令和4年度 第2次試験問題 事例Ⅲ
与件文
【企業概要】
1C社は1964年創業、資本金2,500万円、従業員60名の金属製品製造業である。製品は、売上の7割を占めるアルミニウムおよびステンレス製プレス加工製品(以下「プレス加工製品」という)と、残り3割のステンレス製板金加工製品(以下「板金加工製品」という)である。プレス加工製品は金型を使用して成形する鍋、トレー、ポットなどの繰返受注製品で、板金加工製品は鋼材を切断や曲げ、溶接加工して製作する調理台、収納ラック、ワゴンなどの個別受注製品である。どちらもホテル、旅館、外食産業などの調理場で使用される製品で、業務用食器・什器の卸売企業2社を販売先としている。
2C社は、卸売企業が企画する業務用什器の板金加工製品を受託生産する企業として創業した。その後金属プレスや金型製作設備を導入してプレス加工製品の生産を始めている。難易度の高い金型製作技術の向上に努めて、ノウハウを蓄積してきたため、コスト低減や生産性向上に結びつく提案などが可能である。
3近年は観光需要で受注量は毎年増加していたが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大による外国人の新規入国規制や、外食産業の営業自粛による影響を受けて減少している。
【生産の現状】
4生産部門は、生産管理課、資材課、設計課、金型製作課、プレス加工課、製品仕上課、板金加工課、品質管理課で構成されている。
5プレス加工製品の生産プロセスには、金型を製作する金型製作工程と、その金型を利用して同じ製品の繰返受注生産を行う製品量産工程がある(次ページの図参照)。
6C社の金型製作工程は、発注元から提示される形状やサイズの概要を表したデザイン図を基に仕様を確認した後に「金型設計」を行い、金型を構成する部品を製作する「金型部品加工」、加工した部品を組み立てる「金型組立」、その後の調整や研磨などを行う「金型仕上」を経て、「試作確認」を行い、さらに試作品の品質を発注元との間で確認して完成する。設計開始から完成までの金型製作期間は、難易度によって異なるが、短いもので約2週間、長いもので約1か月を要する。
7「金型設計」は、設計課が2次元CADを活用し担当している。発注元との仕様確認が遅くなることや、発注元からの設計変更、仕様変更の要請があり、設計期間が長くなることもある。また設計課では、個別受注の板金加工製品の製品設計も担当するため、設計業務の混乱が生じ金型製作期間全体に影響することもしばしば生じている。
8「金型組立」、「金型仕上」は、プレス加工技術にも習熟するベテラン技能者が担当しているが、高齢化している。担当者は、金型の修理や改善作業も兼務し、製品の品質や製造コストに影響を及ぼす重要なスキルが必要なことから、若手の養成を検討している。
9(図「C社のプレス加工製品の生産プロセス」は割愛。原本PDF参照) 金型製作工程は、顧客の「デザイン図」→営業課「仕様確認」→設計課「金型設計」→金型製作課「金型部品加工」→「金型組立」→「金型仕上」→「試作確認」→品質管理課「品質評価」→顧客「品質・仕様確認」と流れる。製品量産工程は、顧客「量産発注/繰返発注」→営業課「量産受注」→生産管理課「月度生産計画」→資材課「資材発注」→プレス加工課「プレス加工」→製品仕上課「製品部品組付」→「製品仕上」→品質管理課「製品検査」→顧客「納品」と流れる。
10金型が完成した後の製品量産工程は、発注元から納品月の前月中旬に製品別の生産依頼数と納品指定日が通知され、それに基づいて前月月末までに「月度生産計画」を作成して「資材発注」する。プレス加工課では「プレス加工」を行い、製品仕上課で取っ手などの部品を組み付ける「製品部品組付」と製品の最終調整をする「製品仕上」を行い、通常月1回発注元へ納品する。
11C社の「プレス加工」は、生産能力に制約があり、C社全体の生産進捗に影響している。プレス加工機ごとに担当する作業員が材料の出し入れと設備操作を行い、加工製品を変えるときには、その作業員が金型交換作業と材料準備作業など長時間の段取作業を一人で行っている。
