事案の概要データ
| 公表日 | 2026年10月23日(台東区公式ホームページへ掲載)。その後10月28日・29日に更新、本文の更新日は10月30日 |
|---|---|
| 対象サイト(1) | 台東区観光情報サイト「TAITOおでかけナビ」(制作・運営委託先:株式会社トラベルジップ) |
| 対象サイト(2) | 「蔦重ゆかりの地 台東区」(サイト管理者:株式会社トラベルジップ/運営:台東区大河ドラマ「べらぼう」活用推進協議会) |
| 不正アクセスの時期 | 2026年10月22日(木)夜から10月23日(金)朝にかけて |
| 侵害されたもの | 委託事業者(株式会社トラベルジップ)のサーバー |
| 件数(1)写真ダウンロード申請者 | 対象者387人。組織名、氏名、メールアドレス、電話番号、利用目的、IPアドレス |
| 件数(2)資料請求・問い合わせ | 対象者715人。組織名、氏名、住所、メールアドレス、電話番号、問い合わせ内容 |
| 件数(3)その他サイト運営関係者等 | 対象者52人(情報項目の記載なし) |
| 「TAITOおでかけナビ」の合計 | 1,154人(上記3区分の単純合算。区の公表文に合計の記載はない) |
| 件数(4)蔦重ゆかりの地 台東区 | 問い合わせを行った方 93人。氏名(ふりがな)、メールアドレス、住所、電話番号、お問い合わせ内容等 |
| 報道との数字の違い | 報道(ScanNetSecurity)は「TAITOおでかけナビ 約5,500件」「蔦重 約120件」としており、区の公表文の数字と一致しない。本記事は区の公表文の数字を採用する |
| 原因・侵入経路 | 公表文に記載なし |
| 他社サービス経由か | 台東区の公表文に、他社サービス経由とする記述はない。委託事業者のサーバーへの不正アクセスとして公表されている |
| 事業者の対応 | 10月23日、不正アクセスを確認し、サーバーへの外部からのアクセスを遮断。調査の結果、個人情報流出を確認 |
| 台東区の対応(1) | 10月23日、個人情報流出の連絡を受け、庁内での危機管理対応協議および警察への相談を実施。同日、区公式ホームページへ掲載 |
| 台東区の対応(2) | 10月26日、被害状況確定、個人情報保護委員会へ報告 |
| 対象者への連絡 | 10月29日、台東区より対象者へお詫びの対応(メール)。「蔦重ゆかりの地 台東区」は協議会より同日メール |
| 再発防止策 | 公表文に記載なし |
| 問い合わせ先 | 株式会社トラベルジップ security@travelzip.jp/台東区観光課 03-5246-1151 |
| トラベルジップ自身の公表 | 本記事の時点(2026年11月5日)では、同社サイトに接続できず確認できていない |
| 台東区の別事案(参考) | 同時期に台東区は、ミラボ(障害者支援アプリ「ささえ〜る」)、Studio(竜泉福祉センター申込フォーム)、トラストバンク(ふるさとチョイス)など、別の事業者を原因とする事案も公表している |
図解:この事故の構造
- 資料請求・問い合わせをされた方 715人 組織名、氏名、住所、メールアドレス、電話番号、問い合わせ内容
- 写真ダウンロードを申請された方 387人 組織名、氏名、メールアドレス、電話番号、利用目的、IPアドレス
- 蔦重ゆかりの地 台東区の問い合わせ 93人 氏名(ふりがな)、メールアドレス、住所、電話番号、お問い合わせ内容等
- その他サイト運営関係者等 52人 情報項目は公表文に記載なし
何が起きたのか
台東区は2026年10月23日、観光情報サイト「TAITOおでかけナビ」の制作・運営委託先である株式会社トラベルジップが不正アクセスを受け、個人情報が流出したと公表しました。
公表文によれば、不正アクセスは10月22日(木)夜から23日(金)朝にかけて発生。事業者は23日にこれを確認し、サーバーへの外部からのアクセスを遮断。調査の結果、個人情報流出を確認しました。
流出が確認された情報は3区分です。①写真ダウンロードを申請された方 387人(組織名、氏名、メールアドレス、電話番号、利用目的、IPアドレス)。②資料請求や問い合わせをされた方 715人(組織名、氏名、住所、メールアドレス、電話番号、問い合わせ内容)。③その他サイト運営関係者等 52人。合わせて1,154人です。
同じトラベルジップが管理する「蔦重ゆかりの地 台東区」でも、問い合わせを行った93人の情報(氏名(ふりがな)、メールアドレス、住所、電話番号、お問い合わせ内容等)が流出しています。
台東区は連絡を受けた10月23日のうちに庁内で危機管理対応を協議し、警察へ相談し、区の公式ホームページに掲載。10月26日に被害状況を確定して個人情報保護委員会へ報告し、10月29日に対象者へメールでお詫びしています。
報道の数字と、区の公表文の数字が食い違っている
この事案を扱ううえで、1つ注意すべき点があります。報道の件数と、台東区の公表文の件数が一致しません。
報道(ScanNetSecurity、11月4日付)は「TAITOおでかけナビで約5,500件」「蔦重で約120件」としています。一方、台東区の公表文は「387人」「715人」「52人」の合計1,154人、蔦重は93人です。
4倍以上の開きがあります。理由は、読んだ範囲では確認できませんでした。
