平成25年度 第2次試験問題 事例Ⅰ
与件文
1資本金1,000万円、売上高約70億円、従業員数135名(正規社員26名、非正規社員109名)のA社は、サプリメントなどの健康食品の通信販売業者である。
2近年、中高年層を中心に美容や健康の維持・増進への関心が高まっている。なかでもコラーゲンやヒアルロン酸に代表されるアンチエイジング向けや、グルコサミンやカルシウムなどの骨・関節サポート向けのサプリメント市場が拡大傾向にある。大手の製薬メーカー、食品メーカーを筆頭に、規模の大小や業種業態を問わず、多くの企業がこの市場に参入している。
3これらサプリメントは、必ずしも、薬局やドラッグストア、コンビニエンスストアなどの店頭だけで販売されているわけではなく、通信販売やeコマースを通じて一般消費者に届けられている。そうして提供されるサプリメントを、研究開発から生産・販売まで自社で手がけている企業は数少ない。業界の大半を占める中小企業は、商品企画を自社で行っているとしても、実際にサプリメントを開発しているわけでも、巨額の設備投資を行って生産しているわけでもない。中小企業が提供するのは、いわゆるOEM(相手先ブランド生産)商品であり、A社の商品も同様である。
41990年代の半ばに創業したA社は、初め、近隣県産の特産品の通信販売を営んでいた。A社がサプリメントを扱うようになったのは、現在の主要委託製造先であるX社から販売を依頼されたことがきっかけである。特産品販売の売上が思うように伸びず、いかにして事業を拡大させるかを考えていたA社にとって、サプリメントを少量でも供給するというX社からの提案は、受け入れやすいものであった。というのも、以前からA社社長は、高齢化に伴い、団塊シニアを中心とする中高年層に健康の維持・増進向けのサプリメント市場が成長するかもしれないと考えていたからである。
5今でこそ、本社の近隣に100名近いオペレーターからなるコールセンターを構えるようになったが、サプリメント販売を始めた時は、社長夫妻を含めて社員はわずか10名程度であった。今日同様、そのほとんどは非正規社員であったが、電話やFAXによる注文の受付、商品に関する問い合わせの対応、商品の梱包・発送、宣伝広告用折り込みチラシや荷物に同梱する説明書の作成に至るまで、全員で日々の業務をこなしていた。しかし、X社から供給されたと同様の健康の維持・増進向けのサプリメントに注目していたのはA社だけでなく、知名度が高い大手メーカーをはじめ、多くの企業がこの市場に参入してきたために競争が激しくなって、A社の売上は思うように伸びなかった。
6A社の業績が急速に伸張し始めたのは、2000年代半ばに、X社と共同して企画した、骨・関節サポート向けサプリメントへの絞り込みを決断してからである。競合他社に先駆けてこの商品を発売したこともあって、折り込みチラシ中心の宣伝広告で売上が徐々に伸び始めた。売上規模が拡大し少しでも資金に余裕ができるようになると、折り込みチラシ広告だけでなく、テレビCMのスポット広告やネット広告などの様々な宣伝広告を積極的に活用して、市場での認知度を高める施策を講じた。その結果、取り扱い件数が増加すると、ICT専門業者に顧客データベースの構築を外注しただけでなく、それまで自分たちでこなしてきた、商品の梱包、発送などの業務も外注し始めた。ただし、宣伝広告については、広告代理店任せにするのではなく、これまで蓄積してきたノウハウを駆使してA社が主導的に行っている。
7骨・関節サポート向けサプリメントを発売した当初10億円程度であった売上も、ほぼ前年比130%で伸張してきた。しかし、当時と比べて、A社は正規社員の数を大幅に増やしているわけではない。ここ2年、大学新卒の正規社員を若干名採用するようにもなったが、売上規模を急拡大させた中にあって、毎年2〜3名程度の正規社員を中途採用してきたに過ぎない。他方、顧客に直接対応するコールセンターのオペレーター業務は、非正規社員とはいえ直接採用し、売上規模の伸びに応じて増員を行っている。その離職率は、5パーセント程度と業界の中では低水準である。
8とはいえ、A社は、売上のほとんどを、骨・関節サポート向けサプリメントが占めており、次世代を担うような新商品が登場しているわけではない。大手メーカーが様々な商品展開で新市場を開拓する中で、A社も今後岐路に立つことになるかもしれない。
設問
A社は、ここ数年で急速に事業を拡大させている。以下の設問に答えよ。
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設問1OEMや梱包・発送等を外注し、自社は商品企画と主導的な宣伝広告に経営資源を集中する点。蓄積した広告ノウハウを核に外部資源を活用し、少人数で事業を継続する。(77字)
設問2少数の正規社員に企画・宣伝広告のノウハウが集中するため、継承と教育を進める。製造・物流・DB構築等を外注し定型業務はオペレーターが担う分業体制を維持し、標準化と権限委譲で属人化を防ぐ。(92字)
