小企業の研修予算が大幅にカットされ、海外研修ツアーの依頼も減少した。両商品共にX市内市場における市場シェアで価格競争力に優るY社を下回り、さらに市場規模の縮小が商品販売の悪化に拍車をかける結果となった。この結果を受け、自身の経営に限界を覚えた前社長は引退し、B社社員であった現社長に経営者の座を譲るに至った。

5現社長は経営の見直しを模索し始めた。その中で、現社長はかつて高いシェア、リピート率を誇った一般向けツアーがなぜ苦戦し始めたのかを調査した。先述の低価格化、簡易化で若年層離れが起きたことは感じ取っていたが、長期に渡りB社の顧客であった高齢層の離反について現社長は理由を理解しかねていた。かつての顧客に対する調査の結果、高齢層顧客は他社の低価格ツアーを利用したり、自分で宿泊先やチケットを予約しているわけではなく、体力的な問題でそもそも旅行に出かけづらくなっているという実態が明らかになった。一方で「行けるものなら好きだったB社さんのツアーにまた参加したい」という声も多数寄せられた。

6これらの調査結果に基づき現社長はB社商品の見直しに着手した。一般向けツアーに関しては将来的な廃止を念頭にツアー回数を削減し始めた。また市場規模が回復する兆しが見えない海外研修ツアーも現状の取引がある企業にとどめ、新規開拓は行わない方針を決定した。一方で、現社長が開発に取り組んだのは高齢者向け介護付きツアー(以下、「介護付きツアー」という。)である。このツアーは歩行、食事、入浴、トイレなどに関して支援・介護が必要な高齢者を対象にした国内旅行限定の添乗員付きパック・ツアーである。なお、対象となる高齢者だけでなく、家族も参加でき、要支援・要介護の高齢者の場合は、旅行代金の他に支援・介護レベルによって料金が加算され、家族の場合は一般向けツアーとほぼ同額で参加ができるという商品である。

7まず現社長と社員1名の2名で、介護に関する資格であるホームヘルパー2級の資格を取得し、商品開発に着手した。はじめは要介護の高齢者を含む1家族の添乗から開始し、次に数組の要介護高齢者と家族によるツアーを開催し、ノウハウを蓄積していった。並行して他の社員にも関連資格の取得を奨励し、また新しい商品に適した社員を採用し、安定的な商品供給体制の準備を進めた。そして、開発着手から1年後の2010年、正式な商品として販売を開始した。当該商品の販売開始時にダイレクトメールを発送したところ、高齢となったかつての顧客から喜びの声と共に多数の参加申込書が送付された。

82014年現在、B社のトータルでの顧客数は2000年当時に比べて大幅に減少しているが、介護付きツアーは高価格商品であることから客単価は大幅に向上し、その結果、売上高や利益は2000年頃の水準に回復しつつある。また、X市内消費者を対象とした直近の市場調査では、需要の動きをうまくとらえ先行して介護付きツアーを開始した企業には及ばないものの、市場シェアが迫りつつある。このように業績は回復傾向にあるとはいえ、B社は介護付きツアーの新規顧客獲得や、導入したものの活用が進んでいない顧客データベースの活用などの課題を抱えている。現社長はこれらの課題に対するアドバイスを求めるため中小企業診断士に相談することとした。

設問

第1問 配点 25点

B社は創業以来、複数の商品を展開しながら今日まで存続し続けている。「2000年時点」と「2014年時点」のそれぞれにおけるB社の各商品が、下図のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームのどの分類に該当するかを当てはまる分類名とともに記述せよ。「2000年時点」については(a)欄に40字以内で、「2014年時点」については(b)欄に60字以内で、それぞれ記入すること。
なお「相対シェア」は、市場における自社を除く他社のうち最大手と自社のシェアの比をとったものとする。また、市場の範囲はX市内とする。

(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレーム図は割愛。原本PDF参照。縦軸=市場成長率(高・低)、横軸=相対シェア(高・低)の2×2マトリクスで、左上①・右上②・左下③・右下④の4象限に区分されている。)

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解答例

(a)2000年時点一般向けツアーは「金のなる木」、海外研修ツアーは「花形」に該当する。(34字)