考えられる可能性はいくつかあります。①「件」と「人」の違い。 1人が複数回問い合わせていれば、件数は人数より大きくなります。②公表後に数字が更新された。 区の公表文は10月28日・29日に更新されており、本文の更新日は10月30日です。③報道が参照した資料が別にある。
本サイトは、公表元の数字を採用するという方針を取ります。本記事の件数は台東区の公表文に基づく1,154人と93人です。
そのうえで、この食い違いそのものが、読者にとって役立つ材料になります。同じ事故について、報じられる数字が複数あるということは珍しくありません。
中小企業が自社の事故を公表するとき、ここから学べることは1つです。「件」なのか「人」なのかを書く。 台東区は一貫して「対象者◯人」と書いています。区分ごとに人数を示し、合計は書いていません(合計を書くと、区分間の重複をどう扱ったかの説明が要るからでしょう)。
本サイトでは、佐川急便の「対象となる方の実人数を示すものではありません」、アララの「件数は合算しておりません」、フジッコの「件」と「人」が混在した例を扱ってきました。数字の単位を書くだけで、こうした混乱の多くは防げます。
IPアドレスが漏えい項目に入っている
「TAITOおでかけナビ」の①写真ダウンロード申請者の項目に、IPアドレスが入っています。これは比較的珍しい記載です。
IPアドレスは、インターネット上の住所にあたる番号です。フォームの送信記録として自動的に保存されることが多く、本人が入力したわけではない情報です。
単体では個人を特定できませんが、組織名・氏名・電話番号と並んでいれば話が別です。たとえば「どの会社から、いつ、何をダウンロードしたか」が分かります。企業の担当者にとっては、業務上の動きが読まれることになります。
ここで中小企業に考えてほしいのは、「自分が集めたつもりのない情報が、保存されていないか」という点です。
フォームのプログラムは、たいてい送信者のIPアドレス、送信日時、ブラウザの種類(ユーザーエージェント)、参照元ページを自動的に記録します。迷惑投稿の対策として必要な機能ですが、集めている自覚がないまま保存されていることがほとんどです。
そして台東区のように、漏えいしたときに項目として公表する必要が出てきます。 「何を持っているか」を把握していなければ、「何が漏れたか」も書けません。
やることは2つです。①自社のフォームが何を保存しているか、制作会社に聞く。 「入力項目のほかに、自動で記録している情報はありますか」と1行聞けば済みます。②保存期間を決める。 迷惑投稿対策なら、数か月で十分なはずです。
なお台東区は、同じ時期に別の事業者を原因とする事案も複数公表しています。ミラボ(障害者支援アプリ)、Studio(福祉センターの申込フォーム)、トラストバンク(ふるさと納税)。自治体は多数の事業者にサイトやフォームを委託しており、そのどれが侵害されても自治体の名前で公表することになります。 中小企業も、使っているサービスの数だけ同じリスクを抱えています。
時系列で見る経過
- 2026年10月22日(木)夜〜10月23日(金)朝株式会社トラベルジップのサーバーが不正アクセスを受ける
- 2026年10月23日(金)事業者が不正アクセスを確認し、サーバーへの外部からのアクセスを遮断。調査の結果、個人情報流出を確認
- 2026年10月23日(金)台東区が個人情報流出の連絡を受け、庁内での危機管理対応協議および警察への相談を実施。同日、区公式ホームページへ掲載
- 2026年10月25日(日)「蔦重ゆかりの地 台東区」について、事業者による調査の結果、個人情報流出を確認
- 2026年10月26日(月)被害状況確定。個人情報保護委員会へ報告
- 2026年10月29日(木)台東区より対象者へお詫びの対応(メール)。「蔦重ゆかりの地 台東区」は協議会よりメール
- 2026年10月30日区の公表ページの本文を更新
- 2026年11月4日報道(ScanNetSecurity)が事案を取り上げる
中小企業が学ぶべきポイント
- 報道の件数と公表元の件数が食い違うことがある。公表元の数字を確認する。
- 「件」なのか「人」なのかを書く。それだけで数字の混乱の多くは防げる。
- 区分ごとの人数を示し、合計を書かないという選択もある(重複の説明が不要になる)。
- フォームは、入力項目のほかにIPアドレス・送信日時・ブラウザ情報を自動で記録している。
- 「集めたつもりのない情報」も、漏えいすれば公表項目になる。
- 制作会社に「入力項目のほかに自動で記録している情報はありますか」と1行聞く。
- 自動記録の保存期間を決める。迷惑投稿対策なら数か月で足りる。
- 連絡を受けたその日のうちに、警察相談と公表まで進めた区の初動は速い。
- 自治体も中小企業も、委託しているサービスの数だけ同じリスクを抱えている。
出典・参考
- 台東区観光情報サイト「TAITOおでかけナビ」管理委託事業者への不正アクセスによる個人情報の流出(台東区)
- 「蔦重ゆかりの地 台東区」管理事業者への不正アクセスによる個人情報の流出(台東区)
- 台東区のウェブサイト管理者トラベルジップに不正アクセス(ScanNetSecurity)
本記事は、各組織の公表資料および報道をもとに、要点をわかりやすく整理したものです。 被害件数は「漏えいした可能性のある最大件数」として公表されている場合があり、実際に漏えいが確定した件数とは異なることがあります。 また、調査の進展により内容が変わる場合があります。正確な情報は必ず出典元の公式発表をご確認ください。