このページの要点
① 生活保護費は2015年の64.6億円をピークに、2022年は61.8億円。2000年の33.8億円から15年で1.9倍に増えたあと、頭打ちになりました。
② 市民1人あたり4万1,831円は政令指定都市20市で8位。1位の大阪市(10万8,059円)の39%にとどまります。
③ 保育所等は7年で144か所から300か所へ2.1倍。在所児数も1万3,457人から2万3,884人へ1.8倍。もっとも伸びたのは宮前区の2.73倍です。
生活保護費は、どう動いたか
生活保護費の推移(2000年〜2022年・川崎市)
市町村財政の決算額/棒が総額、折れ線が市民1人あたり
市民1人あたりでは2万7,483円から4万5,265円(2015年)へ増え、2022年は4万1,831円。ピークから7.6%下がっています。
伸びがとくに急だったのは2008年から2012年。リーマンショック後の4年間で、46.9億円から62.3億円へ32.8%増えました。不況が数字にはっきり出ています。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」(原典:地方財政状況調査、住民基本台帳)をもとに作成
市民1人あたり生活保護費(2022年・政令指定都市20市)
生活保護費 ÷ 住民基本台帳人口(日本人)/川崎市を濃い色で表示
1位は大阪市の10万8,059円——川崎市の2.6倍。2位札幌市6万9,220円、3位堺市5万8,305円。最下位は浜松市の1万6,114円で、大阪市とは6.7倍の差があります。
「政令指定都市20市 データ比較」のページで見たとおり、川崎市の納税者1人あたり所得は20市で2位。所得が高い都市でも、生活保護費は中位より上という組み合わせです。所得の高さは平均値であり、格差の存在を打ち消すものではありません。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
保育所は7年で2.1倍
保育所等の数と在所児数(1980年〜2017年・川崎市)
棒が在所児数、折れ線が施設数
これは待機児童対策として市が集中的に整備した結果です。「高齢化率・年少人口比率」のページで見たとおり、川崎市の年少人口比率は政令市でも高いほうにあります。子どもが多く、共働きが多い街の必然でした。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」(原典:社会福祉施設等調査)をもとに作成
区別の保育所等の増え方(2010年→2017年)
棒が2017年の施設数、菱形が2010年からの倍率
増え方がもっとも大きいのは宮前区の2.73倍(15→41か所)。次いで中原区2.36倍、幸区2.33倍。
もっとも伸びが小さいのは川崎区の1.50倍(24→36か所)。「住民基本台帳の人口・世帯数」で見たとおり、川崎区は外国人比率8.52%と市内で突出する区でもあります。需要の伸びが他区と違うことがうかがえます。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
有料老人ホームは北部に集中
区別の有料老人ホーム数と定員(2017年)
棒が定員、菱形が施設数
北部4区(高津・多摩・宮前・麻生)で88か所・6,005人——市全体(129か所・7,828人)の68%・77%を占めます。
逆にもっとも少ないのは川崎区の15か所・678人。南部には有料老人ホームがほとんどありません。
理由は土地です。「7区データ図鑑」で見たとおり、北部は人口密度が低く、まとまった敷地が確保しやすい。介護施設は土地の安いところに建つという、わかりやすい構図です。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
解説:増えた15年と、止まった7年
15年で1.9倍、そこから横ばい
川崎市の生活保護費は2000年度の33.8億円から2015年度の64.6億円まで、15年で1.9倍に増えました。
ところが、そこから先は横ばいです。2016年63.0億円、2018年62.0億円、2020年61.5億円、2022年61.8億円。ピークから4.3%減にとどまりますが、増加が明確に止まりました。
市民1人あたりで見ると、2000年の2万7,483円から2015年の4万5,265円へ。2022年は4万1,831円で、ピークから7.6%下がっています。人口が増えたぶん、1人あたりの低下は総額の減少より大きくなります。
リーマンショックが数字に出ている
増加のペースは一定ではありませんでした。
とくに急だったのは2008年度から2012年度です。46.9億円から62.3億円へ、4年で32.8%増。年平均7.3%のペースです。
2008年9月のリーマンショック、そして2009年の雇用情勢の悪化。不況の影響が、そのまま生活保護費に現れています。「就業者数・失業率・女性就業」のページで見たとおり、川崎市の失業率もこの時期に上昇しました。
逆に2013年以降の横ばいは、景気回復と雇用の改善を反映しています。ただし2020年のコロナ禍では、はっきりした増加は見られません(2019年62.8億円→2020年61.5億円)。各種の給付金や雇用調整助成金が、生活保護への流入を抑えた可能性があります。
所得2位の街が、8位
2022年度の市民1人あたり生活保護費を政令指定都市20市で比べると、川崎市は4万1,831円で8位です。
