目次
1. この報告書は何者か
毎年7月ごろ、総務省から静かに公表される文書があります。「統計法施行状況報告」です。令和8年7月27日に公表された今回の版は、令和7年度(2025年度)を対象とした168ページの報告書で、各府省から集めた統計行政の実績を総務省が取りまとめたものです。
根拠は統計法第55条第2項。総務大臣が法の施行状況を毎年度取りまとめ、インターネットで公表するとともに統計委員会に報告する、と定められています。つまりこれは「日本の政府統計の年次健康診断書」にあたります。
報告書は3部構成です。第1部が当該年度の主な動き、第2部が「公的統計の整備に関する基本的な計画」(基本計画)の推進状況、第3部が公的統計の作成・提供、調査票情報の利用、人材・予算といった項目別の実施状況。さらに巻末に、基本計画の118事項それぞれの進捗を記した別編と、17本の資料編が付きます。
今回の版が特に注目に値するのは、第Ⅳ期基本計画(2023〜2027年度)の中間年にあたる点です。5か年計画のちょうど折り返し地点で、「掲げた目標にどこまで届いたか」を政府自身が点検した回、ということになります。実際、報告書の第2部では「デジタル化への対応状況」として、オンライン調査・ミクロデータ提供・行政記録情報・ビッグデータの4分野について、課題 → 取組 → 現況 → 残された課題という構造で率直な自己評価が行われています。この率直さが、今回の報告書の読みどころです。
この記事の狙い
公的統計は「使う人」にとってインフラです。e-Statからデータを引く、APIを叩く、政策や事業計画の根拠にする──そうした行為の裏側で、いま何が起きているのか。データ利活用・行政DXに関心のある方に向けて、報告書の数字を読み解きながら整理します。
2. そもそも「統計行政」とは
本題に入る前に、制度の骨格を押さえておきます。ここが分かると、報告書の数字が一気に立体的に見えてきます。
公的統計は4種類ある
ひとくちに「政府の統計」といっても、作られ方によって性格がまったく違います。報告書はこれを4つに分けて扱っています。
| 種類 | 作られ方 | 令和7年度の規模 | 例 |
|---|---|---|---|
| 基幹統計 | 特に重要な統計として総務大臣が指定 | 54統計 | 国勢統計、国民経済計算、消費者物価指数 |
| 一般統計調査 | 行政機関が総務大臣の承認を得て実施 | 203調査 | 各府省の実態調査など |
| 加工統計 | 他の統計を加工して作成 | 29件公表 | 産業連関表など |
| 業務統計 | 行政の業務記録から経常的に作成 | 414件 | 各種の届出・許認可の集計 |
このうち基幹統計は別格の扱いです。統計法第2条第4項により、①国勢統計、②国民経済計算、③政策上特に重要・民間で広く利用される・国際条約で作成が求められる統計として総務大臣が指定したもの、の3類型で構成されます。基幹統計の作成を目的とする調査を「基幹統計調査」といい、令和7年度末で50調査あります。
「承認」という関門
統計調査は勝手に始められません。基幹統計調査を新設・変更・中止するときは、あらかじめ総務大臣の承認が必要(法第9条・第11条)。しかも軽微な事項を除き、総務大臣は統計委員会の意見を聴かなければなりません。令和7年度に承認された基幹統計調査は24件(すべて変更)、うち統計委員会の答申を経たものが9件でした。
一般統計調査も同様に総務大臣の承認が要ります(法第19条・第21条)。令和7年度の承認は84件、中止の通知が5件。さらに、都道府県と20の指定都市が行う統計調査は総務大臣への届出制で、令和7年度の新設届出が158件、変更届出が228件、継続中のものが1,190件にのぼります。
用語メモ
- 統計委員会
- 総務省に置かれる第三者機関。基幹統計の指定や調査計画の変更に意見を述べ、基本計画の実施状況を調査審議し、必要があれば総務大臣に勧告できる。統計行政の「チェック機能」にあたります。
- 基本計画
- 正式には「公的統計の整備に関する基本的な計画」。統計法第4条に基づき、おおむね5年ごとに閣議決定される政府全体の統計整備計画。現在は第Ⅳ期(2023〜2027年度)。
- 調査票情報
