レポートの概要
企業物価指数(CGPI:Corporate Goods Price Index)は、企業どうしで取引されるモノの価格水準を示す指数で、日本銀行が毎月公表しています。私たちが店頭で払う「消費者物価」よりも川上(原材料・素材・部品の段階)にあたり、コストの動きをいち早く映すのが特徴です。
2026年5月の国内企業物価指数(総平均)は134.5、前年比+6.3%と、2023年3月以来の高い伸びになりました。ただし全体の数字だけでは実態は見えません。本レポートでは、23の「類別(品目グループ)」ごとの指数・前月比・前年比まで細かく掘り下げ、「どの分野の値上がりが企業のコストを押し上げているか」を明らかにします。
1. 国内企業物価指数(前年比)の推移
2025年は前年比の伸びが4%台から2%台へ縮小し、物価上昇は一服する方向でした。ところが2026年3月以降に再び急上昇し、5月は+6.3%まで加速しました。原油・非鉄金属など国際商品市況の上昇と円安による輸入コスト増が主因です。
出典:日本銀行「企業物価指数」国内企業物価・前年比(2025年1月〜2026年5月)
2. 類別(品目グループ)別の前年比ランキング
23類別を前年比の高い順に並べると、上昇の主役が非鉄金属(+42.2%)・スクラップ類(+33.9%)・石油石炭製品(+13.8%)・化学製品(+13.4%)といった素材・エネルギー系であることが一目でわかります。一方で鉄鋼はマイナス(-1.2%)と、同じ金属でも明暗が分かれています。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年5月速報)」国内企業物価・類別・前年同月比
📊 このグラフのポイント
「素材・資源に近いほど値上がりが激しく、加工・組立の最終製品に近いほど緩やか」という川上・川下の構造がはっきり表れています。
- 数値の読み取り:非鉄金属+42.2%が突出。上位は素材・エネルギー系、下位は機械・繊維など。鉄鋼のみマイナス。
- 背景・要因:銅・アルミなど非鉄金属と原油の国際価格高騰が直撃。情報通信機器(+13.1%)は半導体・円安の影響とみられます。
- 中小企業への示唆:自社の主原料がどの類別に属するかで、受けるコスト圧力はまったく異なります。まず「自社のコストはどの帯か」を特定しましょう。
3. 類別の詳細データ一覧(2026年5月速報)
23類別すべてのウエイト・指数・前月比・前年比を一覧にしました。ウエイトは総平均1,000に対する構成比(大きいほど全体への影響が大きい)です。前年比がプラスは赤、マイナスは青で示しています。
| 類別 | ウエイト | 指数 (2020=100) | 前月比 | 前年比 |
|---|
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年5月速報)」国内企業物価指数 類別
📊 表の読みどころ
- 指数の水準:非鉄金属は指数252.4(2020年比=約2.5倍)、石油石炭181.1、スクラップ216.7と、素材系の水準が突出して高い。
- ウエイトの大きい類別:輸送用機器(150.9)・飲食料品(144.6)が全体への影響大。飲食料品は前年比+4.1%で家計にも波及しやすい。
- 数少ない下落:鉄鋼だけが前年比-1.2%。需要減や在庫調整が背景とみられ、業種によっては仕入れ環境がむしろ緩む例も。
4. 今月の動き ― 前月比への寄与度
2026年5月は前月比+0.9%の上昇でした。この上げ幅にどの類別がどれだけ効いたか(寄与度)を見ると、石油石炭製品・電力都市ガス水道・化学製品・非鉄金属が押し上げ、農林水産物(精米・豚肉など)が押し下げました。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年5月速報)」前月比 主な類別の寄与度(%pt)
📊 このグラフのポイント
単月ではエネルギー(石油・電力ガス)の値動きが企業物価を大きく左右していることがわかります。エネルギー価格は振れが大きいため、月ごとの上下も激しくなります。
- 数値の読み取り:石油石炭+0.21pt、電力都市ガス水道+0.21pt、化学+0.19pt、非鉄金属+0.17ptが主な押し上げ。農林水産物は-0.07ptと押し下げ。
- 背景・要因:ガソリン・軽油・事業用電力・都市ガスの上昇が寄与。一方で精米・豚肉などの価格が落ち着き、押し下げに働きました。
- 中小企業への示唆:燃料・電力コストの比率が高い運送・製造・飲食は特に影響大。省エネ投資や料金プランの見直しがコスト防衛に直結します。
5. 押し上げの源泉 ― 輸出・輸入物価
国内企業物価の背後にある輸出・輸入物価(円ベース・前年比)を見ると、輸入物価+25.5%・輸出物価+20.6%と、国内(+6.3%)をはるかに上回っています。とくに輸入の「石油・石炭・天然ガス」は円ベースで前年比+47.0%と急騰しています。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年5月速報)」円ベース・前年比
📊 このグラフのポイント
輸入物価の突出した伸びは、原材料・エネルギーを海外に依存する日本の弱点を映します。円安が続くほど、この輸入インフレ圧力は国内へ波及していきます。
- 数値の読み取り:輸入+25.5%>輸出+20.6%>国内+6.3%。輸入の伸びが最も大きい。
- 背景・要因:国際商品市況の上昇に加え、円安が「円で払う輸入額」を膨らませています。
- 中小企業への示唆:輸入原材料に依存する事業は、調達先の複線化・国産代替・為替ヘッジなど、円安を前提にした調達戦略の見直しが急務です。
6. 考察と中小企業への示唆
今回の企業物価の再燃は、「素材・エネルギー主導」「輸入・円安主導」という2つの性格を持ちます。加工・組立の最終製品(機械・輸送機器など)の伸びは+2%前後にとどまる一方、川上の素材は+10〜40%台。この差は、川上の値上がりがまだ川下(最終製品・消費者価格)に十分転嫁されていないことを意味します。コストを吸収しているのは、多くの場合、立場の弱い中小企業です。
- ① 自社のコストを「類別」で特定する:主要仕入れがどの類別(非鉄・化学・石油石炭など)に連動するかを把握し、値上がり幅を原価に反映。
- ② 企業物価データを転嫁交渉の"根拠"に:「非鉄金属+42.2%」など公的データは、取引先への価格改定交渉で客観的な説得材料になります。
- ③ エネルギーコストの防衛:石油・電力・ガスが単月の押し上げ主因。省エネ・料金プラン見直し・燃料サーチャージ導入を検討。
- ④ 為替・調達リスクの分散:輸入依存が高い事業は、調達先の複線化や国産代替で円安リスクを緩和。
📊 このグラフのポイント
いったん落ち着きかけた企業物価が、わずか3か月で+2.1%(2月)→+6.3%(5月)へと跳ね上がった点が最大の注目ポイントです。コスト環境が急変しています。