川崎市とふるさと納税

年間154億円が市外へ。5年で2.3倍に膨らんだ流出を、数字で確かめます。

このページの要点

① 市税の減収額は年間154億円(令和7年度見込)。令和2年度の66億円から5年で2.3倍に膨らんでいます。

② 受け入れる寄附は17億円。令和6年度の受入額は17億円で、減収額142億円との差し引きは125億円のマイナス。返礼品を充実させて受入額を5年で約5.7倍にしましたが、流出の伸びには追いついていません。

③ 住民税控除額は全国4位。総務省調査では170.32億円で、横浜市・名古屋市・大阪市に次ぐ規模です。市民の15.1%が利用しており、この割合は上位の政令指定都市でもっとも高い水準です。

2つの数字が出てきます。混同しないようご注意ください。

・市税の減収額(66億〜154億円)… 川崎市が公表している、市税ベースの数値です。令和5年度以降は見込みの値です。

・住民税控除額(170.32億円)… 総務省の調査による、道府県民税と市町村民税を合計した数値です。対象年度も異なります。

合計する範囲も年度も違うため、この2つを直接は比較できません。

流出はどこまで増えたか

市税の減収額と寄附受入額の推移

単位は億円/令和5年度以降は見込みの値です

読み方:赤い棒が市外へ出ていく市税(減収額)、青い棒が川崎市が受け取る寄附です。
減収額は令和2年度の66億円から令和7年度の154億円へ、5年で2.3倍。毎年20〜30億円ずつ増え続けています。受入額も3億円から17億円へ約5.7倍に伸びましたが、金額の桁が違います。

出典:川崎市「川崎市におけるふるさと納税の現状と取組」をもとに作成

差し引きの純流出額

市税の減収額 − 寄附受入額/単位は億円

読み方:差し引きの流出は令和2年度の63億円から令和6年度の125億円へ、ほぼ倍増しました。
川崎市の資料によれば、142億円という金額は市の全世帯の約95%(約73万世帯)分のごみの収集・処理にかかる年間経費と同程度だとされています。金額の実感としては、これがいちばん分かりやすい説明でしょう。

出典:川崎市「川崎市におけるふるさと納税の現状と取組」をもとに作成

全国のなかでの位置

住民税控除額の上位20団体(令和8年度課税)

道府県民税+市町村民税の合計/川崎市を濃い色で表示

読み方:川崎市は170.32億円で全国4位。上には横浜市(373.30億円)、名古屋市(215.32億円)、大阪市(207.03億円)が並びます。
上位20団体のうち8団体が東京23区で、残りは政令指定都市です。ふるさと納税による住民税の流出は、大都市に集中する構造になっています。
川崎市の控除額は全国合計9,524億円の1.79%。人口シェア(約1.25%)を大きく上回ります。

出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」をもとに作成

市民のうち何割が使っているか(政令指定都市)

控除適用者数 ÷ 2025年の人口/上位20団体に入っている政令市のみ

読み方:川崎市は15.1%。上位に入っている政令市のなかでもっとも高く、2位のさいたま市(13.3%)、3位の横浜市(13.2%)を上回ります。
市民の約7人に1人がふるさと納税を利用している計算です。控除額が全国4位なのは、市の規模だけでなく、この利用率の高さによるところが大きいといえます。

出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」/「令和7年国勢調査 速報集計」をもとに作成

利用者1人あたりの控除額

住民税控除額 ÷ 控除適用者数/点線は全国平均(82,745円)

読み方:川崎市の利用者1人あたりの控除額は72,069円で、全国平均の82,745円を下回ります。上位政令市のなかでは横浜市(75,220円)、名古屋市(74,004円)に次ぐ3位です。
つまり川崎市は「1人あたりの額は平均以下だが、使う人がとても多い」という構造です。高額寄附をする一部の富裕層というより、幅広い層が制度を使っていることを示しています。

出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」をもとに作成

解説:154億円の意味

5年で2.3倍という速度

川崎市がふるさと納税によって失っている市税は、令和2年度の66億円から令和7年度の154億円へ、5年で2.3倍になりました。増加のペースは年20〜30億円で、いまのところ鈍る兆しはありません。

「政令指定都市20市 データ比較」のページで見たとおり、川崎市は財政力指数1.02で20市唯一の1.0超という、地方財政のなかでは恵まれた立場にあります。国からの普通交付税を受けない不交付団体です。

