レポートの概要
企業物価指数(CGPI:Corporate Goods Price Index)は、企業どうしで取引されるモノの価格水準を示す指数で、日本銀行が毎月公表しています。私たちが店頭で払う「消費者物価」よりも川上(原材料・素材・部品の段階)にあたり、コストの動きをいち早く映すのが特徴です。
2026年8月の国内企業物価指数(総平均)は136.1、前年比+7.6%と、2023年前半以来の高い伸びが続いています。ただし前月比は−0.2%とマイナスに転じ、加速局面がいったん一服する兆しも出ています。全体の数字だけでは実態は見えません。本レポートでは、23の「類別(品目グループ)」ごとの指数・前月比・前年比まで細かく掘り下げ、「どの分野の値上がりが企業のコストを押し上げているか」を明らかにします。
1. 国内企業物価指数(前年比)の推移
2025年後半は前年比+2%台で落ち着いていましたが、2026年3月以降に急上昇し、7月には+7.7%まで加速。8月は+7.6%と、わずかに伸びが鈍りつつも高い水準が続いています。原油・非鉄金属など国際商品市況の上昇と円安による輸入コスト増が主因です。
出典:日本銀行「企業物価指数」国内企業物価・前年比(2025年7月〜2026年8月)
2. 類別(品目グループ)別の前年比ランキング
23類別を前年比の高い順に並べると、上昇の主役が非鉄金属(+43.3%)・スクラップ類(+22.7%)・情報通信機器(+19.5%)・石油石炭製品(+14.7%)・化学製品(+13.9%)といった素材・エネルギー・電子系であることが一目でわかります。今回は23類別すべてがプラスで、5月時点でマイナスだった鉄鋼も+2.4%に転じました。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」国内企業物価・類別・前年同月比
📊 このグラフのポイント
「素材・資源に近いほど値上がりが激しく、加工・組立の最終製品に近いほど緩やか」という川上・川下の構造がはっきり表れています。
- 数値の読み取り:非鉄金属+43.3%が突出。上位は素材・エネルギー・電子系、下位は業務用機器・輸送用機器・鉄鋼・農林水産物など+2%台。
- 背景・要因:銅・アルミなど非鉄金属と原油の国際価格高騰が直撃。情報通信機器(+19.5%)は半導体・円安の影響で伸びを一段と拡大させました。
- 中小企業への示唆:自社の主原料がどの類別に属するかで、受けるコスト圧力はまったく異なります。まず「自社のコストはどの帯か」を特定しましょう。
3. 類別の詳細データ一覧(2026年8月速報)
23類別すべてのウエイト・指数・前月比・前年比を一覧にしました。ウエイトは総平均1,000に対する構成比(大きいほど全体への影響が大きい)です。前年比がプラスは赤、マイナスは青で示しています。
| 類別 | ウエイト | 指数 (2020=100) | 前月比 | 前年比 |
|---|
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」国内企業物価指数 類別
📊 表の読みどころ
- 指数の水準:非鉄金属は指数261.1(2020年比=約2.6倍)、石油石炭178.5、スクラップ200.3と、素材系の水準が突出して高い。
- ウエイトの大きい類別:輸送用機器(150.9)・飲食料品(144.6)が全体への影響大。飲食料品は前年比+4.3%で家計にも波及しやすい。
- 前年比は全面高、単月は一服:前年比は23類別すべてプラス。一方、前月比では農林水産物-2.3%・電力都市ガス水道-2.2%・石油石炭-1.7%など、単月では下落した類別もめだちます。
4. 今月の動き ― 前月比への寄与度
2026年8月は前月比−0.2%と小幅な下落でした。この下げにどの類別がどれだけ効いたか(寄与度)を見ると、電力・都市ガス・水道/農林水産物(精米など)/石油・石炭製品が押し下げ、非鉄金属・飲食料品が押し上げました。加速していた企業物価が単月では一服した格好です。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」前月比 主な類別の寄与度(%pt)
📊 このグラフのポイント
単月ではエネルギー(電力・ガス・石油)と農林水産物(精米)の値動きが企業物価を大きく左右していることがわかります。これらは振れが大きいため、月ごとの上下も激しくなります。
- 数値の読み取り:電力都市ガス水道-0.14pt、農林水産物-0.12pt、石油石炭-0.12ptが主な押し下げ。一方で非鉄金属+0.10pt、飲食料品+0.04ptが押し上げ。
- 背景・要因:夏の電力・都市ガスや石油製品(原油の落ち着き)の下落、そして精米価格の値下がりが押し下げに働きました。非鉄金属(銅・金地金など)は引き続き上昇。
- 中小企業への示唆:燃料・電力コストの比率が高い運送・製造・飲食は特に影響大。単月の下落に安心せず、前年比では高止まりが続く点に注意しましょう。
5. 押し上げの源泉 ― 輸出・輸入物価
国内企業物価の背後にある輸出・輸入物価(円ベース・前年比)を見ると、輸入物価+24.8%・輸出物価+17.9%と、国内(+7.6%)を大きく上回っています。エネルギーや素材の輸入価格が、円安と国際商品高を背景に高い伸びを続けています。
出典:日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」円ベース・前年比
📊 このグラフのポイント
輸入物価の突出した伸びは、原材料・エネルギーを海外に依存する日本の弱点を映します。円安が続くほど、この輸入インフレ圧力は国内へ波及していきます。
- 数値の読み取り:輸入+24.8%>輸出+17.9%>国内+7.6%。輸入の伸びが最も大きい。
- 背景・要因:国際商品市況の上昇に加え、円安が「円で払う輸入額」を膨らませています。
- 中小企業への示唆:輸入原材料に依存する事業は、調達先の複線化・国産代替・為替ヘッジなど、円安を前提にした調達戦略の見直しが急務です。
6. 考察と中小企業への示唆
今回の企業物価の再燃は、「素材・エネルギー主導」「輸入・円安主導」という2つの性格を持ちます。加工・組立の最終製品(機械・輸送機器など)の伸びは+2%前後にとどまる一方、川上の素材は+10〜40%台。この差は、川上の値上がりがまだ川下(最終製品・消費者価格)に十分転嫁されていないことを意味します。コストを吸収しているのは、多くの場合、立場の弱い中小企業です。
- ① 自社のコストを「類別」で特定する:主要仕入れがどの類別(非鉄・化学・石油石炭など)に連動するかを把握し、値上がり幅を原価に反映。
- ② 企業物価データを転嫁交渉の"根拠"に:「非鉄金属+43.3%」など公的データは、取引先への価格改定交渉で客観的な説得材料になります。
- ③ エネルギーコストの防衛:石油・電力・ガスが単月の押し上げ主因。省エネ・料金プラン見直し・燃料サーチャージ導入を検討。
- ④ 為替・調達リスクの分散:輸入依存が高い事業は、調達先の複線化や国産代替で円安リスクを緩和。
📊 このグラフのポイント
+2%台で安定していた企業物価が、わずか半年で+2.2%(2月)→+7.7%(7月)へと跳ね上がった点が最大の注目ポイントです。8月に+7.6%とごくわずかに鈍化し、加速局面がひとまず一服する兆しも見えます。