このページの要点
① 大型小売店は40年で72店から178店へ、2.5倍に増えました。同じ40年で小売店は1万1,556店から6,083店へ47.4%減。大きい店が増え、小さい店が消えた40年です。
② 1981年は小売店161店に大型店1店、2021年は34店に1店。大型店の「濃さ」は4.7倍になりました。
③ それでも人口10万人あたりの大型店数12.04店は政令指定都市20市で最下位。1位の大阪市(20.09店)の6割にとどまります。店が増えた以上に、人が増えたからです。
40年で何が起きたか
大型小売店と小売店の推移(1981年〜2021年・川崎市)
2006年までは事業所・企業統計調査、2009年からは経済センサス/棒が小売店数、折れ線が大型小売店数
赤い線(大型小売店)は72店から178店へ2.5倍。方向が正反対です。
2006年と2009年のあいだに切れ目があります。調査が「事業所・企業統計調査」から「経済センサス」に変わったためで、そのままつなげて比較することはできません。ただしどちらの期間でも傾向は同じ——小売店は減り、大型店は増え続けています。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」(原典:事業所・企業統計調査、経済センサス)をもとに作成
大型店1店あたり、小売店は何店あるか
小売店数 ÷ 大型小売店数(店)/数字が小さいほど大型店の存在感が大きい
40年で4.7倍の濃さになりました。街の商業の風景が、根本から入れ替わったということです。
「商業事業所数の推移」のページで見た「40年で半分になった」小売店の内訳が、ここでわかります。減ったのは小さな店であり、その受け皿が大型店でした。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
百貨店・総合スーパーだけは増えていない
百貨店、総合スーパーの店舗数(店)
大型小売店全体が2.5倍に増えたのとは、まったく違う動きです。増えたのはショッピングセンターや大型専門店であって、百貨店・総合スーパーではありません。
2006年(28店)と2009年(15店)の差には調査方法の変更が含まれるため、この落差をそのまま「13店が閉店した」とは読めません。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
政令指定都市20市のなかで
人口10万人あたりの大型小売店数(2021年)
大型小売店数 ÷ 住民基本台帳人口(日本人)/川崎市を濃い色で表示
川崎市の大型店178店という数は、決して少なくありません。横浜市514店、大阪市521店に比べれば少ないものの、岡山市137店、静岡市116店より多い。問題は分母です。人口147万人に対して178店では、密度が上がりません。
「小売業の年間商品販売額」のページで見たとおり、川崎市民1人あたりの小売販売額は20市で最下位でした。店の密度も、販売額も最下位——同じ構造の裏表です。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
7区でどう違うか
区別の大型小売店数と密度(2021年)
棒が店舗数、菱形が人口10万人あたりの店舗数
ところが密度で見ると順位が変わります。幸区が16.80店でトップ、川崎区15.23店が続きます。幸区にはラゾーナ川崎プラザがあり、人口16万6,625人に対して28店。市内でもっとも大型店が濃いエリアです。
もっとも低いのは多摩区の9.07店、次いで中原区9.83店。中原区は人口25万4,315人と市内最大なのに大型店は25店。人口の割に大型店が少ない区です。
出典:総務省「社会・人口統計体系 市区町村データ」をもとに作成
解説:入れ替わった40年
正反対に動いた2つの線
1981年の川崎市には、小売店が1万1,556店ありました。2021年は6,083店。40年で5,473店、47.4%が消えました。
同じ40年で、大型小売店は72店から178店へ2.5倍に増えています。
2つの線は正反対に動きました。これが川崎の商業に起きたことです。
大型店1店あたりの小売店数を計算すると、変化の大きさがよくわかります。1981年は160.5店に1店、2001年は65.0店に1店、2021年は34.2店に1店。大型店の濃さは40年で4.7倍になりました。
「商業事業所数の推移」のページで見た「40年で半分になった」小売店。その減少分の受け皿が、この大型店です。
ただし百貨店・総合スーパーは別
ここで注意が必要です。増えたのは「大型小売店」であって、「百貨店・総合スーパー」ではありません。
百貨店・総合スーパーの数は1981年24店、1986年26店、1991年16店、1996年19店、2001年21店、2006年28店。そして2009年以降は9〜15店で推移しています。
