このページの要点
① すでに一度、順位が入れ替わっている。2015年には卸売業・小売業(4,823億円)が製造業(4,047億円)を上回りました。2020年は製造業5,352億円・卸売業小売業5,342億円で、差はわずか10億円(0.2%)です。
② 製造業は9年で22.4%減。6,894億円(2011年)から5,352億円(2020年)へ。いっぽう卸売業・小売業は3,402億円から5,342億円へ+57.0%です。
③ 伸びたのはサービスと医療・福祉。サービス業(他に分類されないもの)が+82.0%、医療・福祉が+61.9%、情報通信業が+49.5%。市全体では+10.3%です。
売上から、仕入れや外注費など他社から買ったものの費用を差し引いた金額です。その事業所が新しく生み出した価値を表します。
売上が大きくても、仕入れが多ければ付加価値は小さくなります。逆に売上が小さくても、人の手や知識で価値を足していれば付加価値は大きくなります。「規模」ではなく「稼ぐ力」を測る指標です。
どの産業が価値を生んでいるか
産業別の付加価値額(2020年)
単位は億円/民営事業所
3位以下は医療・福祉(3,432億円)、情報通信業(3,326億円)と続きます。
「事業所数・従業者数の推移」のページで見たとおり、事業所数では製造業は7番目にすぎません。数は少ないが、1か所あたりが大きく稼ぐ——製造業の性格がここにも表れています。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」(経済センサス‐活動調査)をもとに作成
製造業と卸売業・小売業の逆転
単位は億円/2011年・2015年・2020年
ところが2015年、製造業が4,047億円まで落ち込み、卸売業・小売業(4,823億円)が一度追い抜いています。2020年は製造業が5,352億円へ戻し、10億円差で首位を奪い返しました。
9年間で製造業は−22.4%、卸売業・小売業は+57.0%。すでに順位は一度入れ替わっており、いまは拮抗した状態にあります。どちらが首位かは、調査年の景気次第という段階に入りました。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
9年間で伸びた産業、減った産業
2011年から2020年の増減率
プラスが伸びた産業、マイナスが減った産業
もっとも減ったのは金融業・保険業で−59.0%。次いで生活関連サービス業・娯楽業(−40.7%)、学術研究・専門技術サービス業(−24.9%)、製造業(−22.4%)。
市全体では+10.3%と増えています。減った産業の分を、伸びた産業が上回って埋めた形です。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
構成比の変化
100%積み上げ/付加価値額の合計に占める割合
かわって卸売業・小売業が13.1%から18.6%へ、医療・福祉が8.2%から12.0%へ、情報通信業が8.6%から11.6%へ上昇。
「工業都市」から「サービス都市」へという変化が、価値を生む側の統計にもはっきり出ています。「事業所数・従業者数の推移」のページで見た第2次産業の従業者半減(1981→2006年)は、雇用の面で先に起きていました。付加価値の面では、それが10年遅れて表面化しています。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
政令指定都市20市のなかで
付加価値額の合計(2020年)
単位は億円/川崎市を濃い色で表示
「政令指定都市20市 データ比較」のページで見たとおり、川崎市の人口は6位、製造品出荷額は3位、財政力指数は1位でした。付加価値額の10位という順位は、それらより低い水準にあります。
理由は「通勤・通学の流動」のページで見たとおりです。市民の41.9%は他県で働いており、川崎市民が生み出す価値の相当部分は東京都内で計上されます。この統計は「市内の事業所が生んだ価値」なので、そこには入りません。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
解説:稼ぎ頭の交代
10億円という差
2020年の川崎市で、もっとも多くの付加価値を生んだ産業は製造業でした。5,352億円、市全体の18.7%です。
2位は卸売業・小売業の5,342億円(18.6%)。その差はわずか10億円、率にして0.2%にすぎません。
この接近は、ごく短期間で起きました。2011年、製造業は6,894億円、卸売業・小売業は3,402億円。2.0倍の差があったのです。
ところが中間の2015年を見ると、状況はもっと動いています。製造業は4,047億円まで落ち込み、卸売業・小売業(4,823億円)が一度首位を奪っていました。2020年に製造業が5,352億円へ持ち直し、10億円差で首位に戻したという経緯です。