- 統計調査で集められた個票データそのもの。原則として当初の統計作成目的以外に使ってはならない(法第40条)が、統計法第32条〜第36条に「特別の定め」があり、条件付きで二次利用・提供が認められています。
回っているのは5年サイクル+毎年サイクル
統計行政のガバナンスは、二重のループで回っています。おおむね5年に1回、基本計画を策定・変更する大きなループ。そして毎年度、各府省が計画を推進し、総務省が施行状況を取りまとめ、統計委員会が評価する小さなループ。今回読んでいる報告書は、この小さなループの成果物です。
評価の結果、統計委員会は必要と認めれば総務大臣(または総務大臣を通じて関係府省の長)に勧告でき、勧告を受けた側は講じた施策を報告する義務を負います。制度としては、きちんとPDCAが組まれている構造です。
3. 令和7年度の5大トピック
報告書の第1部は、その年度の主な動きを5項目に絞って紹介しています。ここが最も読みやすく、そして年度の性格を端的に示す部分です。
① 令和7年(2025年)国勢調査の実施
5年に1度の大調査。1920年(大正9年)の第1回から数えて22回目にあたります。2025年10月1日午前零時を基準時点として、国内に常住するすべての人を対象に実施されました。
注目すべきは回答手段の変化です。オンライン回答を促すため、調査書類のデザインと記載内容が見直され、QRコードを読み取るだけでログイン情報が自動入力される機能が実装されました。その結果、人口速報集計の世帯数から算出したインターネット回答率は全国で約47.3%、前回2020年調査から9.4ポイント上昇しました。
プライバシー意識の高まり、オートロックマンションの増加、統計調査員の高齢化──調査環境が厳しさを増すなかで、この伸びは実務的にはかなり大きな成果です。なお速報集計では、東京都と沖縄県を除く45道府県で5年前より人口が減少したことが明らかになりました。
② 統計データの機械可読化
この記事の読者にとって、おそらく最も実害のあるテーマです。総務省は2020年12月に「統計表における機械判読可能なデータ作成に関する表記方法」を策定し、e-Stat掲載表の標準フォーマットを各府省に示してきました。
ところが2022〜2024年度の実績を見ると、この表記方法に沿って機械判読可能な形式でe-Statに登録されている基幹統計は約8割だったものの、業務統計や加工統計を含めた全体では約6割にとどまっていました。つまり、政府統計の4割近くは「人が目で読む前提のExcel」のまま置かれている、ということです。
この状況を受け、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」「データ利活用の在り方に関する基本方針」(いずれも令和7年6月13日閣議決定)を踏まえ、「行政データにおける機械可読性に関するルール」(令和8年3月31日決定)を新たに整備しました。報告書は「AIやデジタル技術の進展により、データの価値がこれまでにないほど高まっている」として、機械可読化とフォーマット標準化の進展に期待を寄せています。
③ 世界統計の日
2025年10月20日は、国連総会が定める5年に1度の「世界統計の日」でした。テーマは「質の高い統計とデータですべての人に変化を」。総務省は同年12月に「世界統計の日フォーラム2025」を開催し、国内外から約150名が参加しています。
また2025年11月には、国連統計委員会の下部組織である「SDG指標に関する機関間専門家グループ(IAEG-SDGs)」会合を、日本で初めて北九州市で開催しました。加えて、若年層の統計リテラシー向上を目的に、総務省職員が全国19か所の大学・中学校・高等学校に出向き、延べ約2,100人に講演を実施しています。
④ 品質確保・人材育成
統計作成だけでなく政策立案の支援もできる人材として、「統計データアナリスト」「統計データアナリスト補」の認定が2021年度から進められています。令和8年3月末時点の累計認定者数は、アナリスト174人、アナリスト補531人。
興味深いのは、令和8年1月に認定の基本的な考え方が改定され、「確保・育成」から「配置」へと軸足が移ったことです。各府省が確保・育成・配置計画を設定する仕組みへ移行します。人を育てるフェーズから、育てた人を適所に置くフェーズへ、という判断です。
⑤ 統計委員会デジタル部会の取りまとめ