1位は大阪市の10万8,059円。川崎市の2.6倍です。2位札幌市6万9,220円、3位堺市5万8,305円、4位神戸市5万5,470円。最下位は浜松市の1万6,114円で、大阪市との差は6.7倍にもなります。
ここで思い出したいのが、「政令指定都市20市 データ比較」のページで見た数字です。川崎市の納税者1人あたり所得は20市で2位。「職業構成と雇用形態」では正規雇用率が20市1位、「市民の最終学歴」では大卒率が20市1位でした。
それでも生活保護費は20市で8位、中位より上。横浜市(11位、3万8,406円)、さいたま市(17位、2万7,740円)より高い水準です。
平均所得の高さは、格差の存在を打ち消しません。むしろ物価や家賃の高い都市では、平均から外れた人ほど生活が厳しくなります。「豊かな街」という平均値だけを見ていては、この現実は見えません。
7年で保育所が倍増した
いっぽう、川崎市が集中的に投資してきた分野があります。保育です。
保育所等の数は2010年の144か所から2017年の300か所へ、7年で2.08倍。在所児数も1万3,457人から2万3,884人へ1.77倍に増えました。
7年で施設が倍増するというのは、行政の投資としてかなり大きなものです。「歳出決算の推移」のページで見た民生費の伸びの一部は、この整備によるものです。
背景は明確です。「人口の推移」で見た人口増加、「高齢化率・年少人口比率」で見た年少人口比率の高さ、「女性の年齢別就業率」で見た30代女性の就業率上昇。子どもが増え、共働きが増えれば、保育の需要は必ず増えます。
区別に見ると、増え方がもっとも大きかったのは宮前区の2.73倍(15→41か所)。次いで中原区2.36倍(28→66か所)、幸区2.33倍(18→42か所)、麻生区2.15倍、多摩区2.00倍、高津区1.81倍。もっとも小さいのが川崎区の1.50倍(24→36か所)です。
施設数そのものでは中原区66か所が突出しています。「将来推計人口」で見たとおり、中原区は2050年まで市内でもっとも人口が増える区。需要の伸びに合わせて配置されていることがわかります。
有料老人ホームは北部にしかない
高齢者向けの施設は、まったく逆の分布をしています。
有料老人ホームは市内に129か所、定員7,828人(2017年)。区別に見ると、宮前区29か所・2,067人がもっとも多く、高津区21か所・1,469人、多摩区21か所・1,380人、麻生区17か所・1,089人と続きます。
北部4区で88か所・6,005人。市全体の68%・77%です。
逆にもっとも少ないのは川崎区の15か所・678人、次いで幸区10か所・479人。南部には、ほとんどありません。
理由は土地です。「7区別 人口と人口密度」のページで見たとおり、川崎区・幸区・中原区は人口密度が高く、地価も高い。有料老人ホームは一定の敷地面積を必要とするため、まとまった土地が確保できる北部に建つのが自然です。
ここで問題になるのが需給のずれです。「高齢化率・年少人口比率」のページで見たとおり、高齢化率がもっとも高いのは多摩区と麻生区ですが、川崎区も市平均を上回ります。南部の高齢者は、施設に入るとなれば市内北部か市外へ移ることになります。
中小企業への示唆
1. 保育の整備期はほぼ終わった——2010〜2017年で施設は倍増しました。新設ラッシュは一段落しています。これからは維持・運営・人材の局面です。給食、清掃、保守、システム、研修——ストック向けのサービスに需要が移ります。
2. 介護施設は北部が主戦場——宮前区29か所、高津区21か所、多摩区21か所。施設向けの納入・サービスは北部に集中しているのが実態です。営業の重心をここに置くのが合理的です。
3. 南部の在宅介護には余地がある——川崎区15か所、幸区10か所。施設が少ないということは、在宅で暮らす高齢者が相対的に多いということです。訪問介護、配食、見守り、移動支援——南部では在宅型のサービスに需要が集まります。
4. 生活保護費の頭打ちは、需要の頭打ちではない——横ばいなのは制度の話です。「高齢化率・年少人口比率」で見たとおり、高齢化はこれから加速します。低所得の高齢者向けの住まい・サービスは、これから増える分野です。
5. 「所得2位」だけで市場を見ない——生活保護費は20市8位。川崎には、平均の内側に大きな幅があります。高価格帯だけを狙う設計は、市場の一部しか取れません。
データの注意点
「生活保護費」は市の決算額(扶助費)です。被保護世帯数や保護率ではありません。市区町村別の被保護世帯数・保護率は、e-Statの市区町村データには収録されていません。実際の受給世帯数は川崎市の福祉統計をご確認ください。
生活保護費は市が支出した額です。国庫負担金(4分の3)を含んだ総事業費ではなく、市の財政上の数値である点にご注意ください。都市間比較では同じ基準のため順位に影響しません。
保育所等・有料老人ホームのデータは2017年が最新です。社会福祉施設等調査の市区町村別集計が、それ以降e-Statに収録されていません。この7年間でさらに整備が進んでいる可能性があります。
「保育所等」には認可保育所のほか、幼保連携型認定こども園・保育所型認定こども園などが含まれます。認可外保育施設は含まれません。
7区の保育所等の合計は、市の値と一致することを確認しています(2017年で300か所)。
1人あたりの計算には住民基本台帳人口(日本人)を使っています。