このページの要点
① 開業と廃業は、ほぼ拮抗している。2016年から2021年の5年間で、新設11,955か所に対し廃業12,065か所。差し引き110か所の純減で、率にすると−0.3%です。増えても減ってもいない、という状態です。
② 政令市20市では開業率7位。川崎市の開業率29.0%は、1位の福岡市(34.4%)に5.4ポイント届きません。ただし最下位の新潟市(20.5%)とは8.5ポイントの差があり、上位グループの端という位置です。
③ 宮前区だけが大きく増えた。7区のうち事業所が増えたのは宮前区(+498か所・+11.8%)と麻生区(+123か所)だけ。いっぽう川崎区は573か所の純減です。
政令指定都市20市のなかで
開業率と廃業率の関係(2016年→2021年)
横軸が開業率、縦軸が廃業率。斜めの点線より下なら事業所が増え、上なら減っています
20市のうち増えたのは熊本市・福岡市・岡山市・横浜市の4市だけ。川崎市は点線のすぐ上で、ほぼ横ばい(−0.3%)です。
右上(福岡市・大阪市・札幌市)は「開業も廃業も多い」新陳代謝の活発なグループ、左下(新潟市・浜松市・静岡市)は「どちらも少ない」動きの鈍いグループです。川崎市は中央やや右——動きはある方だが、突出してはいない、という位置づけになります。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
開業率ランキング(2016年→2021年)
川崎市を濃い色で表示
川崎市(29.0%)は横浜市(29.0%)とほぼ同じ水準で並びます。東京に隣接する2市が同じ位置にあるのは偶然ではなく、東京都心に本社機能が集まる構造のなかで似た立場に置かれていることを示しています。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
7区でどう違うか
区別の開業率・廃業率
青が開業率、赤が廃業率/青が長ければ事業所は増えています
逆に川崎区は開業率24.9%で7区最低、廃業率28.8%。事業所数は10,935から10,362へ、573か所減りました。市内でもっとも事業所が多い区が、もっとも縮んでいます。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
区別の事業所数の増減(2016年→2021年)
プラスは事業所が増えた区、マイナスは減った区
宮前区の中身を産業別に見ると、医療・福祉(+126)、不動産業(+120)、学術研究・専門技術サービス業(+115)、建設業(+108)と、特定の業種に偏らず幅広く増えています。大型施設の進出ではなく、小規模な事業所が各分野で生まれた結果と読めます。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
産業によって、まったく違う
産業別の開業率・廃業率(川崎市)
開業率の高い順/事業所数が50か所以上の産業のみ表示
いっぽう製造業は16.9%ともっとも低く、運輸業・郵便業(25.4%)、卸売業・小売業(25.9%)が続きます。設備や在庫、車両、免許が必要な業種ほど、新しく始めるハードルが高いことがそのまま出ています。
ビジネスへの示唆:創業支援の対象を考えるなら、情報通信と専門サービスが数の中心です。いっぽう事業承継の支援が効くのは、開業率が低く事業所数が多い製造業や卸売・小売——新しく始める人が少ない業種ほど、既存の事業を引き継ぐ意味が大きいからです。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
産業別の事業所数の増減(2016年→2021年)
増えた産業と減った産業
逆に増えたのは医療・福祉(+609)、不動産業(+439)、学術研究・専門技術サービス業(+431)、建設業(+266)、情報通信業(+244)。高齢化とデジタル化という2つの流れが、川崎の事業所の顔ぶれを入れ替えつつあります。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
解説:横ばいの裏で起きている入れ替え
「変わっていない」ように見える数字
2016年の川崎市の事業所は41,333か所、2021年は41,223か所。差は110か所、率にして−0.3%です。この2つの数字だけを並べれば、「川崎の事業所数は横ばい」で話は終わります。
