事案の概要データ
| 報道 | 2026年10月26日(Security NEXT) |
|---|---|
| 内容 | 児童生徒の名簿や保護者の氏名・連絡先などを、本人の同意なくPTAへ提供(名簿を閲覧させた) |
| 2025年度 | 小学校10校で2,713人、中学校3校で409人 |
| 2026年度 | 小学校5校で2,029人、中学校2校で313人 |
| 合計の扱い | 年度ごとの単純加算は2025年度3,122人・2026年度2,342人。同一人物の重複の有無は不明 |
| きっかけ | 2026年2月頃、PTAからの依頼で名簿を閲覧させたことが判明 |
| 発覚 | 2026年4月下旬〜5月にかけて保護者から市教育委員会へ問い合わせ |
| 対応 | 書面で保護者に経緯を説明し謝罪。個人情報保護委員会へ報告 |
| 開始時期 | 不明(確認できるのは2025年度分から) |
| 注意 | 市自身の公表文を確認できておらず、内容は報道にもとづく |
図解:この事故の構造
何が起きたのか
厚木市は、市内の複数の小中学校で、児童生徒や保護者の個人情報を本人の同意なくPTAへ提供していたことを明らかにしたと報じられました。
報道によれば、対象となった情報は「児童生徒の名簿や保護者の氏名、連絡先など」。人数は2025年度が小学校10校で2,713人・中学校3校で409人、2026年度が小学校5校で2,029人・中学校2校で313人とされています。
きっかけは、2026年2月頃に、PTAからの依頼で名簿を閲覧させたことが判明したこと。その後、2026年4月下旬から5月にかけて保護者から市教育委員会へ問い合わせがあり、問題が判明しました。市は対象校への聞き取りを行い、全市立小中学校の状況を調べています。
対応として、書面で保護者に経緯を説明して謝罪し、個人情報保護委員会へ報告を行っているとされています。いつから続いていたかは報じられておらず、確認できるのは2025年度分からです。
なお、本記事の時点では市自身の公表文を確認できていません。内容は報道にもとづきます。
これは「漏えい」ではない
この事案は、このサイトで扱ってきた他の事案と性格が違います。攻撃者はいません。システムも破られていません。情報は外部に流出していません。
起きたのは、学校が持っている名簿を、PTAという別の団体に見せた、ということです。
ではなぜ問題なのか。PTAは学校とは別の組織だからです。任意加入の団体であり、法人格を持つ場合もあります。学校がPTAに名簿を渡すことは、法律上は「第三者提供」にあたります。
個人情報保護法では、個人データを第三者に提供するには、原則として本人の同意が必要です(例外もありますが、保護者名簿をPTAに渡すことは通常その例外にあたりません)。同意を取らずに渡していたなら、法令違反になります。
ここが分かりにくいところです。関係者だから渡していい、ではありません。 PTAは学校に協力する団体で、保護者自身が会員です。「同じ学校の関係者なのに、なぜ同意がいるのか」と感じるのは自然です。
しかし法律は、組織が別なら別と見ます。実質的に親しいかどうかではなく、誰が個人情報を管理する主体かで判断されます。
中小企業でも、まったく同じことが起きている
「学校とPTAの話でしょう」と思うかもしれません。しかし、この構造は中小企業の日常にあります。
・取引先に、自社の顧客リストを見せる(共同でDMを送るため、キャンペーンを一緒にやるため)
・同業者の団体や組合に、会員企業の担当者名簿を提出する
・グループ会社に、従業員や顧客の名簿を渡す(親会社だから、子会社だから、で渡していないか)
・商工会議所や業界団体に、取引先リストを提供する
・イベントの共催先に、申込者名簿を渡す
・保険代理店や福利厚生の業者に、従業員の名簿を渡す
どれも「関係者だから」「協力しているから」で行われがちです。しかし、別の法人・別の団体なら第三者提供です。
特に注意したいのがグループ会社です。資本関係があっても、法人が別なら第三者です。「同じグループだから大丈夫」は成り立ちません。
渡していいケースと、手続き
では、どうすれば渡せるのか。中小企業の実務では、次のどれかになります。
