有効求人倍率(神奈川県)

数字は低い。でも人は採れません。

このページだけ「神奈川県」の数字です:有効求人倍率は都道府県単位までしか公表されていません。川崎市だけの数値は e-Stat では取れないため、神奈川県の数字を東京都・全国とならべています。川崎市民の41.9%は東京で働いているため(通勤・通学の流動)、県の数字はそのまま川崎の実感とは一致しない点にご注意ください。

このページの要点

① 神奈川県の有効求人倍率は0.91倍(2024年度)。東京都の1.76倍の52%、全国の1.25倍も下回ります。10年間、一度も東京都・全国を上回ったことがありません。

② これは「人手が余っている」という意味ではありません。県内で仕事を探す人の多くが、実際には東京で働きます。求人は東京のハローワークに、求職者は神奈川に登録される——この構造が数字を押し下げています。

③ 高卒の求人倍率は4.37倍(2023年度)。求人は2016年から30%増えたのに、就職した高卒者は31.9%減りました。これが本当の人手不足の姿です。

神奈川は、いつも全国より低い

有効求人倍率の推移(2015年度〜2024年度)

厚生労働省の公表値/1.0を超えると「求人が求職者より多い」

読み方:神奈川県(赤い線)は10年間ずっと最下位です。2018年度の1.20倍がピークで、2020年度に0.80倍まで落ち、2024年度は0.91倍。
東京都(青)は2018年度に2.13倍。神奈川県の1.8倍です。全国(緑)も一貫して神奈川県を上回っています。
神奈川県が1.0を超えたのは2017年度から2019年度の3年間だけ。それ以外の7年は、求職者のほうが多い状態でした。

出典:総務省「社会・人口統計体系 都道府県データ」(原典:厚生労働省「職業安定業務統計」)をもとに作成

求人と求職者の50年(1975年度〜2024年度・神奈川県)

月間有効求人数と月間有効求職者数(年度計)/折れ線は求人数÷求職者数

読み方:50年で景気の波がはっきり見えます。
1990年度がもっとも高く、求人92万件に対し求職者66万件で1.40。バブル経済の絶頂です。
そこから急落し、1999年度に0.30で最低。求職者は140万人を超えました。2010年度もリーマンショックの影響で0.35まで落ちています。
2024年度は求人71万5,000件、求職者80万5,000件で0.89。バブル期の水準には遠く及びません。
この折れ線は公表値とは別の計算です。公表の有効求人倍率(2024年度0.91)とは0.01〜0.12の差が出ます。長期の形を見るための参考値としてご覧ください。

出典:総務省「社会・人口統計体系 都道府県データ」をもとに作成

高卒の採用は、まったく別の世界

新規高卒者の求人数・就職者数と求人倍率(1975年度〜2023年度・神奈川県)

棒が人数、折れ線が求人数÷就職者数

読み方:2023年度の高卒求人倍率は4.37倍。求人1万5,698件に対し、就職した高卒者は3,592人しかいません。
2016年度と比べると、求人は1万2,081件から1万5,698件へ30%増。いっぽう就職者は5,274人から3,592人へ31.9%減っています。
求人が増え、応じる人が減る。これが人手不足の実像です。全体の有効求人倍率0.91という数字からは、この状況はまったく見えません。
長期で見ると、1975年度は7.36倍。高度成長期の名残です。1990年度3.77倍、2000年度1.69倍と下がり、2010年代半ばから再び上昇に転じました。

出典:総務省「社会・人口統計体系 都道府県データ」をもとに作成

解説:低い数字の読み方

10年間ずっと全国以下

2024年度の神奈川県の有効求人倍率は0.91倍。求職者100人に対して求人が91件、という意味です。

東京都は1.76倍。神奈川県の1.9倍です。全国は1.25倍、愛知県1.28倍、大阪府1.21倍、福岡県1.18倍。神奈川県は、比較した残り5地域のすべてを下回ります。

これは今年だけの話ではありません。2015年度から2024年度まで、10年間一度も全国平均を上回っていません。神奈川県が1.0を超えたのは2017年度から2019年度の3年間だけです。

なぜ神奈川だけ低いのか

「神奈川は仕事が少ない」と読むのは正しくありません。理由は統計の作られ方にあります。

有効求人倍率は、ハローワークに登録された求人数を、ハローワークに登録された求職者数で割ったものです。求人は事業所の所在地で、求職者は住んでいる場所でカウントされます。

「通勤・通学の流動」のページで見たとおり、川崎市民の41.9%は他県(ほぼ東京)で働いています。「昼間人口と夜間人口」で見た昼夜間人口比率87.3%も同じことを示しています。

つまり神奈川県では、求職者は県内に登録されるのに、その人が就く仕事は東京都の求人として数えられる。分母は大きく、分子は小さくなります。東京都が2倍を超えるのは、その裏返しです。