2023年10月に設置されたデジタル部会が、2025年9月までに延べ7回開催され、審議内容が「第9期統計委員会デジタル部会の審議内容の整理・取りまとめ」として整理されました。柱は「デジタル経済・社会の統計的把握」と「統計作成のデジタル化」の2つ。今後は、DXと生成AIに着目した検討、デジタル化を経済以外の分野にも広げた検討を進めることが提案されています。
4. e-Statは2年で2.3倍──使われ方の変化
ここからは数字で見ていきます。まず、政府統計の総合窓口e-Statの利用状況から。
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表24(クローラーによるアクセスを除く)
どの統計が読まれているのか
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表26(令和7年度のアクセス件数上位10統計)
📊 このグラフのポイント
アクセス件数トップは人口動態調査の約782万件。単独で全体の約1割を占めます。令和5年度は約217万件でしたから、2年で3.6倍という異常な伸びです。
- 2位以下に作物統計調査(約486万件)、農業経営統計調査(約418万件)、普通貿易統計(約409万件)、青果物卸売市場調査(約356万件)と、上位10位のうち4つが農林水産省の統計。分野別でも「農林水産業」が約2,595万件と全体の3分の1を占めています。
- 国勢調査(約351万件)、消費者物価指数(約296万件)、労働力調査(約161万件)といった「有名どころ」より、農業・貿易系の実務データの方が読まれている構図です。価格動向や需給の把握にデータを使う実務ニーズが強いことがうかがえます。
- 分野別では人口・世帯が約1,450万件、企業・家計・経済が約976万件と続きます。人口減少局面で人口統計への関心が急速に高まっていることが数字に表れています。
5. オンライン化の到達点と「壁」
報告書のなかで最も率直に「うまくいっていない」と書かれているのが、この分野です。
導入率94.3%、しかし回答率は
令和8年3月末時点で、オンライン回答の仕組みが導入されている統計調査は246件。全261調査に対する導入率は94.3%で、環境整備自体はほぼ完了したと言えます。
問題は、その仕組みが実際に使われているかどうかです。基本計画は第Ⅳ期の5年間で、基幹統計調査のオンライン回答率を企業系調査で8割以上、世帯系調査で5割以上にする目標を掲げていました。
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表59(基幹統計調査のオンライン回答率・単純平均)
📊 このグラフのポイント
企業系調査は令和元年度の36.7%から令和7年度の62.3%へ、6年間で25.6ポイント上昇。第Ⅲ期最終年度(令和4年度)の43.5%と比べても18.8ポイント伸びており、着実な改善です。一方、世帯系調査は13.2%から28.8%へ。上昇はしていますが、傾きが明らかに緩やかです。
- 目標(企業系80%・世帯系50%)に対する到達度は、企業系が約78%、世帯系が約58%。残り2年で目標に届くかは微妙な情勢です。
- 分布を見るとさらに厳しい実態が浮かびます。企業系43調査のうち目標の80%を超えているのは13調査(30.2%)。世帯系12調査のうち50%を超えたのはわずか1調査(8.3%)にとどまります。
- 調査規模を勘案した加重平均では、令和7年度の全体が43.8%。内訳は企業等系63.9%に対し世帯系39.4%で、世帯系は令和4年度(41.3%)から1.9ポイント低下しています。大規模な世帯調査ほどオンライン化が難しいという構造が読み取れます。
なぜ伸びないのか──現場の声
報告書は、各府省から寄せられた「回答率向上が困難な理由」をそのまま掲載しています。ここが非常に生々しい。
| 区分 | 報告された固有の事情(要旨) |
|---|---|
| 企業系 | 調査結果によるPC利用率が49.1%。70歳以上の事業主が46.0%を占め、回答者のPC利用環境が普及していない |
| 回答項目が多岐にわたり、社内の複数部署にまたがるため、紙のほうが回覧しやすく利便性が高い | |
| 小規模事業所ではPC利用率が低く、推奨されたセキュリティレベルにない場合もある。毎年調査対象の多くが入れ替わるため定着しない | |