12プレス加工製品の生産計画は「プレス加工」の計画だけが立案され、「製品部品組付」、「製品仕上」はプレス加工終了順に作業する。生産計画は、各製品の1日間の加工数量でそれぞれの基準日程を決めて立案する。以前は発注元もこれを理解して、C社の加工ロットサイズを基本に発注し、C社で生産した全量を受領して、発注元で在庫対応していた。しかし、最近は発注元の在庫量削減方針によって発注ロットサイズが減少している。ただC社では、基準日程によって設定しているロットサイズで加工を続け、確定受注量以外はC社内で在庫している。
13C社の受注から納品に至る社内業務では、各業務でパソコンを活用しているが、情報の交換と共有はいまだに紙ベースで行われている。
【新規製品事業】
14数年前C社では受注拡大を狙って、雑貨・日用品の商談会に出展したことがある。その際商談成立には至らなかったが、中堅ホームセンターX社から品質を高く評価された。今回そのX社から新規取引の商談が持ち込まれた。
15X社では、コロナ禍の2020年以降も売上が順調に推移しているが、その要因の一つとしてアウトドア商品売上の貢献がある。しかし新型コロナウイルスのパンデミックにより、中国や東南アジア諸国企業に生産委託しているPB商品の納品に支障が生じて、生産、物流など現在のサプライチェーンの維持が難しくなっている。また今後も海外生産委託商品の仕入れ価格の高騰が懸念されることから、生産委託先をC社へ変更することについてC社と相互に検討を行った。
16C社社長は、当該事業の市場成長性と自社の強みを考慮して戦略とビジネスプロセスを見直し、積極的にこの事業に取り組むこととした。
17X社の要請は、X社のアウトドア用PB商品のうち、中価格帯の食器セット、鍋、その他調理器具などアルミニウム製プレス加工製品の生産である。ただC社社長は、今後高価格な製品に拡大することも期待している。
18X社からの受注品は、商品在庫と店舗仕分けの機能を持つ在庫型物流センターへの納品となり、商品の発注・納品は、次のようになる。まず四半期ごとにX社が商品企画と月販売予測を立案し、C社に情報提供される。確定納品情報については、X社各店舗の発注データを毎週月曜日にX社本社で集計する。在庫量からその集計数を差し引いて発注点に達した製品についてX社の発注データがC社に送付される。納期は発注日から7日後の設定である。1回の発注ロットサイズは、現状のプレス加工製品と比べるとかなり小ロットになる。
設問
2020年以降今日までの外部経営環境の変化の中で、C社の販売面、生産面の課題を80字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
販売面は、観光・外食需要が減少した既存2社への依存を脱し新規取引先を開拓し受注を確保すること。生産面は、小ロット化に対応し短納期で生産すること。
設問の制約:「2020年以降(コロナ以降)の外部環境変化」を踏まえ、「販売面」と「生産面」の課題を分けて書く。80字と短いので各40字程度で要点に絞る。
- 外部環境の変化…第3段落。コロナで観光需要・外食産業が落ち込み受注減。販売先は卸売2社のみ(第1段落)=取引先依存。
- 販売面の課題…需要減と取引先2社依存への対応=新規取引先の開拓・受注確保(X社の商談=第14・15段落が布石)。
- 生産面の課題…第12段落の発注ロットサイズの減少(小ロット化)への対応、納期対応力の確保。
第1問は事例全体の論点(第2問短納期化・第3問小ロット化・第5問新規取引)を要約する位置づけ。後続設問と整合させる。
C社の主力製品であるプレス加工製品の新規受注では、新規引合いから量産製品初回納品まで長期化することがある。しかし、プレス加工製品では短納期生産が一般化している。C社が新規受注の短納期化を図るための課題とその対応策を120字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
課題は金型製作期間の短縮である。対応策は、①仕様確認や設計変更による遅延を防ぐため発注元と早期に仕様を確定し、②金型設計と板金設計の業務を分離・標準化して設計の混乱を解消し、③3次元CAD等を活用して設計を効率化し、金型製作を短納期化する。
問題の所在:新規受注の長期化は金型製作工程で起きている(第6段落:金型製作期間は2週間〜1か月)。製品量産工程ではなく金型製作の短縮が課題=ここに焦点。
遅延要因を一つずつ潰す:第7段落に長期化の原因が集中。