(b)2014年時点一般向けツアーと海外研修ツアーは「負け犬」、介護付きツアーは「問題児」に該当する。市場は成長するがシェアは低い。(56字)

解説(考え方・プロセス)

設問解釈:2軸(縦=市場成長率、横=相対シェア=最大手と自社のシェア比)で各商品を分類。市場はX市内。各商品について「市場が成長/縮小か」と「自社がシェア1位か否か」を与件から判定する。

(a)2000年時点

  • 一般向けツアー…第3段落で創業時点から市場は徐々に縮小(成長率低)、第2段落でシェア1位を2000年頃まで維持(相対シェア高)→金のなる木
  • 海外研修ツアー…第3段落で1990年代後半から依頼増加(成長率高)、2000年頃にシェア1位獲得(相対シェア高)→花形

(b)2014年時点

  • 一般向け・海外研修ツアー…第4段落で両商品ともシェアでY社を下回り、市場規模も縮小(成長率低・相対シェア低)→負け犬
  • 介護付きツアー…第8段落で市場は成長(高齢化で需要拡大)するが、先行企業に「及ばないものの迫りつつある」=シェアは1位でない(成長率高・相対シェア低)→問題児

字数調整:(a)40字・(b)60字と短いため、分類名を正確に当てることを最優先し、理由は(b)で「市場は成長するがシェアは低い」と介護付きツアーの位置づけを補足する程度にとどめる。

第2問 配点 25点 100字以内

B社は現在、介護付きツアーにより、一度離反した顧客を再び顧客とすることに成功しつつある。現社長は次に、介護付きツアーの新規顧客獲得を目指している。そのためのコミュニケーション戦略として、SNSサイト上で介護付きツアーの画像や動画をプライバシー侵害のない範囲で旅行記として紹介している。しかし、要支援・要介護の高齢者本人にはあまり伝わっていないことが明らかになった。この状況を勘案し、新規顧客獲得のための新たなコミュニケーション戦略を100字以内で述べよ。

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解答例(99字)

高齢者本人に届く様、介護施設や病院、自治体等と連携しチラシ等で告知する。また実際に旅行を企画する家族層に対しSNSや口コミで体験を訴求し、両者に働きかけて新規顧客を獲得する。歴史ガイドの強みも訴求する。

解説(考え方・プロセス)

設問の核心:「SNSでの発信が高齢者本人に伝わっていない」という問題を解決する新たなコミュニケーション戦略。SNSが届かない層へどう届けるかがポイント。

ターゲットの整理:介護付きツアーは本人+家族が顧客(第6段落)。意思決定や手配は家族が担うことが多い。よって、

  • 本人へのリーチ…SNSを使わない高齢者には、介護施設・病院・自治体・地域包括支援センター等との連携やチラシ・DMなどリアルな接点で告知。
  • 家族へのリーチ…SNSや口コミは家族層に有効なので継続活用し、安心・体験を訴求。

強みの活用:B社は前社長以来の歴史ガイドの話術・知識とリピート率の高さ(第2段落)が強み。新規顧客への訴求点として盛り込むと差別化が効く。誰に・どの手段で・何を訴求するかを具体的に書く。

第3問 配点 30点

以下の表は、顧客データベースから算出された介護付きツアーのデシル分析*の結果である。これは、顧客リストからランダムに抽出された100世帯の3年分の利用実績データを集計したものである。集計は1世帯単位で行われている。商品は3泊4日の国内ツアーのみであり、支援・介護レベルもほぼ同一の顧客を対象としている。
デシル分析結果をもとに、下記の設問に答えよ。
*デシル分析とは、全顧客を一定期間における総利用金額の高い順に10等分し、その売上構成比を分析するものである。金額の高い順にデシル1、デシル2、デシル3・・・と続く。

デシル分析結果**
①デシル②世帯数③客単価***④1世帯あたりの平均総利用金額⑤デシル総利用金額⑥デシル総利用金額シェア****
110200,500781,9507,819,50020.7%
210200,300660,9906,609,90017.5%
310200,100560,2805,602,80014.9%
410199,900359,8203,598,2009.5%
510199,800259,7402,597,4006.9%
610199,800239,7602,397,6006.4%
710199,800235,7642,357,6406.3%
810199,800233,7662,337,6606.2%
910199,800221,7782,217,7805.9%
1010199,800217,7822,177,8205.8%