これがふるさと納税では不利に働きます。交付税を受けている自治体は、ふるさと納税で減った税収の75%が交付税で補填されます。しかし不交付団体である川崎市には、この補填がありません。減収額はそのまま市の財源の穴になります。全国4位という順位の重みは、他の自治体より大きいということです。

市民の7人に1人が使っている

控除適用者数は236,329人。2025年の人口1,561,132人に対して15.1%にあたります。上位20団体に入っている政令指定都市のなかでは最も高く、さいたま市(13.3%)や横浜市(13.2%)を上回ります。

いっぽう利用者1人あたりの控除額は72,069円で、全国平均の82,745円を下回ります。一部の高所得者が大口の寄附をしているというより、ごく普通の給与所得者が広く制度を使っているという姿です。

これは「政令指定都市20市 データ比較」で見た、川崎市民の所得水準の高さ(納税者1人あたり課税対象所得は20市中2位)とも整合します。所得があり、制度の情報にも触れやすく、ネット通販に慣れた世帯が多い——ふるさと納税の利用が広がる条件がそろっています。

市の対策は効いているのか

川崎市も手をこまねいているわけではありません。寄附の受入額は令和2年度の3億円から令和6年度の17億円へ、約5.7倍に伸びています。返礼品の充実、特設サイトの開設、「学校ふるさと応援寄附金」「動物愛護センターの動物等への支援」といった使いみちの明確な寄附メニューの整備が進められました。

努力は数字に表れています。しかし同じ期間に減収額は66億円から142億円へ76億円増えており、受入額の増加分(14億円)ではまるで足りません。差し引きの流出は63億円から125億円へ、むしろ倍増しています。

川崎市は令和7年6月、国に対して制度の見直しを要請しました。市の立場としては、自治体間の獲得競争ではなく制度そのものの設計を問題にしている、ということです。

中小企業にとっての論点

この数字は、川崎の事業者にとって二つの意味を持ちます。

1. 行政サービスの原資が減っている——154億円は市の一般会計から見れば数%規模ですが、政策の自由度に効く金額です。市独自の中小企業支援策(制度融資、補助金、創業支援)は、こうした財源の余裕の上に成り立っています。財政力指数1.02という強みが、ふるさと納税によって少しずつ削られている構図です。

2. 返礼品はビジネスチャンスでもある——川崎市の受入額17億円は、政令市のなかでは決して大きくありません。裏を返せば、返礼品として登録される市内事業者の枠にはまだ余地があります。工業製品、加工食品、体験型サービスなど、川崎らしい返礼品を出せる事業者にとっては、新しい販路になり得ます。

「卸売・小売業の年間商品販売額」のページで見たとおり、川崎市民の購買力は年間およそ5,900億円規模で市外へ流出していると推計されます。ふるさと納税による154億円の税の流出は、それとは別の経路で起きているもうひとつの「市外流出」です。川崎はモノを買う場所としても、税を納める先としても、外に流れやすい構造にある——このページと商業動態のページを並べると、そう読めます。

データの注意点

このページには基準の異なる2つの数字が出てきます。川崎市が公表している「市税の減収額」(66億〜154億円)は市税ベースで、令和5年度以降は見込みの値です。総務省調査の「住民税控除額」(170.32億円)は道府県民税と市町村民税の合計で、対象年度も異なります。両者を直接比較したり、差を計算したりしないでください。

総務省の数値は令和8年度課税(令和7年中のふるさと納税)に係るもので、令和8年6月1日時点の調査です。控除適用者数は市町村民税における計数です。

利用率(15.1%)は控除適用者数を人口で割ったものです。分母には未成年や納税していない人も含まれるため、「納税者のうち何割が使っているか」ではありません。都市どうしの比較には使えますが、絶対値としては読まないでください。

このページのデータについて

出典
川崎市「川崎市におけるふるさと納税の現状と取組」
貴重な市税が、「ふるさと納税」によって流出しています。(川崎市)
総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」令和8年7月31日公表
ふるさと納税に関する現況調査結果(総務省・PDF)

このページのデータは e-Stat のAPIでは提供されていないため、上記の公表資料から転記しています。数値の更新は tools/make_furusato_data.py を編集して行います。