- 仕様確認が遅い・設計変更/仕様変更で設計期間が延びる → 発注元との早期の仕様確定・合意。
- 設計課が金型設計と板金製品設計を兼務し業務の混乱 → 設計業務の分離・標準化、人員配置の見直し。
- 2次元CAD(第7段落) → 3次元CAD化・設計の標準化/流用で効率化。
「課題+対応策」を対応させて書く。設問は金型側に限定されている点を外さない。
C社の販売先である業務用食器・什器卸売企業からの発注ロットサイズが減少している。また、検討しているホームセンターX社の新規取引でも、1回の発注ロットサイズはさらに小ロットになる。このような顧客企業の発注方法の変化に対応すべきC社の生産面の対応策を120字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
対応策は、①プレス加工の段取作業を外段取り化・標準化し小ロット生産に対応する。②大ロット固定の生産計画を確定受注量に応じた計画に見直し過剰在庫を削減する。③多能工化と応援体制で能力制約を緩和する。
論点の核:小ロット化に対応するには段取り時間の短縮が定石。与件の制約を生産面の施策で解消する。
- 段取り長時間(第11段落)…加工製品を変えるたびに作業員一人が金型交換・材料準備の長時間段取りを実施。→段取りの外段取り化・標準化・治具活用で交換時間を短縮し、小ロットでも頻繁な切替に対応。
- 大ロット固定の生産計画(第12段落)…基準日程のロットサイズで加工を続け確定受注以外を在庫。→確定受注量に合わせた生産計画・小ロット化で過剰在庫を削減。
- プレス加工の能力制約(第11段落)…全体進捗に影響。→多能工化・応援体制で能力を確保。
「生産面の対応策」に限定されているので、販売や情報化に逃げず段取り短縮・生産計画見直し・能力確保に絞る。
C社社長は、ホームセンターX社との新規取引を契機として、生産業務の情報の交換と共有についてデジタル化を進め、生産業務のスピードアップを図りたいと考えている。C社で優先すべきデジタル化の内容と、そのための社内活動はどのように進めるべきか、120字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
優先すべきは、受注・生産計画・進捗・在庫・資材情報を一元管理し全部門で共有するシステム化である。社内活動は、紙ベース業務を標準化・データ化し、部門横断のプロジェクトで段階的に導入・定着させる。
設問の制約:「優先すべきデジタル化の内容」と「そのための社内活動の進め方」の2点を必ず両方書く。
デジタル化の内容:第13段落に「各業務でパソコンは使うが情報の交換・共有は紙ベース」とある=ここがボトルネック。X社取引は小ロット・短納期・週次発注(第18段落)で情報の即時共有が必須。よって受注・生産計画・進捗・在庫・資材情報を一元管理し全部門で共有するシステム化を優先。
社内活動の進め方:ITは導入だけでは定着しない。
・現状業務(紙ベース)の棚卸し・標準化・データ化
・部門横断のプロジェクト体制で段階的に導入
・運用教育・定着まで行う
「内容」と「進め方」を分けて書くと設問要求を満たせる。
C社社長が積極的に取り組みたいと考えているホームセンターX社との新規取引に応えることは、C社の今後の戦略にどのような可能性を持つのか、中小企業診断士として100字以内で助言せよ。
解答例・解説を見る
成長するアウトドア市場と一般消費者向けに販路を広げ、卸売2社依存から脱却できる。小ロット短納期生産力を獲得し、高付加価値な高価格帯製品や自社企画品へ展開して、収益性を高め事業を拡大できる可能性を持つ。
設問の方向:「今後の戦略にどのような可能性」=前向き・将来志向で、X社取引がもたらす成長機会を述べる。
与件から可能性を拾う:
- 新市場・新販路…第15段落、X社はアウトドア商品が好調で売上順調。=成長市場・一般消費者向けへ販路拡大。卸売2社依存(第1問)から脱却。
- 生産力の獲得…小ロット・短納期対応力(第2〜4問で整備)を獲得し競争力に。
- 高付加価値化…第17段落、社長は今後高価格帯製品への拡大を期待。品質が評価されている(第14段落)強みを生かし高付加価値・自社企画品へ。
第6段落「収益性強化」の経営課題に応える形で、販路拡大+生産力+高付加価値化→収益性向上・事業拡大でまとめる。