このページの要点
① 財政力指数1.02は20市で唯一の1.0超。標準的な行政サービスに必要なお金を、自前の税収でまかなえる水準です。2位は名古屋市の0.98。
② ところが経常収支比率は97.1%。20市で9番目に高い(=硬直している)水準です。2000年度の84.6%から12.5ポイント悪化しました。
③ 借金の負担は大きく改善した。実質公債費比率は2008年度の15.6%から2022年度の8.7%へ。3つの指標のうち、これだけが良くなっています。
・財政力指数… 必要な経費のうち、自前の税収でどれだけまかなえるか。1.0を超えると国の普通交付税を受けない「不交付団体」になります。高いほどよい指標です。
・経常収支比率… 毎年決まって入るお金のうち、毎年決まって出ていく経費(人件費・扶助費・公債費など)が占める割合。低いほど自由に使えるお金が多い。一般に80%を超えると硬直的とされます。
・実質公債費比率… 収入に対する借金返済の負担。18%を超えると地方債の発行に国の許可が必要になります。低いほどよい指標です。
3つの指標の推移
財政力指数の推移(1980年度〜2022年度)
点線は1.0(不交付団体の目安)
これを支えているのは、「市税収入の内訳」のページで見た市税3,305億円(歳入の41.0%)です。東京都心に通う住民の所得と、臨海部の産業集積の両輪が、この水準を維持しています。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
経常収支比率の推移(2000年度〜2022年度)
点線は80%(硬直化の目安)/高いほど自由に使えるお金が少ない
原因は「一般会計 決算額と市債残高」のページで見た扶助費の急増です。2000年度の574億円から2022年度の2,387億円へ4.2倍になり、歳出に占める割合は10.5%から29.9%になりました。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
実質公債費比率の推移(2008年度〜2022年度)
点線は18%(国の許可が必要になる水準)
2008年の15.6%は、地方債発行に国の許可が必要になる18%まであと2.4ポイントという水準でした。そこから半分近くまで下げています。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
政令指定都市20市のなかで
財政力指数(最新年度)
点線は1.0/川崎市を濃い色で表示
下位は新潟市(0.66)、熊本市・北九州市(0.70)、札幌市(0.72)。これらの市は必要経費の3割前後を国の交付税に頼っています。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
経常収支比率(最新年度・高い順)
高いほど財政が硬直しています/川崎市を濃い色で表示
もっとも高いのは堺市(102.4%)で、100%を超えています。次いで北九州市(99.3%)、京都市(99.2%)。
財政力指数と経常収支比率は連動しません。稼ぐ力があっても、その分だけ支出も大きければ余裕は生まれない——川崎市はまさにその例です。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
財政力指数と経常収支比率の関係
横軸が財政力指数、縦軸が経常収支比率/右下にあるほど「稼げて、余裕もある」
2つの指標に強い相関は見られません。財政力が低くても経常収支比率が低い市(実質公債費比率の低い堺市を除く)もあり、財政の余裕は「稼ぐ力」より「支出の構造」で決まることがわかります。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
解説:1位と9位のあいだ
ふたつの数字が語る、別々のこと
川崎市の財政を語るとき、いちばん引用されるのは財政力指数1.02という数字です。政令指定都市20市で唯一1.0を超え、国からの普通交付税を受けない不交付団体である——これは事実で、誇るべき水準でもあります。
しかし同時に、経常収支比率は97.1%です。20市のなかで高いほうから9番目。毎年決まって入ってくるお金の97%が、毎年決まって出ていく経費で消えます。自由に使えるのは、残りの3%だけということです。
この2つの数字は矛盾しません。財政力指数は「稼ぐ力」、経常収支比率は「使う余裕」を測る指標で、別のことを見ています。川崎市は稼ぐ力は最高だが、稼いだ分だけ出ていくという状態にあります。
何が硬直させたのか
経常収支比率は2000年度に84.6%でした。当時は「やや高いが健全」といえる水準です。それが2022年度には97.1%。22年で12.5ポイント悪化しました。
原因ははっきりしています。「一般会計 決算額と市債残高」のページで見たとおり、扶助費が2000年度の574億円から2022年度の2,387億円へ4.2倍に膨らんだためです。歳出に占める割合は10.5%から29.9%へ。
扶助費は生活保護、児童手当、障害福祉、子ども医療費などの社会保障費で、法律で支給が決まっています。市の判断では減らせません。この経費が増えれば、経常収支比率はそのまま悪化します。
いっぽう借金の負担は改善しました。実質公債費比率は15.6%(2008年度)から8.7%(2022年度)へ。市債残高も減っています。市が自分で動かせる部分(借金)は改善し、動かせない部分(社会保障)が悪化した——これが川崎市の財政のこの20年です。
これから何が起きるか
懸念すべきなのは、扶助費の増加がまだ途中だということです。
「政令指定都市20市 データ比較」のページで見たとおり、川崎市の高齢化率20.2%は20市でもっとも低い水準です。「人口ピラミッド」のページで見たとおり、市でもっとも人数の多い年齢層は45〜49歳。この塊が20年後に65歳を超えます。
つまり川崎市の社会保障費の増加は、これから本格化するということです。経常収支比率97.1%という数字は、その入口に立っている状態だと読めます。
そこに「ふるさと納税による流出額」のページで見た年間154億円の市税流出が重なります。しかも不交付団体である川崎市には、減収の75%が交付税で補填される仕組みが働きません。財政力指数1.02という強みが、この場面では不利に作用します。
中小企業への示唆
1. 市の独自支援は増えにくい——経常収支比率97.1%は、新規施策に回せる財源がほとんどないことを意味します。中小企業向けの補助金・制度融資を検討するなら、国や県の制度を主軸に置くのが現実的です。
2. ただし財政破綻の心配はない——財政力指数1.02、実質公債費比率8.7%。どちらも健全な水準です。硬直はしていますが、危機ではありません。市が発注する事業の支払いが滞るような状況ではないので、自治体向けビジネスのリスクとしては低いといえます。
3. 福祉分野は成長市場——扶助費2,387億円は、その多くが市内の福祉サービス事業者への支払いです。行政の財政が苦しいことと、この分野の事業機会があることは両立します。
4. 20年スパンで見ると変わる——いまの高齢化率は20市最低ですが、20年後には状況が変わります。介護、医療、生活支援——これらの需要はこれから伸びる領域です。事業の中長期計画を立てるとき、この人口構造の変化は織り込む価値があります。
データの注意点
3つの指標は収録年が異なります。財政力指数は1980年度から、経常収支比率は2000年度から、実質公債費比率は2008年度からです(実質公債費比率は2007年度に制度が導入された指標です)。
財政力指数は3年間の平均値です。単年度の数値ではないため、その年の景気変動を直接には反映しません。
政令市の比較に使っている数値は、市によって最新年度が異なる場合があります。グラフのツールチップに年度を表示しています。