**単純化のため、付き添い家族は1名のみのデータを集計している。
***1世帯1回あたりの平均利用金額を示す。
****小数点第2位を四捨五入している。

(設問1) デシル分析結果から、B社の売上の構造はどのような状態にあるか、数値を用いて説明せよ。その上で現在の重要顧客層を特定し、併せて100字以内で述べよ。
(設問2) デシル分析結果から、上位顧客と下位顧客の総利用金額の差がどのような要因によって生じているか、数値を用いて説明せよ。その結果から導かれるB社が戦略的にターゲットとすべき顧客像と併せて120字以内で述べよ。
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解答例

設問1上位3割のデシル1〜3で総利用金額の53.1%を占め、特定の優良顧客への依存度が高い構造にある。現在の重要顧客層は、利用金額の大きいデシル1〜3の上位顧客層である。(82字)

設問2客単価は約20万円とほぼ一定で、差は利用回数の違いによる。上位のデシル1は約3.9回、下位のデシル10は約1.1回で、リピート頻度が金額差を生む。ターゲットは反復利用が見込める顧客で、頻度向上を図るべきである。(105字)

解説(考え方・プロセス)

設問共通の着眼:数値を用いて」が必須条件。表の数値を必ず引用し、客単価・利用金額・シェアの関係から構造を読む。

設問1:売上構造+重要顧客層

上位3割の構成比 デシル1〜3 = 20.7 + 17.5 + 14.9 = 53.1% → 上位3割で売上の過半を占める=優良顧客への依存度が高い

パレート的に上位顧客に売上が集中している構造を指摘し、重要顧客層をデシル1〜3と特定する。

設問2:金額差の要因(回数)+ターゲット

客単価(1回あたり)は全デシルで約20万円とほぼ一定。よって総利用金額の差は利用回数(頻度)で説明できる。

利用回数 ≒ 1世帯平均総利用金額 ÷ 客単価 デシル1 : 781,950 ÷ 200,500 ≒ 3.9 回 デシル10: 217,782 ÷ 199,800 ≒ 1.1 回 → 上位は反復利用、下位はほぼ1回のみ

導かれるターゲット像:客単価で差がつかない以上、反復利用(リピート)が見込める顧客を狙い、利用頻度を高める施策(顧客データベース活用・関係維持)に注力すべき、という結論で締める。B社の課題(第8段落「顧客データベースの活用」)とも整合する。

第4問 配点 20点 80字以内

現社長は、介護付きツアーの客単価を高くすることを目指している。そのためには、どのような新商品を開発すべきか、もしくは既存商品をどのように改良すべきか。助言内容を80字以内で述べよ。
ただし、B社が単独で提供し、X市内の顧客に対して展開する商品に限定する。

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解答例(79字)

前社長以来の歴史ガイドの強みを活かし、X市内の名所を巡る付加価値の高い高齢者向け日帰り・短期ツアーを開発する。手厚い介護や食事等の選択肢を加え、客単価を高める。

解説(考え方・プロセス)

制約の確認:B社単独で提供」「X市内の顧客向け」の2制約。他社連携や遠方ツアーは不可。B社が自前の経営資源で、X市内顧客に展開できる商品に絞る。

客単価を上げる方向性:客単価向上は高付加価値化(高価格化)。B社の強み・資源を活かして付加価値を乗せる。

  • B社の強み…前社長以来の歴史の知識・ガイドの話術(第1・2段落)、介護資格を持つ社員(第7段落)。
  • X市内…地元の名所巡り(第2段落でガイド実績あり)を介護付きで提供すれば、移動負担が小さく高齢者にも参加しやすい。

組み立て:強み(歴史ガイド)×地域資源(X市内名所)×介護対応で、地元向けの付加価値の高い介護付き日帰り・短期ツアーを提案。さらに手厚い介護・食事のグレード選択で単価を上乗せ、とまとめる。与件にない遠方・他社連携の商品を作らない点に注意。

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