2006年の28店と2009年の15店のあいだには調査変更の影響が含まれるため、13店が一気に閉店したと読むのは正しくありません。しかし2009年から2021年までの経済センサス期間だけを見ても、15→9→11→9→12とほぼ横ばい、むしろ低い水準です。
つまり増えたのは、ショッピングセンター、大型専門店、大型ドラッグストア、ホームセンターといった業態です。百貨店と総合スーパーという20世紀型の大型店は、増えていません。
それでも密度は20市最下位
ここからが、このページのもっとも意外な発見です。
大型店が2.5倍に増えた川崎市ですが、人口10万人あたりの大型小売店数12.04店は、政令指定都市20市で最下位です。
1位の大阪市は20.09店。2位の岡山市19.81店、3位の京都市18.05店。川崎市は大阪市の6割にとどまります。
川崎市の178店という絶対数は、少ないわけではありません。岡山市137店、静岡市116店、浜松市124店より多い。問題は分母です。人口147万8,496人に対して178店では、密度が上がりません。
これは「小売業の年間商品販売額」のページで見た構図とまったく同じです。川崎市民1人あたりの小売販売額も20市で最下位でした。店の密度も、販売額も最下位。そして両方とも、原因は同じ——市民が東京・横浜で買い物をするからです。
「昼間人口と夜間人口」のページで見たとおり、川崎市の昼夜間人口比率は87.3%で20市最下位。市民の41.9%が他県へ通勤しています。通勤先で買い物を済ませる人が多ければ、市内に大型店を出す動機は弱くなります。
幸区が市内でいちばん濃い
市内を見ると、大型店の分布には明確な偏りがあります。
店舗数では川崎区33店がもっとも多く、幸区28店、宮前区27店、中原区25店、高津区24店、麻生区22店、多摩区19店。
ところが人口10万人あたりで見ると順位が入れ替わります。幸区が16.80店でトップ。人口16万6,625人に対して28店です。ラゾーナ川崎プラザを筆頭に、川崎駅西口の再開発エリアに大型店が集中しています。
次いで川崎区15.23店、麻生区12.53店、宮前区11.74店。もっとも低いのは多摩区9.07店と中原区9.83店です。
中原区は人口25万4,315人と市内最大でありながら、大型店は25店。「区別 小売販売額」のページで見たとおり、中原区の吸引力指数は市内2位でしたが、大型店の密度では下から2番目。武蔵小杉の商業は、大型店よりも駅ビル・小規模店舗の集積という形をとっています。
中小企業への示唆
1. 「大型店に押されて小売店が減った」は、川崎では半分だけ正しい——40年で小売店は5,473店減り、大型店は106店増えました。数のうえでは、大型店が受け皿になりきれていません。消えた店の需要は、大型店だけでなく東京・横浜、そしてネット通販へ流れています。
2. 大型店の密度が20市最下位ということは、市場が空いているとも読める——ただし空いている理由は「市民が市外で買うから」。市外へ流れない需要——生鮮、日用品、緊急性の高いもの、対面が必要なサービス——に絞れば、勝負になります。
3. 幸区・川崎区は大型店との正面競合——密度16.80店、15.23店。この2区で価格と品揃えで戦うのは不利です。専門性、深夜早朝、法人向けなど、大型店がやらない領域を選ぶべきです。
4. 多摩区・中原区は大型店の空白地帯——9.07店、9.83店。人口は多いのに大型店が少ない。中規模の店舗、駅前の専門店、宅配には余地があります。とくに中原区は人口25万人で大型店25店です。
5. 百貨店・総合スーパーはもう増えない——12店。この業態を前提にした卸・納入のビジネスモデルは、川崎では縮小し続けます。取引先の業態構成を確認するべき段階です。
データの注意点
2006年までと2009年からでは、調査が違います。前者は「事業所・企業統計調査」、後者は「経済センサス」。捕捉範囲や定義が完全に同じではないため、2006年と2009年のあいだの変化は、実際の増減と調査変更の影響が混ざっています。グラフでも切れ目を入れて表示しています。
「大型小売店」の定義は、売場面積が一定以上の小売店です。具体的な基準は調査によって異なる場合があります。「百貨店、総合スーパー」はそのうちの特定業態を指し、大型小売店の内数です。
人口10万人あたりの計算には住民基本台帳人口(日本人)を使っています。外国人を含めると分母が増えるため、数値はやや小さくなります。都市間比較では同じ基準のため順位に影響しません。
2021年の数値は令和3年経済センサス‐活動調査(6月1日現在)によるものです。コロナ禍のさなかの調査である点にご留意ください。
店舗の「立地」そのもの(どこにあるか)は、この統計ではわかりません。区より細かい単位の分布は、川崎市の大規模小売店舗立地法の届出情報をご覧ください。