| 世帯系 | 調査対象世帯の約3割を高齢者世帯が占める |
| 回答の難易度が高く、職員または調査員による聞き取りに頼らざるを得ない |
要するに、残っているのは「デジタル化しにくい層」だけだということです。取りやすいところはすでに取り終えており、ここから先はシステム改修だけでは動かない。報告書自身も「回答者の属性、調査方法(自計方式・他計方式)の違い、回答の利便性などが、オンライン回答率に影響を及ぼしていることがうかがわれる」と分析し、各府省に「調査の特性に応じたきめ細やかな検証」を求めています。
とはいえ手が打たれていないわけではありません。総務省はオンライン調査システムe-Surveyに、HTML調査票のローカル保存機能、外部ファイル取込み機能、疑義照会に対応するコミュニケーション機能を実装。各府省側でも、QRコードによるログイン情報自動入力(個人企業経済調査)、記入誤りの自動検知と回答内容に応じた設問表示(労働力調査)、スマートフォン回答対応(農林業センサス)、ナッジを取り入れた調査書類(経済センサス-基礎調査)といった工夫が積み重ねられています。
6. ミクロデータ開放が動き出した
研究者や自治体にとって最も直接的な変化があったのが、この分野です。
統計調査で集めた個票(調査票情報)は、原則として当初の目的以外に使えません(法第40条)。ただし統計法第32条〜第36条に例外規定があり、公益性のある統計作成や学術研究のためには、審査を経て提供を受けられます。
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表7
📊 このグラフのポイント
注目は真ん中の系列です。公的機関等と同等の公益性を有する者への提供(法第33条第1項第2号)と、学術研究・高等教育のための提供(法第33条の2)を合わせた件数が、令和6年度の319件から令和7年度は494件へ約1.5倍に急増しました。令和5年度までは300件前後で横ばいだった系列です。
- 報告書はこの増加要因を、利用手続の電子化と提供の早期化に取り組んだ結果と分析しています。具体的には、府省ごとにバラバラだった二次利用の申出窓口を一元化した「ミクロデータ利用 電子申出窓口(e-Micro)」が令和7年3月から稼働しました。窓口を一つにしただけで利用が5割増えるという、行政DXの分かりやすい成功例です。
- 審査のスピードも改善しており、令和7年度の平均審査日数は7.7日(申出1,456件の平均)。ただし府省差は大きく、総務省4.1日に対し文部科学省21.9日、こども家庭庁20.0日と5倍の開きがあります。
- 一方、匿名データの提供(法第36条)は年間40件程度が上限で、令和7年度は29件と逆に減少。学術研究や教育での活用が期待されながら伸び悩んでいます。使える形に加工されたデータが足りていない可能性があります。
オンサイト施設とリモートアクセス
個票を安全に使うための物理的インフラも整備が進みました。総務省は大学・研究機関の協力を得て全国25か所にオンサイト施設を整備し、利用可能な統計調査を14府省等が所管する計190調査(令和8年3月末時点)まで拡充。さらに政府統計共同利用システムを活用したリモートアクセス方式による提供も始まっています。
| 根拠規定 | 電磁的記録媒体 | オンサイト利用 | リモートアクセス |
|---|---|---|---|
| 法第32条(二次利用) | 609 | 0 | - |
| 法第33条第1項第1号 | 2,118 | 19 | - |
| 法第33条第1項第2号 | 409 | 51 | 11 |
| 法第33条の2 | - | 10 | - |
| 合計 | 3,136 | 80 | 11 |
数字を見ると、提供の圧倒的多数(3,136件)はいまだに媒体渡しです。オンサイトは80件、リモートアクセスに至っては11件。25施設・190調査という器の整備に対して、実際の利用はまだ立ち上がり期にあります。報告書も「AI等のデジタル技術の更なる急速な進展が見込まれる」なかで、「データ利活用の高度化と調査票情報の保護の両立」を図るための提供方法の整理・検討が必要だ、と課題を残しています。
7. 行政記録情報とビッグデータ、なぜ進まないのか
