このページの要点
① 民生費と土木費が入れ替わった。2000年度は土木費が1,378億円(25.1%)で最大でしたが、2022年度は民生費3,133億円(39.3%)が最大。土木費は774億円(9.7%)まで下がりました。
② いちばん伸びたのは児童福祉費で4.5倍。民生費の内訳では、児童福祉費が311億円から1,389億円へ。生活保護費(1.8倍)や老人福祉費(2.1倍)を大きく上回ります。
③ 商工費は3.2%しかない。258億円で、22年前(280億円)より減っています。中小企業支援に回る原資は、歳出全体のごく一部です。
・目的別… 何のために使ったか(民生費・教育費・土木費など)
・性質別… どういう性質の支出か(人件費・扶助費・普通建設事業費など)
どちらも合計すると歳出総額になります。2つを足し合わせないでください。
目的別:何のために使っているか
目的別歳出の構成比の推移(2000年度〜2022年度)
100%積み上げ/歳出決算総額に占める割合
2000年度は土木費25.1%>民生費21.0%。2022年度は民生費39.3%>土木費9.7%。22年で完全に逆転しました。
2018年度に教育費が急に増えている(8.9%→15.8%程度)のは、2017年度の県費負担教職員の政令市への移管によるものです。教職員の給与が県から市の負担に移りました。制度変更なので、教育の中身が倍増したわけではありません。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」(地方財政状況調査)をもとに作成
最新年度の目的別歳出
単位は億円
注目してほしいのは下のほうです。商工費258億円(3.2%)、労働費7億円(0.1%)、農林水産業費5億円(0.1%)。産業振興に関わる費目は、合計しても歳出の3.4%にとどまります。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
民生費の中身
民生費の内訳の推移
積み上げ棒/単位は億円
保育所の運営費、児童手当、子ども医療費——「保育所の定員と待機児童数」のページで見たとおり、保育所は113所(2003年)から300所(2017年)へ2.7倍になりました。その費用がここに表れています。
生活保護費は338億円から618億円へ1.8倍。老人福祉費は201億円から412億円へ2.1倍。いずれも増えていますが、児童福祉費の伸びが際立ちます。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
性質別:どういう支出か
性質別歳出の構成(最新年度)
単位は億円
扶助費と人件費、公債費を合わせると4,626億円・58%。これらは「義務的経費」と呼ばれ、市の判断では減らしにくい支出です。「財政力指数・経常収支比率」のページで見た経常収支比率97.1%という数字の中身が、ここにあります。
いっぽう普通建設事業費(道路・学校などをつくる費用)は1,049億円で13.2%。政策的に動かせる部分は、この程度しかありません。
出典:総務省「社会・人口統計体系(D 行政基盤)」をもとに作成
解説:道路から福祉へ
22年で入れ替わった主役
2000年度の川崎市の歳出は5,489億円。その内訳でもっとも大きかったのは土木費1,378億円(25.1%)でした。道路、河川、都市計画、住宅——都市の骨格をつくる費用です。民生費は1,151億円(21.0%)で2位でした。
2022年度の歳出は7,975億円。最大は民生費3,133億円(39.3%)。土木費は774億円(9.7%)まで下がり、5位になりました。
金額で見ると、民生費は+172.2%、土木費は−43.8%。22年で完全に立場が入れ替わりました。
これは川崎市に固有の話ではなく、全国の自治体で起きていることです。ただし川崎市の場合、その変化のスピードが速い。「人口の推移(1980年〜)」のページで見たとおり、市は40年で50万人増えました。都市基盤をつくる時期が終わり、住む人を支える時期に入った——歳出の内訳は、その移行をそのまま記録しています。
伸びたのは高齢者向けではなく、子ども向け
民生費の中身を見ると、意外な事実が浮かびます。もっとも伸びたのは高齢者向けではなく児童福祉費でした。
