研究開発・知識サービスの集積

情報通信業は政令市で2位。でも研究者は減っています。

このページの要点

① 情報通信業は従業者の6.6%で政令指定都市20市の2位。3万5,867人が働いています。1位の大阪市(7.3%)に次ぎ、横浜市(4.8%)、さいたま市(2.3%)を大きく上回ります。

② 中原区だけで16.6%。区の従業者10万3,933人のうち1万7,205人が情報通信業です。武蔵小杉周辺の集積が、市全体の順位を押し上げています。

③ ところが学術研究・専門技術サービス業は、従業者が10年で18.6%減りました。2万9,577人から2万4,081人へ。事業所は1,634から2,159へ32%増えているのに、です。

知識サービスは、どれだけあるか

従業者数の推移(2011年〜2021年・川崎市)

民営事業所の従業者数/製造業との比較

読み方:情報通信業は3万2,983人から3万5,867人へ、10年で8.7%増えました。2014年の4万1,078人がピークで、そこからは減っています。
学術研究・専門技術サービス業は2万9,577人から2万4,081人へ、18.6%減。2016年の3万2,983人から5年で8,902人減っています。
製造業は8万2,234人から6万8,560人へ16.6%減。川崎で従業者が増えている知識産業は、情報通信業だけです。

出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」(原典:経済センサス)をもとに作成

事業所は増え、1事業所あたりは小さくなった

棒が事業所数、折れ線が1事業所あたりの従業者数(人)

読み方:ここが、このページのもっとも重要な発見です。
学術研究・専門技術サービス業の事業所は1,634から2,159へ32%増えました。ところが1事業所あたりの従業者は18.1人から11.2人へ、38%減っています。
情報通信業も同じ方向です。事業所は691から930へ35%増えたのに、1事業所あたりは47.7人から38.6人へ19%減。
大きな研究所や開発拠点が縮小・統廃合され、小さな専門サービス事業所が増えた。これが10年で起きたことです。「事業所の規模と中小企業比率」のページで見た「小さな事業所が減った」という市全体の傾向とは、逆の動きをしています。

出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成

政令指定都市20市のなかで

2021年/その産業が従業者に占める割合/川崎市を濃い色で表示

出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成

情報通信と学術研究、両方が強い都市はどこか

横軸が情報通信業、縦軸が学術研究・専門技術サービス業の従業者比率(%・2021年)

読み方:右上にあるほど、知識サービス産業が厚い都市です。
大阪市、川崎市、福岡市、名古屋市、横浜市が右上のグループを作ります。川崎市(赤い点)は横軸で2位、縦軸で6位——情報通信に偏った位置です。
左下は堺市、相模原市、浜松市。製造業が中心の都市です。「業種別 出荷額シェア」のページで見たとおり、川崎市も製造品出荷額は大きいのですが、働く人の構成は知識サービス型だといえます。

出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成

7区でどう違うか

区別の情報通信業・学術研究の従業者比率(2021年)

それぞれの区の従業者に占める割合(%)

読み方:市内の集積は、はっきり2か所に分かれています。
情報通信業は中原区の16.6%が突出。2位の幸区(9.1%)の1.8倍、もっとも低い多摩区(1.1%)の15倍です。武蔵小杉周辺の集積が、そのまま数字になっています。
学術研究・専門技術サービス業は幸区の11.0%がトップ。2位の麻生区(4.4%)の2.5倍です。
この2区で市の知識サービスの大半を抱えています。川崎区は情報4.1%・学術3.6%と、どちらも市平均以下。「業種別 出荷額シェア」で見たとおり、川崎区は素材産業の区です。

出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成

解説:拠点は縮み、事業所は増えた

情報通信業は政令市で2位

2021年、川崎市の民営事業所で働く54万7,471人のうち、情報通信業は3万5,867人、6.6%を占めます。

この6.6%は政令指定都市20市で2位。1位の大阪市(7.3%)に次ぐ水準です。3位福岡市5.9%、4位名古屋市5.2%、5位横浜市4.8%。さいたま市は2.3%、相模原市は0.7%、堺市は0.5%にとどまります。

「職業構成と雇用形態」のページで見たとおり、川崎市民の専門的・技術的職業の比率は24.9%で20市1位でした。住む人も、働く場所も、専門職・技術職に寄っている都市だということです。

学術研究・専門技術サービス業は2万4,081人、4.4%で6位。1位の横浜市・大阪市(5.4%)には及びませんが、上位グループにあります。

ところが従業者は減っている

ここから話が複雑になります。

学術研究・専門技術サービス業の従業者は、2011年の2万9,577人から2021年の2万4,081人へ、10年で5,496人、18.6%減りました。2016年には3万2,983人まで増えていたので、直近5年で8,902人(27.0%)減ったことになります。

