このページの要点
① 市民1人あたりの小売販売額は、政令指定都市20市で最下位。川崎市は75.2万円で20位。1位の大阪市(149.9万円)のちょうど半分です。
② それなのに、市民の所得は20市で2位。納税者1人あたり課税対象所得は459.3万円で、横浜市に次ぐ高さです。稼ぐ場所と使う場所が違う——この2つの数字が並ぶと、川崎の構造がはっきり見えます。
③ 市内でも2.3倍の差。1人あたり小売販売額は川崎区の111.0万円に対し、多摩区は47.6万円。同じ市内でも、買い物が集まる区とそうでない区がはっきり分かれます。
40年間の推移
年間商品販売額の推移(1981年〜2020年)
卸売業+小売業の合計/単位は兆円/調査年のみ表示
この落ち込みは商売が急に縮んだというより、2007年に商業統計調査から経済センサスへ調査が切り替わった影響が大きいと考えられます。その後2015年3.02兆円、2020年3.19兆円と戻していますが、2006年の水準にはまだ届いていません。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
卸売業と小売業の内訳(2001年〜2020年)
積み上げ棒/単位は兆円
小売業は2001年の1.14兆円から2020年の1.16兆円へ、20年間ほぼ横ばい。人口が同じ期間に約25万人増えたことを考えると、1人あたりの買い物額は市内で減っていることになります。
出典:総務省「社会・人口統計体系(C 経済基盤)」をもとに作成
政令指定都市20市のなかで
市民1人あたりの小売販売額(2020年)
小売業の年間商品販売額 ÷ 2020年の人口/川崎市を濃い色で表示
下位を見ると、相模原市(19位)、堺市(18位)、さいたま市(17位)、横浜市(16位)——いずれも大都市に隣接する市が並びます。これは偶然ではありません。隣に大きな商業都市があると、買い物はそちらに流れます。
川崎市の場合、隣は東京都区部と横浜市。しかも市域が細長く、どの区からも市外の商業集積に出やすい。「市内で買う理由」が構造的に弱いのです。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」/総務省「令和2年国勢調査」をもとに作成
所得は2位、買い物は20位
横軸が納税者1人あたり課税対象所得(万円)、縦軸が市民1人あたり小売販売額(万円)
この位置にいる都市は、「所得の高い住民がいるのに、その人たちが市内でお金を使っていない」ことを意味します。同じ傾向は相模原市・さいたま市にも見られますが、川崎市の乖離がもっとも大きい。
ビジネスへの示唆:裏を返せば、市外に流出している購買力がそれだけ大きいということです。「川崎で買う理由」をつくれる商売——専門性、鮮度、対面のサービス、地域密着の信頼——には、取り込む余地が残っています。
出典:総務省「社会・人口統計体系」/「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成。所得は2024年度、販売額は2020年の値です。
7区でどう違うか
区別の1人あたり小売販売額(2020年)
小売業の年間商品販売額 ÷ 区の人口
川崎区は川崎駅前という市最大の商業集積を抱えるため、区民以外の買い物も取り込みます。逆に多摩区は登戸・向ヶ丘遊園を抱えるものの、新宿方面へ出やすく、市内では最も購買力が流出しやすい区といえます。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」/総務省「令和2年国勢調査」をもとに作成
売場面積と、1m²あたりの販売額(2020年)
棒が売場面積(左軸・m²)、折れ線が1m²あたり年間販売額(右軸・万円)
面積が広い区ほど効率がよいわけではありません。宮前区や多摩区は売場が少ない分、1店舗あたりの集客密度が高い。逆に高津区・川崎区は大型店が多く、面積のわりに売上が伸びていない可能性があります。
ビジネスへの示唆:出店を考えるなら、面積あたりの生産性が高い区(宮前・多摩・幸・麻生)は供給不足のサインとも読めます。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
何が売れているのか
小売業の中分類別 年間商品販売額(2020年・川崎市)
単位は億円/秘匿されている分類は表示していません
注目は無店舗小売業(606億円・5.2%)。通信販売やネット通販がここに入ります。まだ全体の5%ですが、この分類は今後のびる余地が大きい。