設問1の着眼点:「新商品の企画や新規顧客開拓以外」と限定されている。よって、A社が成長した仕組み=外部資源の活用と中核業務への集中に答えの焦点を当てる。
- 第3段落…商品はOEM。開発・生産は自社で行わない。
- 第6段落…顧客DB構築や梱包・発送を外注。一方で宣伝広告は広告代理店任せにせず自社で主導(蓄積ノウハウが強み)。
つまり「外注できる業務は外部に出し、競争力の源泉である商品企画と宣伝広告のノウハウは自社に残す」という選択と集中が継続のカギ。
設問2の着眼点:「正社員を増やさず成長する体制の維持」=少人数体制のリスク(属人化・ノウハウ継承)への留意を問う助言。
- 第6・7段落…正社員は2〜3名の中途採用中心で大幅増員していない。企画・広告ノウハウが少数の正社員に集中している。
- 対応…ノウハウの標準化・継承・教育、権限委譲で属人化リスクを抑え、外注とオペレーター活用の分業体制を維持する。
少人数ゆえに「人が抜けると回らない」点を意識し、組織としての知識共有と人材育成に留意する流れでまとめる。
A社の従業員の大半を占める非正規社員の管理について、以下の設問に答えよ。
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設問1商品の対象である中高年顧客と感性が近く、健康への関心や生活経験を活かし問い合わせに共感的に対応できるため。応対経験があり定着率も高く戦力化しやすいから。(76字)
設問2研修・教育で応対スキルを高め成長実感を与え、シフトの柔軟化で家庭と両立しやすくする。表彰や正社員登用で貢献を評価し、職場の意思疎通を活発化させ働きやすい環境を整え、帰属意識を高め定着を図る。(95字)
設問1の着眼点:「中高年層の主婦を、時給が高くてもオペレーターに採用する理由」。A社の顧客特性と結びつけて考える。
- 第2・4段落…A社の顧客は中高年層・団塊シニアで、健康維持向けサプリの利用者。
- 第5段落…オペレーターは注文受付や商品問い合わせの対応を担う。
つまり顧客と年齢層・関心が近い中高年主婦は、共感的でていねいな応対ができ、勤務経験者は即戦力かつ定着しやすい。これが「多少高くても採用する」理由になる。
設問2の着眼点:「賃金制度以外で離職率を低く保つ施策」=非金銭的な動機づけ・働きやすさ・帰属意識を問う。
第7段落でオペレーターは直接採用・離職率5%と低水準。これを維持する打ち手を、賃金を除いた人事施策で構成する。
・教育研修によるスキル向上と成長実感(内発的動機づけ)
・主婦が働きやすいシフトの柔軟化(WLB)
・表彰・正社員登用などの評価・キャリア機会
・良好な職場の人間関係づくり
これらで満足度と帰属意識を高め、定着につなげる。
A社では、最近になって大学新卒の正規社員を採用し始めた。従来、中途採用しか行わなかった同社が新卒正規社員を採用するようになった理由として、どのようなことが考えられるか。80字以内で答えよ。
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単一商品依存からの脱却に向け、長期的に自社で育成し理念やノウハウを継承する中核人材を確保するため。新商品開発など次世代の事業展開を担う若手を計画的に育てる狙い。
対比で考える:「中途採用しかしてこなかった会社が、なぜ今新卒を採るのか」=両者の違い(即戦力 vs 長期育成)から理由を導く。
- 新卒採用の一般的意義…長期的・計画的な育成、企業文化・理念の継承、組織の若返り、自社色に染めた中核人材の確保。
- 与件の文脈…第8段落で骨・関節サポート向けに依存し、次世代を担う新商品がないという課題が示される。今後の新商品開発・事業展開を担う人材が必要。
よって「将来の事業の柱を育てるため、長期育成前提の若手=新卒を確保し始めた」という方向でまとめる。第8段落の単一商品依存という課題に紐づけると説得力が増す。
A社では、ICTの専門業者に委託して構築した顧客データベースを活用している。しかし、そこで得られた情報は、必ずしも新商品開発に直接結びついていない。そうした状況が生じる理由について、80字以内で答えよ。
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DB構築や製造を外注し開発を委託先X社に依存するため。蓄積した顧客情報は宣伝広告や受発注に活用されるが、自社に商品開発の機能や人材がなく開発に活かせていない。
「結びつかない」理由を構造から探す:情報があるのに新商品開発に活きない=開発する機能・体制が自社にないことが根因。
- 第3段落…商品はOEMで、A社は実際の開発・生産を行っていない。開発は委託先(X社)依存。
- 第6段落…顧客DBは外注で構築。情報は宣伝広告や受注対応には活かされるが、開発につなぐ流れがない。
- 第8段落…骨・関節サポート向けに依存し、新商品が出ていない=開発機能の弱さの結果。
よって「DB情報の活用先が販促中心で、自社に開発機能・人材がなくX社に依存しているため、新商品開発に結びつかない」とまとめる。情報の質や量の問題ではなく組織機能の欠如に着眼するのがポイント。