事案の概要データ
| 初報 | 2026年10月21日「サイバー攻撃によるシステム障害発生について」 |
|---|---|
| 第2報 | 2026年10月28日「【第2報】サイバー攻撃によるシステム障害発生について」 |
| 発生日 | 2026年10月17日 |
| 発生から初報まで | 4日 |
| 攻撃の種類 | 「第三者によるランサムウェア攻撃が原因と判明しております」(第2報) |
| 侵入経路 | 「詳細な侵入経路につきましては、外部の専門機関と連携しながら調査中です」(第2報) |
| 影響範囲 | 「当社のエネルギーマネジメントサービス『SEMS』をご利用のお客様および取引先の皆様」(第2報)。対象には個別に案内済み |
| 情報流出 | 「現時点において、個人情報や顧客データが外部へ流出した事実は確認されておりませんが、引き続き調査を進めてまいります」(第2報) |
| 件数 | 公表文に記載なし |
| 対応(完了) | 不正アクセスを受けた機器に接続されているネットワークの遮断 |
| 対応(対応中) | システムの感染状況および侵入経路の調査 |
| 対応(完了) | 管轄警察署、情報処理推進機構等の関係機関への報告 |
| 対応(完了) | 「本件の影響範囲についてPHPは使用していないことの調査と確認」 |
| 復旧時期 | 「被害を受けた一部サービスにつきまして、現時点では明確な復旧時期をお伝えできる状況にございません」(第2報) |
| 今後の見通し | 「個人情報や顧客データが外部へ流出した事実が確認された場合など、今後公表すべき新たな事実が判明した場合は、当社ホームページを通じて速やかにお知らせいたします」(第2報) |
| 別件(参考) | 2026年10月22日に「PHPの脆弱性対応に伴うホームページの一部利用制限について」、10月27日に同復旧を公表(本件とは別件として扱われている) |
| 第3報 | 本記事の時点(2026年11月3日)では確認できず |
図解:この事故の構造
- 2026年10月17日第三者による不正アクセスに伴うシステム障害が発生
- ↓ 発生から4日
- 2026年10月21日初報を公表。「第三者からのサイバー攻撃」とし、攻撃の種類は特定していない
- 2026年10月22日(別件)PHPの脆弱性対応でホームページの一部利用を制限
- 2026年10月27日(別件)ホームページの一部利用制限が復旧
- ↓ 初報から7日
- 2026年10月28日第2報でランサムウェア攻撃と明記。影響は「SEMS」の利用者と取引先。復旧時期は未定
何が起きたのか
新菱冷熱工業は2026年10月21日、「サイバー攻撃によるシステム障害発生について」を公表しました。空調設備工事を手がける大手の設備会社です。
初報によれば、2026年10月17日に不正アクセスによるシステム障害が発生。「第三者からのサイバー攻撃によって被害が発生していることが判明しております」としていました。この段階では攻撃の種類は特定されていません。
7日後の10月28日に第2報が出ます。ここで「第三者によるランサムウェア攻撃が原因と判明しております」と明記されました。詳細な侵入経路は、外部の専門機関と連携して調査中です。
影響範囲は「当社のエネルギーマネジメントサービス『SEMS』をご利用のお客様および取引先の皆様」。対象には個別に案内済みとしています。
情報流出については「現時点において、個人情報や顧客データが外部へ流出した事実は確認されておりませんが、引き続き調査を進めてまいります」。件数は公表されていません。
復旧時期については、「被害を受けた一部サービスにつきまして、現時点では明確な復旧時期をお伝えできる状況にございません」としています。
第2報で「ランサムウェア」と書いたことの意味
初報は「サイバー攻撃」、第2報は「ランサムウェア攻撃」。この書き換えは、小さいようで大きい違いです。
「サイバー攻撃」は、ほとんど何も言っていません。 不正アクセスも、ウイルス感染も、DDoSも、すべて「サイバー攻撃」です。読んだ側は、何を警戒すればいいか分かりません。
「ランサムウェア攻撃」と書くと、起きていることの形が見えます。 ランサムウェアは、データを暗号化して業務を止め、復旧と引き換えに金銭を要求する攻撃です。近年は「払わないならデータを公開する」と脅す二重恐喝が主流になっています。
だから「ランサムウェア」と書いた時点で、取引先は次のことを想定できます。①システムが止まっているので、普段の連絡手段が使えないかもしれない。②データが公開される可能性があるので、自社が渡した情報も対象かもしれない。③復旧には時間がかかる。
一方で、「ランサムウェア」と書くことは会社にとってリスクでもあります。株価にも、取引先の与信判断にもひびきます。それでも書いたのは、書かないと取引先が備えられないからです。
中小企業が同じ立場になったとき、初報で攻撃の種類が分からないのは普通です。初報は「サイバー攻撃」でよい。ただし、分かった時点で第2報に書き直す。 この順番を守るだけで、公表の質は大きく変わります。
「PHPは使用していないことの調査と確認(完了)」という1行
第2報の「対応状況」に、見慣れない項目が入っています。