情報通信業も、2014年の4万1,078人がピークです。2021年は3万5,867人で、7年で5,211人減っています。2011年比では8.7%増ですが、近年は縮小局面にあります。

「事業所数・従業者数の推移」のページで見たとおり、川崎市全体の従業者数はこの10年でほぼ横ばいです。知識サービス産業が牽引している、という単純な図式ではありません。

大きな拠点が縮み、小さな事業所が増えた

従業者が減っているのに、事業所の数は増えています。

学術研究・専門技術サービス業の事業所は2011年の1,634から2021年の2,159へ、32%増。情報通信業も691から930へ35%増です。

両方を割り算すると、何が起きたかがわかります。

学術研究・専門技術サービス業の1事業所あたり従業者は、18.1人から11.2人へ38%減。情報通信業は47.7人から38.6人へ19%減。

つまり大きな研究所・開発拠点が縮小または統廃合される一方で、小さな専門サービス事業所が数多く生まれたということです。

大企業の研究所は、この10年で再編が進みました。同時に、独立したエンジニア、設計事務所、コンサルティング、デザイン、受託開発といった小規模事業所が増えています。

興味深いのは、これが市全体の傾向と逆だという点です。「事業所の規模と中小企業比率」のページで見たとおり、川崎市全体では1〜4人の小規模事業所が12年で2,653か所減りました。知識サービスだけが、小規模化しながら事業所数を増やしています。

中原区と幸区に集まる

市内の分布は、極端に偏っています。

情報通信業は中原区の16.6%が突出。区の従業者10万3,933人のうち1万7,205人が情報通信業です。2位の幸区(9.1%)の1.8倍、もっとも低い多摩区(1.1%)の15倍にあたります。

市全体の情報通信業3万5,867人のうち、中原区だけで48%を占める計算です。武蔵小杉周辺の集積が、市の順位(20市2位)をほぼ一手に支えています。

学術研究・専門技術サービス業は幸区の11.0%がトップ。区の従業者7万5,861人のうち8,369人。2位の麻生区(4.4%)の2.5倍です。川崎駅西口のオフィス街と研究施設の集積によるものです。

いっぽう川崎区は情報4.1%、学術3.6%と、どちらも市平均以下。「業種別 出荷額シェア」のページで見たとおり、川崎区は石油・化学・鉄鋼の素材産業の区です。同じ市内で、産業の性格がまったく違います。

宮前区は情報1.8%・学術1.7%、多摩区は情報1.1%・学術3.3%。北部は住宅地であって、知識サービスの集積地ではありません。

中小企業への示唆

1. 「知識産業の街」というイメージは、2区に支えられている——中原区と幸区。この2区以外では、情報通信も学術研究も市平均以下です。IT関連の営業・採用は、この2区に集中させるのが合理的です。

2. 事業所は増え続けている=取引先候補が増えている——学術研究2,159、情報通信930。合計3,089事業所。10年で700以上増えました。1事業所あたり11〜39人という規模は、中小企業にとって現実的な取引相手です。

3. 小規模化は外注需要のサイン——1事業所あたりの人数が減っているということは、社内で完結できない業務が増えているということでもあります。経理、労務、法務、営業代行、バックオフィス——専門特化した小規模事業所ほど、外部に頼る部分が大きくなります。

4. 従業者数の減少は警戒材料——学術研究は5年で27.0%減。大企業の研究拠点の縮小が続けば、周辺の受注も細ります。臨海部の素材産業と同じく、大口依存のリスクがあります。

5. 独立・起業の受け皿として——「開業率・廃業率」のページと合わせて読むと、知識サービスは川崎で新しい事業所が生まれている数少ない分野です。士業、コンサル、開発。この層に向けた創業支援・オフィス・バックオフィスサービスには需要があります。

データの注意点

「学術研究、専門・技術サービス業」は幅の広い分類です。学術・開発研究機関(企業の研究所を含む)だけでなく、法律事務所、会計事務所、デザイン業、広告業、獣医業、建築設計、技術サービス業などが含まれます。「研究者の数」ではありません。

市区町村別に「学術・開発研究機関」だけを取り出した統計は、e-Statの市区町村データには収録されていません。キングスカイフロントなど個別の研究開発拠点の規模は、川崎市の公表資料をご確認ください。

調査年は2011年・2014年・2016年・2021年です。経済センサスの基礎調査と活動調査が混在しており、調査方法が完全に同じではありません。長期の比較はおおまかな傾向としてご覧ください。

2021年は令和3年経済センサス‐活動調査(6月1日現在)です。コロナ禍のさなかの調査であり、在宅勤務の広がりが事業所の把握に影響した可能性があります。

従業者数はその事業所で働く人の数です。派遣・出向の扱いによって、企業単位の実感とずれることがあります。