9年間の変化率は製造業−22.4%、卸売業・小売業+57.0%。すでに一度入れ替わり、いまは拮抗している——それが正確な現状です。どちらが首位を取るかは、その年の景気次第という段階に入りました。
雇用の変化は、30年前に起きていた
興味深いのは、この変化が雇用の面ではとっくに起きていたということです。
「事業所数・従業者数の推移」のページで見たとおり、川崎市の第2次産業(製造・建設)の従業者は1981年の210,593人(46.9%)から2006年の114,552人(23.5%)へ、25年で半減しました。第3次産業は逆に238,723人から373,803人へ増えています。
働く人の構成が変わってから、付加価値の構成が変わるまでに、およそ10〜20年のずれがあったことになります。理由は明確です。製造業は少ない人数で大きな価値を生む産業だからです。「事業所数・従業者数の推移」のページで見たとおり、製造業の1事業所あたり従業者数は24.2人で全産業平均(13.3人)の1.8倍。人が減っても、価値の産出は簡単には落ちませんでした。
それがついに落ちてきた、というのがこの9年の数字です。
伸びた産業の顔ぶれ
市全体の付加価値額は2兆5,986億円(2011年)から2兆8,650億円(2020年)へ、+10.3%増えています。製造業が1,542億円減るなかで全体がプラスになったのは、他の産業が伸びたからです。
サービス業(他に分類されないもの)+82.0%——職業紹介、労働者派遣、警備、ビルメンテナンスなどが含まれます。企業が外部委託を増やせば増える分野です。
医療・福祉+61.9%——「高齢者福祉施設と定員」のページで見たとおり、有料老人ホームは17年で25.8倍になりました。「歳出の内訳」のページで見たとおり、市の民生費は22年で4.2倍です。この分野の拡大は、複数の統計で一貫して確認できます。
情報通信業+49.5%——「開業率・廃業率」のページで見たとおり、情報通信業の開業率は51.0%で市内トップでした。事業所が増え、価値も増えています。
いっぽう金融業・保険業は−59.0%と激減しました。店舗の統廃合とオンライン化が進み、市内に置かれる機能が減ったと考えられます。
20市で10位という位置
付加価値額の合計2兆8,650億円は、政令指定都市20市で10位です。
この順位は、川崎市の他の指標より低い。人口は6位、製造品出荷額は3位、財政力指数は1位、納税者1人あたり所得は2位——いずれも上位です。なぜ付加価値だけ10位なのか。
答えは「通勤・通学の流動」のページにあります。川崎市民の41.9%は他県(ほぼ東京)で働いています。この統計が測るのは「市内の事業所が生んだ価値」です。市民が東京のオフィスで生み出した価値は、東京都の統計に計上されます。
つまり川崎市は「価値を生む場所」としては中位だが、「価値を生む人が住む場所」としては上位という都市です。所得(2位)と付加価値(10位)のギャップは、そのまま昼夜間人口比率87.3%(20市最下位)と同じことを語っています。
中小企業への示唆
1. 取引先の重心は移っている——製造業向けのビジネスは、市場そのものが9年で22%縮みました。いっぽう医療・福祉、情報通信、サービス業(外部委託)は伸びています。営業先のポートフォリオを、この変化に合わせる価値があります。
2. それでも製造業は5,352億円——縮んだとはいえ、依然として市内最大級です。「製造品出荷額等の推移」のページで見たとおり、政令市20市で3位の規模を保っています。撤退すべき市場ではありません。ただし成長市場ではないという前提で臨むべきです。
3. 外部委託の受け皿が最大の成長分野——サービス業(他に分類されないもの)+82.0%という数字は、企業が自社でやっていたことを外に出す流れを示しています。人材、警備、清掃、保守、事務代行——この方向の事業には追い風があります。
4. 金融・保険は縮小——−59.0%は全産業で最大の落ち込みです。この業界を取引先とする事業(店舗設備、印刷、ノベルティなど)は、市内では厳しい見通しになります。
データの注意点
数値は経済センサス‐活動調査による民営事業所の純付加価値額です。収録は2011年・2015年・2020年の3時点のみで、それ以外の年はこのデータベースに含まれません。
純付加価値額は「売上高−費用総額+給与総額+租税公課−減価償却費」といった式で算出されます。調査年によって算出方法に細かな変更がある場合があるため、厳密な時系列比較には注意が必要です。
2020年の数値はコロナ禍の影響を受けた年です。とくに宿泊業・飲食サービス業(−11.4%)、生活関連サービス業・娯楽業(−40.7%)の落ち込みには、この影響が含まれます。
国・地方公共団体の事業所は含みません。また鉱業、複合サービス事業は数値が小さいか秘匿されているため、グラフから除いています。