①本人の同意を取る。 いちばん確実です。申込書やアンケートに「○○(団体名)に提供することがあります」と書いて、チェックを入れてもらう。入会時や採用時にまとめて取っておくのが現実的です。
②委託として渡す。 自社の業務を代わりにやってもらうために渡すなら、第三者提供ではなく「委託」になり、同意は不要です。ただし、委託先を監督する義務が発生します。契約書に、目的外利用の禁止、再委託の制限、終了時の返却・消去を書いてください。発送代行やシステム会社はこれにあたります。
③共同利用として渡す。 あらかじめ本人に、共同利用する旨、項目、範囲、目的、管理責任者を知らせておけば、同意なしで共有できます。グループ会社間でよく使われる方法です。プライバシーポリシーに書いておきます。
④匿名にして渡す。 個人が特定できない形(氏名を外し、集計した数字だけ)にすれば、個人情報ではなくなります。「何人参加した」で足りるなら、名簿を渡す必要はありません。
本件のPTAの場合、現実的な解決は①か③です。入学時の書類に「PTA活動のため、氏名と連絡先をPTAに提供します。同意しない場合はこちらにチェック」と入れておけば済んだ話です。
そして今日できることは1つ。自社から外に出している名簿を、紙に書き出してください。 誰に、何を、何のために、どういう根拠(同意・委託・共同利用)で渡しているか。4列です。根拠の欄が空いているものが、本件と同じ状態です。
「気づかれなかった」のはなぜか
本件が判明したのは、保護者からの問い合わせでした。市が自主点検で見つけたのではありません。
この種の問題は、内部からは見えにくいです。悪意がなく、業務として自然に行われ、誰も困っていないように見えるからです。学校の先生も、PTAの役員も、「今までどおり」にやっているだけです。
だから、ルールを知っている人が外から指摘するまで続きます。本件も、2026年2月に1件が判明し、4〜5月の保護者からの問い合わせで本格的に調べることになりました。
中小企業でも同じです。長年の慣習で名簿をやり取りしていて、誰も疑問を持たない。そのまま何年も続く。そして、たまたま詳しい人が入社したときや、取引先から指摘されたときに発覚します。
予防する方法は、年1回、名簿のやり取りを見直す機会を作ることです。個人情報保護の研修をやるなら、そこで「外に出している名簿」の棚卸をしてください。事故が起きてから調べるより、はるかに簡単です。
時系列で見る経過
- (開始時期は不明)市内の複数の小中学校が、児童生徒・保護者の個人情報を本人の同意なくPTAへ提供
- 2026年2月頃PTAからの依頼で名簿を閲覧させたことが判明
- 2026年4月下旬〜5月保護者から市教育委員会へ問い合わせがあり、問題が判明
- (その後)市が対象校への聞き取りを行い、全市立小中学校の状況を調査
- 2026年10月26日2025年度・2026年度の対象人数が報じられる。書面で保護者へ経緯を説明し謝罪、個人情報保護委員会へ報告
中小企業が学ぶべきポイント
- これは漏えいではなく「同意のない第三者提供」。攻撃者がいなくても個人情報の事故になる。
- 組織が別なら第三者。実質的に親しいかどうかではなく、誰が管理する主体かで判断される。
- グループ会社も第三者。資本関係があっても法人が別なら同意がいる。
- 渡す方法は4つ。①本人の同意 ②委託(監督義務あり)③共同利用(事前に知らせる)④匿名化・集計。
- 委託として渡すなら、契約書に目的外利用の禁止・再委託の制限・終了時の返却と消去を書く。
- 共同利用にするなら、項目・範囲・目的・管理責任者をプライバシーポリシーに書いておく。
- 「何人参加したか」で足りるなら、名簿を渡さず集計値だけ渡す。
- 自社から外に出している名簿を、誰に/何を/何のために/どういう根拠で、の4列で書き出す。
- この種の問題は内部からは見えない。年1回、名簿のやり取りを見直す機会を作る。
出典・参考
本記事は、各組織の公表資料および報道をもとに、要点をわかりやすく整理したものです。 被害件数は「漏えいした可能性のある最大件数」として公表されている場合があり、実際に漏えいが確定した件数とは異なることがあります。 また、調査の進展により内容が変わる場合があります。正確な情報は必ず出典元の公式発表をご確認ください。