卸売業に切り替えると、機械器具卸売業が55.4%を占めます。臨海部の産業集積を支える取引が、卸売の中心にあることがわかります。
出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」をもとに作成
解説:買い物が市外に流れる街
所得2位、買い物20位という組み合わせ
このページでもっとも重要な数字は、たった2つです。川崎市民の納税者1人あたり課税対象所得は459.3万円で政令市20市の2位。いっぽう市民1人あたりの小売販売額は75.2万円で20市の最下位。
所得が高いのに、市内での買い物が少ない。これはつまり、川崎市民は市外で買い物をしているということです。行き先は言うまでもなく、東京都区部と横浜市でしょう。
この構造は「人口の推移」のページで見た昼夜間人口の話とつながっています。川崎は東京へ働きに出る人が多い街です。通勤の行き帰りに都心で買い物を済ませれば、その消費は東京都区部に計上されます。働きに出るとき、財布も一緒に出ていく——それが数字に表れています。
下位に並ぶのは、すべて「隣が大都市」の市
1人あたり小売販売額の下位5市を見ると、川崎市(20位)、相模原市(19位)、堺市(18位)、さいたま市(17位)、横浜市(16位)。堺市は大阪市の隣、残る4市はすべて東京圏です。
逆に上位は大阪市、名古屋市、仙台市、福岡市、岡山市。いずれも広域圏の中心で、周辺市町村から買い物客を集める側の都市です。
つまりこの指標は、都市の「商業力」というより「周辺から吸うか、周辺に吸われるか」を示しています。川崎市が最下位なのは商業が弱いからというより、日本最大の商業集積である東京都区部と、それに次ぐ横浜市に挟まれているという立地の結果です。
それでも1.16兆円の市場がある
誤解のないように書いておくと、川崎市の小売販売額1.16兆円は決して小さくありません。絶対額でみれば20市中12位(人口は6位)。人口156万人の街として、必要な買い物の場は当然あります。
重要なのは、本来ならもっと大きいはずの市場が、そうなっていないという点です。仮に1人あたり販売額が20市の平均(113.5万円)並みだったとすれば、市内の小売販売額は1.75兆円になる計算です。実際の1.16兆円との差はおよそ5,900億円。これが市外に流出していると考えられる購買力の、おおまかな規模感です。
もちろん、この試算は「川崎が周辺から買い物客を集める都市だったら」という仮定に立つもので、そのまま実現できる数字ではありません。それでも、市内小売業1.16兆円に対してその半分にあたる規模の購買力が市外に向かっているという見方は、商売の余地を考えるうえで意味があります。
中小企業として、どこに勝ち目があるか
1. 「わざわざ都心に行くほどでもない」買い物——食料品、日用品、修理、メンテナンス。飲食料品小売業が市内小売の39.7%を占めているのは、この領域が実際に市内で消費されている証拠です。ここは守りの利く市場です。
2. 都心では手に入らない専門性——都心の大型店と品揃えで競っても勝ち目はありません。逆に、地域の事情を知っていること、顔が見えること、すぐ来てくれることは、都心の店には真似できません。
3. 面積あたり効率の高い区に注目——1m²あたり販売額が高いのは宮前区(158.1万円)、多摩区(152.6万円)、幸区(143.3万円)。売場が足りていない可能性のあるエリアです。逆に高津区(105.8万円)、川崎区(115.9万円)は供給が厚く、競争が激しいと考えられます。
4. 無店舗小売はまだ5.2%——市内の無店舗小売業(通信販売・ネット販売)は606億円で、小売全体の5.2%にとどまります。市外に流出している購買力を取り戻す手段として、ECは川崎の事業者にとってまだ開拓余地のある領域です。
データの注意点
年間商品販売額は2020年(令和2年)1年間の実績で、コロナ禍の影響を強く受けた年です。とくに衣料品や百貨店(各種商品小売業)は通常年より低く出ている可能性があります。
また、長期推移のグラフは2007年を境に調査が商業統計調査から経済センサスへ切り替わっており、2006年と2011年のあいだで数値が接続しません。グラフ上の急落を「商業の崩壊」と読まないでください。
所得(2024年度)と販売額(2020年)は年が異なります。比較の趣旨は構造の対比にあり、同一時点の厳密な比較ではない点にご留意ください。