川崎市7区の小売販売額

買い物を集める区と、買い物が出ていく区。同じ市内で吸引力は2.3倍違います。

このページの要点

① 買い物を集めているのは川崎区と幸区。川崎区は市の人口の15.1%しかいないのに、小売販売額は22.3%を占めます。吸引力(販売額シェア÷人口シェア)は1.48。

② 逆に多摩区は0.63。人口シェア14.4%に対し販売額シェアは9.1%。区民の買い物が区外・市外へ流れていることを示しています。

③ 20年で最も伸びたのは幸区。2001年の937億円から2020年の1,620億円へ+72.9%。ラゾーナ川崎の開業(2006年)と新川崎エリアの再開発が効いています。

商圏の吸引力

販売額シェアと人口シェアの比較(2020年)

青が小売販売額のシェア、灰色が人口のシェア/青が長ければ買い物が集まっている区です

読み方:青(販売額)が灰色(人口)より長い区は、区民の人数以上に買い物が集まっています。川崎区と幸区の2区だけがこの状態です。
残る5区は灰色のほうが長い。とくに多摩区は人口14.4%に対して販売額9.1%と差が大きく、区民の買い物がかなりの割合で外に出ていることがわかります。

出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」/総務省「令和2年国勢調査」をもとに作成

吸引力指数(2020年)

小売販売額のシェア ÷ 人口のシェア/1.0が「区民の人数なり」の水準

読み方:1.0を超えるのは川崎区(1.48)と幸区(1.26)だけ。川崎駅を中心とした商業集積が、市内の他区や市外からも買い物客を引き寄せています。
最も低いのは多摩区の0.63。登戸から新宿まで小田急線で20分台という立地が、そのまま数字に出ています。
ビジネスへの示唆:吸引力の低い区は「商売が弱い」のではなく「満たされていない需要がある」とも読めます。多摩区・中原区・高津区の住民が区外で買っているものは何か——そこに市内事業者の入り込む余地があります。

出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」/総務省「令和2年国勢調査」をもとに作成

20年間の推移

区別の小売業年間商品販売額(2001年〜2020年)

単位は億円/2011年以降は経済センサスによる値です

読み方:もっとも目を引くのは幸区(緑)の伸びです。2001年の937億円から2020年の1,620億円へ+72.9%。7区で唯一、一貫した右肩上がりを描いています。ラゾーナ川崎プラザの開業(2006年)と、新川崎・鹿島田エリアの再開発が背景にあります。
逆に川崎区(濃紺)は減少傾向です。2001年の3,318億円から2020年の2,586億円へ−22.1%。それでも市内トップの座は保っていますが、幸区との差は2,381億円から965億円まで縮まりました。
2011年に全区がそろって落ち込んでいるのは、商業統計調査から経済センサスへ調査が変わった影響が大きい点にご注意ください。

出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成

2001年からの伸び(2020年まで)

2001年を基準にした増減率(%)

読み方:プラスは幸区(+72.9%)、中原区(+18.4%)、麻生区(+15.3%)の3区。いずれも再開発や新しい商業施設ができた区です。
マイナスは川崎区(−22.1%)、高津区(−5.6%)、多摩区(−7.7%)、宮前区(−2.4%)。ただし2011年の調査変更をまたぐため、この数字は傾向として読むにとどめてください。

出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成

区ごとに、何が売れているか

区別・業種別の小売販売額(2020年)

100%積み上げ/各区の小売販売額に占める業種の割合

読み方:どの区でも飲食料品小売業が最大の柱です。食べるものは近くで買う——この原則は市内どこでも変わりません。
区ごとの違いが出るのはそれ以外です。川崎区と幸区は各種商品小売業(百貨店・総合スーパー)の比率が高く、駅前の大型店の存在を反映しています。逆に北部の区は飲食料品と「その他の小売業」の比率が高く、日常の買い物中心の構成です。
ビジネスへの示唆:北部3区(宮前・多摩・麻生)は衣料品や機械器具(家電・パソコン)の比率が低い。これらは市外で買われている可能性が高く、逆に言えば取り込む余地のあるカテゴリーです。