ところが中身を見ると、5年間で11,955か所が新しく生まれ、12,065か所が消えています。既存の事業所の約3割が入れ替わった計算です。表面上の横ばいは、大量の開業と大量の廃業が打ち消し合った結果でしかありません。
この「入れ替わりの激しさ」こそが、都市の産業を見るときに本当に効く情報です。5年で3割が入れ替わる市場では、取引先リストは放っておけば急速に古くなります。
政令市のなかでの立ち位置
開業率29.0%は20市で7位。1位の福岡市(34.4%)とは5.4ポイントの差があります。福岡・大阪・札幌といった上位グループは、いずれも広域圏の中心都市で、支店や新規出店の受け皿になっている都市です。
注目すべきは、川崎市が横浜市(29.0%)とほぼ完全に同じ水準にあることです。人口規模も産業構造も違う2つの市が同じ数字になるのは、両市が「東京都心に隣接する」という同じ条件を共有しているからでしょう。本社機能や新規開業の相当部分は東京都区部に吸い寄せられ、隣接市はその外縁に位置します。
いっぽうで、20市のうち事業所が増えたのは熊本市・福岡市・岡山市・横浜市の4市のみ。13市はマイナスです。川崎市の−0.3%は、全体のなかでは5番目に良い数字にあたります。「減っていない」こと自体が、いまの日本ではそれなりに健闘しているとも言えます。
宮前区で何が起きたか
7区でもっとも目を引くのが宮前区です。事業所数は4,225か所から4,723か所へ、498か所・11.8%の増加。開業率37.2%は市平均を8ポイント上回り、7区で断然のトップです。
中身を見ると、増加は特定の業種に偏っていません。医療・福祉が+126、不動産業が+120、学術研究・専門技術サービス業が+115、建設業が+108、情報通信業が+56。幅広い業種で小規模な事業所が生まれています。
宮前区は鷺沼・宮前平を中心とした丘陵の住宅地で、人口ピラミッドで見たとおり高齢化率は市平均並み、20〜39歳の比率は7区で最も低い区です。そうした住宅地で事業所が1割増えたということは、大型施設の進出ではなく、住民が自宅やその近くで小さく事業を始めたケースが積み上がった可能性が高い。コロナ禍を挟んだ時期であることを考えると、在宅勤務の広がりや独立開業の増加が背景にあると見るのが自然です。
ただし、これは数字から読める範囲の推測です。断定するにはもっと細かいデータ(従業者規模別、経営組織別)が要ります。
川崎区の減少をどう見るか
逆に川崎区は10,935か所から10,362か所へ、573か所の純減です。開業率24.9%は7区最低で、廃業率28.8%を4ポイント下回っています。
川崎区は市内でもっとも事業所が多い区であり、同時にもっとも減っている区でもあります。臨海部の工業地帯と、川崎駅周辺の商業・飲食が集まるエリアを抱えるため、コロナ禍の影響をもっとも直接受けた区とも考えられます。「製造品出荷額等の推移」で見たとおり金額ベースでは川崎区が市の78%を占めますが、事業所の数という点では縮小が続いています。
業種で3倍以上違う開業率
産業別に見ると、開業率は情報通信業の51.0%から製造業の16.9%まで、3倍の開きがあります。
高いのは情報通信業(51.0%)、学術研究・専門技術サービス業(43.6%)。どちらもパソコンと専門知識があれば始められる業種です。低いのは製造業(16.9%)、運輸業・郵便業(25.4%)、卸売業・小売業(25.9%)。工場、在庫、車両、免許——始めるのに元手が要る業種ほど、開業率は低くなります。
この差は、支援のしかたを分けて考えるべき根拠になります。
創業支援が効くのは、開業率の高い業種です。情報通信や専門サービスは母数が多く、支援メニュー(創業融資、補助金、事務所紹介)の需要も大きい。
事業承継支援が効くのは、開業率の低い業種です。製造業(開業率16.9%・純減231か所)や卸売・小売のように新規参入が少ない業種では、廃業がそのまま地域からその機能が失われることを意味します。既存事業を引き継ぐ支援の価値が相対的に高くなります。
データの注意点
このページの開業率・廃業率は、経済センサスの5年間の累計です。中小企業白書などでよく使われる「年平均開業率」(雇用保険データ由来、全国で年5%前後)とは計算方法も対象も違うため、そのまま比較できません。
また、対象は民営事業所で、事業内容等が不詳の事業所は含みません。「新設」は前回調査(2016年6月)以降に開設された事業所を指し、支店の新設や移転も含まれます。純粋な「創業」だけを数えたものではない点にご注意ください。