2000年度311億円 → 2022年度1,389億円。4.5倍です。同じ期間に老人福祉費は201億円→412億円(2.1倍)、生活保護費は338億円→618億円(1.8倍)。児童福祉費の伸びが突出しています。
いまや児童福祉費だけで民生費の44%を占め、単独で教育費(1,294億円)を上回ります。
理由は他のページの数字とつながります。「保育所の定員と待機児童数」のページで見たとおり、市内の保育所は2003年の113所から2017年の300所へ2.7倍になりました。「就業者数・失業率・女性就業」のページで見たとおり、女性の就業者は20年で7万8千人増えています。女性が働くようになり、保育の受け皿が必要になり、その費用が財政に乗った。3つのページの数字が、ひとつの流れを描いています。
そして「高齢化率・年少人口比率」のページで見たとおり、川崎市の高齢化率20.2%は政令市20市で最低です。老人福祉費の本格的な増加は、これから来ます。児童福祉費が4.5倍になった上に、高齢者向けが乗ってくる。財政の見通しとしては、そう読むのが自然です。
商工費3.2%という現実
中小企業の経営者として、いちばん気になる数字がこれかもしれません。
2022年度の商工費は258億円、歳出の3.2%です。2000年度の280億円(5.1%)より、金額でも比率でも減っています。労働費7億円、農林水産業費5億円を足しても、産業振興関連は歳出の3.4%にとどまります。
もっとも、商工費には制度融資の預託金なども含まれるため、この金額がそのまま「支援策の規模」というわけではありません。それでも、市の財政のなかで産業振興が占める位置は決して大きくない、という事実は変わりません。
「財政力指数・経常収支比率」のページで見たとおり、川崎市の経常収支比率は97.1%です。自由に使えるお金は収入の3%。そのなかから産業振興に配分される額が、大きく増える見込みは薄いといえます。市の補助金を事業計画の柱に据えるのは、リスクが高い——このページの数字は、そう示唆しています。
動かせない58%
性質別に見ると、構造がより明確になります。
扶助費2,387億円(29.9%)、人件費1,526億円(19.1%)、公債費713億円(8.9%)。この3つで4,626億円・58%です。いわゆる義務的経費で、法律や契約で支払いが決まっており、市の判断で減らすことはほぼできません。
政策的に動かせるのは、普通建設事業費1,049億円(13.2%)と物件費1,035億円(13.0%)あたりです。7,975億円の予算のうち、市が自由に方向づけできるのは2,000億円程度——それが実態に近い姿です。
中小企業への示唆
1. 公共工事は縮小トレンド——土木費は22年で43.8%減、普通建設事業費は歳出の13.2%。建設業にとって、市の発注量は増える局面ではありません。民間需要(「新設住宅着工戸数」のページ参照)を軸に見るべきです。
2. 福祉分野は拡大トレンド——民生費3,133億円のうち、相当部分が市内の福祉サービス事業者への支払いです。「高齢者福祉施設と定員」のページで見たとおり、有料老人ホームは17年で25.8倍になりました。行政の財政が苦しいことと、この分野の事業機会があることは両立します。
3. 子ども関連は最大の成長分野——児童福祉費4.5倍という伸びは、市の歳出のなかで突出しています。保育、学童、給食、送迎、施設管理、ICT——子ども関連の事業には、まだ拡大余地があります。
4. 補助金依存は避ける——商工費3.2%、しかも減少中。市の支援策は「あれば助かる」程度に位置づけ、事業の採算は自力で成立させる設計が現実的です。国や県の制度のほうが規模は大きくなります。
データの注意点
数値は地方財政状況調査(決算統計)による一般会計等の決算額です。上下水道や病院などの公営企業会計は含みません。
2018年度に教育費が急増しているのは、2017年度の県費負担教職員の政令市への移管という制度変更によるものです。教職員の給与負担が県から市へ移りました。前後をまたいだ増減率を、そのまま「教育への投資が増えた」と読まないでください。
2020年度に歳出総額が9,032億円へ跳ねているのは、特別定額給付金などコロナ禍の国庫支出金によるものです。
「目的別」と「性質別」は同じ歳出を別の基準で分類したものです。それぞれの合計が歳出総額になります。2つを足し合わせると二重計上になります。