この問題は本試験の過去問ではありません。当サイトが出題傾向の分析に基づいて作成したオリジナル問題です。
第7問
論点:オープン・イノベーションと吸収能力
オープン・イノベーションに関する記述として、最も適切なものはどれか。
- ア オープン・イノベーションは自前主義から脱する取り組みであるが、その方向は外から内への一方向に限られる。
- イ 吸収能力は、個々の構成メンバーがもつ吸収能力の単純な総和ではなく、組織内のコミュニケーション構造に依存する組織レベルの能力であり、研究開発部門だけに固有のものでもない。
- ウ 外部の技術・アイデアを取り込むインバウンド型のオープン・イノベーションは、開発の加速や、自前ではできない領域の補完をねらいとする。このオープン・イノベーションという概念を提唱したのは、吸収能力の概念でも知られるコーエンとレビンソールである。
- エ 外部の知識を取り込むには社内の関連知識が欠かせないため、外部の知識の活用が進んだ分野ほど、自社の研究開発への投資は抑制することが望ましい。
- オ 吸収能力とは、社内の既存の知識とは無関係に、外部の知識の価値を評価し活用する能力をいう。
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正解:イ
解答:イ
オープン・イノベーションは、外部の技術・アイデアを取り込むインバウンド型と、自社の技術を外部に出して活用してもらうアウトバウンド型からなる双方向の取り組みであり、すべてを社内で抱え込むクローズド・イノベーション(自前主義)の対義語にあたる。その成否を左右するのが、外部知識の価値に気づき活用する組織の能力である吸収能力(コーエン&レビンソール)である。吸収能力は社内に蓄えた既存知識の上に成り立つため、外部の知を取り込むためにこそ自前の研究開発が要る、という一見逆説的な関係が生じる。
- ア(×):前半は正しく、オープン・イノベーションは自前主義(クローズド・イノベーション)から脱する取り組みである。誤りは後半で、その方向は外から内へのインバウンド型と、内から外へのアウトバウンド型からなる双方向であり、「一方向に限られる」とするのは誤り。
- イ(○):本問の正解。吸収能力は、メンバー個人の能力を足し合わせれば決まるようなものではなく、組織の中で知識がどう共有され結びつけられるか、すなわちコミュニケーションの構造に依存する組織レベルの能力である。また、外部の知の価値に気づくことが求められるのは研究開発部門に限られないため、研究開発部門だけに固有の能力でもない。記述は正しい。
- ウ(×):前半は正しく、インバウンド型のねらいは開発の加速や、自前ではできない領域の補完にある。誤りは末尾の人名で、オープン・イノベーションを提唱したのはH. チェスブロウである。コーエンとレビンソールが示したのは吸収能力の概念であり、二つの概念の提唱者を入れ替えている。人名と概念の対応は定番の狙われ方である。
- エ(×):前半は正しく、外部の知識を取り込むには土台となる社内の関連知識が欠かせない。誤りは後半で、まさにその土台を築くために自前の研究開発が要る。研究開発は新製品を生むだけでなく外部知識を吸収する能力を高める効果も持つため、外部の知識が重要な分野でこそ投資は不要にならず、抑制すべきという結論は前半と矛盾する。
- オ(×):定義を外している。吸収能力とは、すでに社内に蓄えた既存知識によって新しい情報の価値に気づき、それを取り込んで活用する能力である。「既存の知識とは無関係」は定義と正反対であり、誤り。
よって イ。
なぜこの論点を予想したか
オープン・イノベーションを正面から問う出題はH27第9問・H28第4問・H30第20問の3回で、R01以降は8年間ない。ご無沙汰の論点であり、再出題の余地は十分にある。ただしH27第9問の正解肢(自社の経営資源を社外に開放すれば知的財産権収入やジョイントベンチャーの事業収入など多様な収益源を確保できる)と、その誤答肢(NIH症候群の原因を自社技術への強い自信に限定する)は、いずれもそのまま繰り返しても復習にならないため、本問では両方とも外した。かわりに、併せて扱う吸収能力について、R05第9問で問われた定義そのもの(既存知識によって新しい情報の価値に気付き活用する能力)ではなく、それが組織レベルの能力であるという一段先の性格を正解肢に据えている。インバウンドとアウトバウンドの双方向性、人名と概念の対応(オープン・イノベーション=チェスブロウ/吸収能力=コーエン&レビンソール)、そして「外部の知を取り込むためにこそ自前の研究開発が要る」という関係を軸に、両者を絡めた複合問題として出る可能性がある。