「本件の影響範囲についてPHPは使用していないことの調査と確認(完了)」
これは、2026年10月に大きく報じられたPHPの深刻な脆弱性(本サイトでも複数の事案で触れています)と、自社の事故が関係ないことを確認した、という記述です。実際に同社は、10月22日に「PHPの脆弱性対応に伴うホームページの一部利用制限について」を別途公表し、10月27日に復旧を公表しています。つまり同社は、同じ時期に2つの別件を抱えていたわけです。
この1行が優れているのは、取引先が当然抱く疑問を、先に打ち消している点です。
10月下旬の時点で、取引先の情報システム担当者はこう考えます。「新菱冷熱がやられたのは、あのPHPの脆弱性か? だったら自社も同じ経路で危ないのでは」。この疑問に答えないと、問い合わせが殺到します。
だから「PHPは使っていないことを確認した(完了)」と書く。たった1行で、問い合わせの何割かが消えます。
中小企業の公表文でも、この考え方はそのまま使えます。「世の中で話題になっている原因と、自社の事故は関係があるのか」を、先に書く。 関係があるなら「同じ脆弱性です」と書く。関係ないなら「別件です」と書く。分からないなら「現在確認中です」と書く。どれでもいいのですが、触れないのが一番よくありません。
復旧時期を言えないときに、何を書けるか
「現時点では明確な復旧時期をお伝えできる状況にございません」。これは言いにくい一文です。しかし、適当な見通しを出すよりはるかに誠実です。
ランサムウェアからの復旧には、最低でも数週間かかることが多く、数か月に及ぶこともあります。「来週には復旧します」と言って守れなければ、信頼は二重に失われます。
では、復旧時期を言えないときに何を書けるか。第2報は、4つの対応項目に(完了)(対応中)を付けて並べています。
「ネットワークの遮断(完了)」「感染状況および侵入経路の調査(対応中)」「警察・情報処理推進機構等への報告(完了)」「PHPを使用していないことの確認(完了)」。
復旧の日付は言えなくても、進捗は言えます。 これが読み手にとっての安心材料になります。「何も進んでいない」のではなく「3つ終わって1つ進行中」だと分かるからです。
中小企業が事故で業務を止めたとき、取引先への連絡文は、この形がそのまま使えます。①やったこと(完了)②やっていること(対応中)③まだ言えないこと(復旧時期など)の3つに分けて書く。これだけで、「状況が分からない」という不安はかなり減ります。
そしてもう1つ。同社は管轄警察署と情報処理推進機構(IPA)への報告を完了しています。ランサムウェアの被害に遭ったときの通報先は、この2つです。警察(都道府県警のサイバー犯罪相談窓口)とIPA。被害届を出すと復旧が遅れると考える方がいますが、逆です。同種の被害の情報が集まっている場所に相談したほうが、復旧の手がかりが得られます。
時系列で見る経過
- 2026年10月17日第三者による不正アクセスに伴うシステム障害が発生。一部サービスに影響
- 2026年10月21日初報「サイバー攻撃によるシステム障害発生について」を公表(発生から4日)
- 2026年10月22日(別件)「PHPの脆弱性対応に伴うホームページの一部利用制限について」を公表
- 2026年10月27日(別件)ホームページの一部利用制限の復旧を公表
- 2026年10月28日第2報。ランサムウェア攻撃と判明。影響はエネルギーマネジメントサービス「SEMS」の利用者と取引先。ネットワーク遮断・関係機関への報告は完了、侵入経路の調査は対応中
- 2026年10月28日時点個人情報や顧客データの外部流出は確認されず。復旧時期は明確に伝えられる状況にないとする
中小企業が学ぶべきポイント
- 初報で攻撃の種類が分からないのは普通。ただし分かった時点で第2報に書き直す。
- 「サイバー攻撃」はほとんど何も言っていない。「ランサムウェア」と書くと、相手は備えられる。
- 世の中で話題になっている原因と自社の事故が関係あるかを、先に書く。触れないのが一番よくない。
- 復旧時期が言えなくても、対応項目に(完了)(対応中)を付ければ進捗は伝えられる。
- 取引先への連絡文は、やったこと/やっていること/まだ言えないことの3つに分ける。
- ランサムウェアの通報先は、都道府県警のサイバー犯罪相談窓口とIPA。被害届は復旧を遅らせない。
- 被害拡大を防ぐ最初の手は、やられた機器につながるネットワークの遮断。
- 自社が提供するクラウド型サービスが止まると、止まるのは顧客の業務。影響範囲は社外に出る。
出典・参考
- サイバー攻撃によるシステム障害発生について(新菱冷熱工業・2026年10月21日)
- 【第2報】サイバー攻撃によるシステム障害発生について(新菱冷熱工業・2026年10月28日)
- 新菱冷熱工業にサイバー攻撃、システム障害で一部サービスにも影響(ScanNetSecurity)
本記事は、各組織の公表資料および報道をもとに、要点をわかりやすく整理したものです。 被害件数は「漏えいした可能性のある最大件数」として公表されている場合があり、実際に漏えいが確定した件数とは異なることがあります。 また、調査の進展により内容が変わる場合があります。正確な情報は必ず出典元の公式発表をご確認ください。