出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成

解説:吸引力という見方

「販売額が多い区」と「買い物が集まる区」は違う

2020年の小売販売額を区別に並べると、川崎区が2,586億円で1位、以下 中原区1,761億円、宮前区1,686億円、幸区1,620億円と続きます。しかしこの順番だけを見ても、商圏の性格はわかりません。人口が多い区は、それだけで販売額も大きくなるからです。

そこで吸引力指数——小売販売額のシェアを人口のシェアで割った値——を使います。1.0なら「区民の人数なりに売れている」、1.0より大きければ「区民の人数以上に買い物が集まっている」ことを意味します。

結果は明快でした。1.0を超えるのは川崎区(1.48)と幸区(1.26)の2区だけ。残る5区はすべて1.0未満で、なかでも多摩区は0.63と際立って低い。

川崎駅がすべてを集めている

川崎区と幸区が高いのは、両区にまたがる川崎駅周辺の商業集積があるためです。川崎駅は市内最大のターミナルで、ラゾーナ川崎プラザをはじめとする大型商業施設が集まります。幸区の販売額が2001年から20年で+72.9%と大きく伸びたのは、2006年のラゾーナ開業がそのまま数字に出たものと考えてよいでしょう。

興味深いのは、その裏で川崎区が−22.1%と減っていることです。同じ川崎駅周辺でありながら、東口(川崎区)から西口(幸区)へ買い物客が移った——駅を挟んだ商業の重心移動が、区の境界線をまたいで統計に現れています。

多摩区の0.63をどう読むか

もっとも吸引力が低い多摩区は、人口シェア14.4%に対して販売額シェアが9.1%。単純計算で、人口なりに売れていれば得られたはずの販売額との差はおよそ610億円になります。

理由は立地です。多摩区の登戸駅からは小田急線で新宿まで20分台。向ヶ丘遊園、生田、中野島といった駅も同じ路線上にあります。区民にとって、都心での買い物は「わざわざ出かける」ものではなく、通勤の延長線上にあります。

ただしこれは裏返せば、610億円分の需要が区内で満たされていないということでもあります。「卸売・小売業の年間商品販売額」のページで見た市全体の流出(約5,900億円)の、その一部がここにあります。

中小企業として、どこを狙うか

1. 吸引力の低い区は「空白地帯」——多摩区(0.63)、中原区(0.89)、高津区(0.90)は、住んでいる人の数に対して売り場が足りていない可能性があります。とくに中原区は人口シェアが市内最大(17.1%)なのに販売額シェアは15.2%。武蔵小杉に人は集まったが、買い物の場はそれに追いついていないという読み方ができます。

2. 業種で見ると、北部は衣料と家電が薄い——宮前・多摩・麻生の3区は、各種商品小売業と機械器具小売業の比率が市平均より低い。これらのカテゴリーの買い物は、川崎駅前か市外へ流れています。

3. 食は近くで買われる——どの区でも飲食料品小売業が最大の柱です。食品関連は立地に関係なく地元で消費される数少ないカテゴリーで、川崎の小売業にとって最も安定した基盤といえます。

4. 川崎区の減少に注意——20年で−22.1%は7区で最大の落ち込みです。市内最大の販売額を保ってはいますが、東口エリアで商売をしている事業者にとっては、商圏そのものが薄くなっている可能性を意識しておくべき数字です。

データの注意点

2011年に商業統計調査から経済センサスへ調査が切り替わっており、2006年と2011年のあいだで数値が接続しません。「2001年からの伸び」のグラフはこの断層をまたいでいるため、厳密な増減率ではなく傾向としてお読みください。

また、2020年の販売額はコロナ禍の影響を受けた年です。とくに駅前の大型店を抱える川崎区・幸区は、通常年より低く出ている可能性があります。

吸引力指数は簡便な指標で、区外からの通勤者・通学者の買い物や、区をまたぐ日常的な移動を織り込んでいません。あくまで大まかな商圏の性格を掴むための目安です。