「就業者数・失業率・女性就業」のページで見たとおり、川崎市の完全失業率は政令指定都市20市で最低でした。失業率は最低なのに、有効求人倍率は全国以下。この2つが同時に成り立つのは、県境をまたぐ通勤があるからです。

50年の波

求人数と求職者数そのものを50年分たどると、景気の波がはっきり見えます。

もっとも高かったのは1990年度。求人92万1,730件に対し求職者65万7,276人で、1.40。バブル経済の絶頂期です。

そこからの落ち方は急でした。1993年度0.48、1995年度0.39、そして1999年度に0.30で最低。求職者は140万人を超え、求人は45万件を下回りました。

2005年度に0.97まで戻しますが、リーマンショックで再び急落し2010年度0.35。2019年度に1.06まで回復したところでコロナ禍を迎え、2020年度0.74。2024年度は0.89です。

バブル期の水準には、35年たっても戻っていません。

なお、この折れ線は求人数を求職者数で割った参考値であり、公表される有効求人倍率とは定義が異なります。2024年度でいえば参考値0.89に対し公表値0.91。差は0.01〜0.12程度です。水準の絶対値ではなく、形の変化を見るためのものとお考えください。

高卒だけ4.37倍

全体の数字が0.91倍でも、採用の現場の実感はまったく違います。それがはっきり出るのが高卒採用です。

2023年度、神奈川県の新規高卒者向け求人は1万5,698件。これに対して実際に就職した高卒者は3,592人。求人倍率は4.37倍です。

2016年度と比べてみます。求人1万2,081件、就職者5,274人、2.29倍。7年で求人は30%増え、就職者は31.9%減りました。

求人が増えたのは、企業が人手を求めているからです。就職者が減ったのは、そもそも高卒で就職する人が減っているからです。「市民の最終学歴」のページで見たとおり、川崎市の大学・大学院卒率は33.7%で政令指定都市20市の1位。進学率が高い地域ほど、高卒の就職市場は薄くなります。

長期で見ると、1975年度は7.36倍でした。高度成長期の「金の卵」の時代です。1980年度2.66倍、1985年度2.20倍と落ち着き、バブル期の1990年度に3.77倍へ。その後は就職氷河期で1995年度1.87倍、2000年度1.69倍まで下がりました。2010年度1.64倍が底で、そこから一貫して上昇しています。

いま高卒の採用環境は、バブル期を超えています。

中小企業への示唆

1. 「有効求人倍率0.91だから採用は楽」は完全な誤読——この数字は県外通勤の多さが作っています。実際の採用競争は東京の求人と戦うことです。東京都の1.76倍が、川崎の事業所が実際に置かれている環境に近いと考えるべきです。

2. 高卒採用は4.37倍。事実上、選べません——1人採るのに4件の求人が競合します。求人票を出して待つ方式は、この倍率では機能しません。高校との関係づくり、職場見学、早期の接触。動かなければ届きません。

3. 高卒の母数そのものが減っている——就職者は7年で31.9%減。これは景気ではなく構造です。今後も回復しません。高卒前提の職種は、設計から見直す必要があります。

4. 狙うべきは「女性の30代」と「高齢層」——「女性の年齢別就業率」のページで見たとおり、川崎では25〜29歳90.3%の女性が35〜39歳で76.7%に落ちます。およそ7,100人が仕事を離れている計算です。「職業構成と雇用形態」で見たとおり60〜64歳の労働力率も5年で8.5ポイント上がりました。新卒より、この2つの層のほうが現実的です。

5. 外国人も選択肢に入ってきた——「住民基本台帳の人口・世帯数」のページで見たとおり、川崎市の外国人は11年でほぼ倍増し、直近4年の人口増加の77%を占めます。採用市場としての存在感は、統計上すでに無視できません。

データの注意点

この統計は都道府県単位までしかありません。川崎市だけの有効求人倍率は e-Stat では取得できません。神奈川県の数値は、横浜市・相模原市・県西部を含む県全体のものです。

有効求人倍率はハローワークの登録データだけで計算されます。求人サイト、人材紹介、縁故、直接応募は含まれません。実際の採用市場の一部しか映していない点にご注意ください。

求人は事業所の所在地、求職者は住んでいる場所で集計されます。県境をまたぐ通勤が多い地域では、この違いが数値を大きく歪めます。神奈川県の低さは、その典型例です。

「求人数÷求職者数」の折れ線は、公表される有効求人倍率とは別の計算です。公表値はパートタイムの扱いなどが異なり、2015年度以降で比べると0.01〜0.12の差があります。長期の形を見る目的でのみ使ってください。公表値そのものは2015年度からしか市区町村データに収録されていません。

数値はすべて年度の値です(4月〜翌3月)。新規学卒者は3月卒業者にあたります。