事案の概要データ
| 公表日 | 2026年11月5日 |
|---|---|
| 異常検知日 | 2026年10月30日(通常と異なるエラーを検知し、不正アクセスの可能性を把握して対象システムを緊急停止) |
| 件数 | 電力量情報 4,139件(漏えいの可能性。確定件数ではない) |
| 対象となる情報 | 使用電力量(月間値・30分値)、需要側の供給地点特定番号、売電電力量(月間値・30分値)、発電側の受電地点特定番号 |
| 対象に含まれない情報 | お客さま名、住所、電話番号、メールアドレス、口座情報など |
| 停止中のサービス | 「電力量・料金照会サービス」。復旧見込みは検討中 |
| 電力供給への影響 | 安定供給に支障なし |
| 関係機関への報告 | 2026年11月2日に個人情報保護委員会・監督官庁へ報告済み |
| 対象者への通知 | 2026年11月中旬を目途に個別通知予定 |
| 侵入経路・攻撃手法 | 公表されていない。ランサムウェア感染や電力制御システムの侵害が確認されたとする発表ではない |
| 2026年6月の別事案との関係 | バックアップ用外部記憶媒体の所在不明(最大1,354万件に修正)とは原因・時期・対象情報が異なる別事案。件数を合算できない |
図解:この事故の構造
何が起きたのか
九州電力送配電株式会社は2026年11月5日、同社の一部システムに対する不正アクセスにより、使用電力量などの情報4,139件が外部に漏えいした可能性があると公表しました。
10月30日に通常と異なるシステムエラーを検知し、調査で不正アクセスの可能性が判明したため、対象システムを緊急停止しています。その後のサーバーログの調査で、漏えいの可能性があると判断しました。
対象は、使用電力量と売電電力量の月間値・30分値、需要側の供給地点特定番号、発電側の受電地点特定番号です。氏名・住所・電話番号・メールアドレス・口座情報などの契約情報は含まれていないと説明されています。
停止中のサービスは「電力量・料金照会サービス」で、復旧見込みは検討中。電力の安定供給には支障がないと明記されています。11月2日に個人情報保護委員会と監督官庁へ報告済みで、対象者には11月中旬を目途に個別通知する方針です。
「氏名が入っていない数字」も個人情報になる
漏えいしたのは、氏名も住所も含まない電力の使用量の数字です。「それなら問題ないのでは」と思うかもしれません。
ところが、30分ごとの使用量というのは、かなり雄弁なデータです。
①いつ家にいないかが分かる。 日中ずっと使用量が低い家は、留守がちです。
②生活のパターンが分かる。 起床・就寝の時間、在宅勤務かどうか、長期の旅行の時期。
③事業所なら、稼働状況が分かる。 工場の稼働時間、休日、生産を落としている時期。競合や取引先に知られたくない情報です。
九州電力送配電の公表でも、「単独で氏名や住所が含まれなくても、他の情報との照合条件によっては、利用傾向や活動時間帯の推測につながる場合がある」という整理がなされています。
ここが中小企業にとっての応用点です。「氏名が入っていないデータ」を、管理の対象外にしていませんか。
たとえば次のようなデータです。①入退室の記録(社員証のログ)②車両の運行記録(デジタコ・ドラレコのGPS)③POSの時間帯別売上 ④Webサイトのアクセスログ。
どれも氏名の列はありません。けれども、他の情報と突き合わせれば個人や事業の中身が分かります。 そして、こうしたデータは「個人情報」として扱われていないため、アクセス制限も保存期間も決められていないことが多いのです。
やることは単純です。氏名の有無ではなく、「漏れたら困るか」で管理の対象を決める。 困るなら、見られる人を絞り、保存期間を決めてください。
「照会サービスは止めたが、電気は止めない」という切り分け
本件で実務として参考になるのは、止めるものと止めないものを切り分けた点です。
停止したのは「電力量・料金照会サービス」という顧客向けのWebサービスです。電力の供給そのものは続いています。公表文でも、安定供給に支障はないと明記しています。
これは、システムが用途ごとに分かれていたからできたことです。もし照会サービスと電力の制御が同じネットワーク上にあれば、切り離す判断はもっと難しくなります。
本サイトでは2026年10月の経済産業省「デントリネット」(サイト停止、報告はメール受付に切り替え)、11月の損保ジャパン(代替システムで業務継続)など、止めても業務が続いた例を扱ってきました。共通するのは、代わりの手段があったことです。
中小企業がすぐできる備えは、これです。「このシステムが止まったら、どうやって仕事を続けるか」を、システムごとに1行で書く。
・受注システムが止まったら → 電話とFAXで受け、Excelに記録して後で入力
・会計システムが止まったら → 紙の伝票で記録し、復旧後にまとめて入力
・予約システムが止まったら → 電話で受け、紙の予約表に書く
この1行があるかないかで、「止める」判断ができるかどうかが変わります。 代替手段がなければ、止められません。止められなければ、被害は広がり続けます。
なお、九州電力送配電は2026年6月にバックアップ用外部記憶媒体の所在不明(後に最大1,354万件に修正)も公表しています(本サイト掲載)。原因・時期・対象情報が異なる別事案であり、件数を合算することはできません。
時系列で見る経過
- 2026年10月30日一部システムで通常と異なるエラーを検知。調査で不正アクセスの可能性が判明し、対象システムを緊急停止
- 2026年10月30日以降サーバーのログを調査し、電力量情報が社外に漏えいした可能性があると判断。対象システムをネットワークから切り離す
- 2026年11月2日個人情報保護委員会と監督官庁へ報告
- 2026年11月5日公表。電力量情報4,139件の漏えいの可能性。「電力量・料金照会サービス」は停止中
- 2026年11月中旬(予定)対象者へ個別に通知
中小企業が学ぶべきポイント
- 氏名も住所も含まない「使用量の数字」でも、30分ごとのデータは生活や稼働のパターンを示す。
- 入退室記録、車両の運行記録、時間帯別売上、アクセスログ。氏名の列がないデータは管理の対象外になりがち。
- 管理の対象は、氏名の有無ではなく「漏れたら困るか」で決める。困るなら権限を絞り保存期間を決める。
- 顧客向けWebサービスは止め、電力供給は続けた。用途ごとにシステムが分かれていたからできた切り分け。
- 「このシステムが止まったら、どう仕事を続けるか」をシステムごとに1行で書く。代替手段がなければ止められない。
- 異常なエラーを検知して即日システムを緊急停止した。検知から停止までの速さが被害を抑える。
- 同社の2026年6月の外部記憶媒体紛失(最大1,354万件)とは別事案。件数を合算できない。
- 4,139件は「情報の件数」であり、4,139人の個人情報が流出したと断定できる数字ではない。
出典・参考
本記事は、各組織の公表資料および報道をもとに、要点をわかりやすく整理したものです。 被害件数は「漏えいした可能性のある最大件数」として公表されている場合があり、実際に漏えいが確定した件数とは異なることがあります。 また、調査の進展により内容が変わる場合があります。正確な情報は必ず出典元の公式発表をご確認ください。