調査で聞かずに済ませる。これが報告者負担軽減の王道であり、統計作成の効率化そのものです。ところがこの2分野は、数年にわたってほぼ横ばいのまま推移しています。
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表9・図表11
📊 このグラフのポイント
行政記録情報等を活用している統計調査は、令和元年度の107件から令和7年度の109件へ。7年間でほぼ横ばいです。ビッグデータ等を経常的に活用している統計等も7件から13件へと、漸増にとどまっています。
- 行政記録情報の内訳を見ると、令和7年度の109件のうち母集団情報の整備が87件と大半を占め、報告者負担の軽減に直結する「調査事項の代替」は37件にとどまります。「名簿づくりには使うが、質問を減らすところまでは行っていない」という構図です。
- さらに深刻なのが情報の出どころです。令和7年度は、調査を実施する府省が自ら保有する情報の活用が38件、地方公共団体の業務記録が43件に対し、他府省が保有する行政記録情報の活用はわずか7件。省庁の壁を越えたデータ流通がほとんど起きていません。
- 報告書はその理由を「どの行政機関がどういった行政記録情報を保有しているかを格納するデータ・カタログの整備が途上であり、データフォーマットも標準化されていないため」と分析しています。カタログがない、フォーマットが揃わない──行政DXでいつも指摘される論点が、そのまま統計行政にも当てはまっています。
法制度そのものへの言及
この課題について、報告書は珍しく踏み込んだ書き方をしています。
「我が国では、統計作成機関が他の行政機関に行政記録情報の提供を任意で求める規定しか存在しないが、諸外国では、行政記録情報の活用が進んでいることから、公的統計の作成のために行政記録情報等の積極的な活用を促すための規定の整備を検討する必要がある」(第2部より要旨)
つまり、「お願いベースでは限界だ、法改正を含めた検討が要る」と政府自身が認めた形です。ビッグデータについても同様に、「公的統計の作成のためにビッグデータ等を活用する場合の手続や情報保護規定等の整備を検討する必要がある」としています。今後の統計法改正論議を占ううえで、注目すべき記述だと思います。
ビッグデータ活用の中身
実際に何が使われているのか、13件の顔ぶれを見ると理解が進みます。データ種別ではPOSデータが5件と最多、ウェブサイト上の情報が3件、人工衛星データと交通系ICカードデータが各1件など。
| 統計等 | 使っているデータ | 使い方 |
|---|---|---|
| 消費者物価指数(総務省) | POSデータ | パソコン、カメラ、テレビなど7品目は当該データのみで指数を作成 |
| 消費者物価指数(総務省) | ネット通販の価格 | 外国パック旅行費・航空運賃・宿泊料の3品目を当該データのみで作成 |
| 作物統計調査(農水省) | 人工衛星データ | 降水量・地表面温度・日射量等から水稲の作柄概況の参考データを作成 |
| 農林業センサス(農水省) | 施設位置情報・道路網・時刻表 | 農山村地域調査の調査事項の一部を代替 |
| 商業動態統計調査(経産省) | POSデータ | 調査票提出に代えてPOSデータ等を民間事業者経由で提出可能に |
| 大都市交通センサス(国交省) | 交通系ICカード明細 | 当該データを用いた集計資料を作成 |
報告書は、POSデータ以外の活用が一部府省にとどまる理由として、対象の偏り(捕捉される対象が限定的)、高額な対価、データ供給の継続性、需給のミスマッチ、人材確保、個人・法人情報の保護という6つの課題を挙げています。どれも民間データを行政が使う際の定番の壁です。
8. 品質管理──誤りの9割は「手作業」
2018年から2019年にかけての毎月勤労統計問題以降、統計行政は品質管理体制を大きく作り直してきました。その現在地を確認します。
体制:統計品質管理官とPDCA
2023年4月、それまでの「統計分析審査官」を大幅に見直し、各府省に統計品質管理官が配置されました。この職は総務省の統計品質管理推進室の職員となりつつ各府省に併任で置かれ、統計の統括責任者(統計幹事等)を補佐する形をとります。府省縦割りを横串で刺す設計です。
加えて、各府省は「PDCAガイドライン」に基づき所管統計調査の点検・評価を計画的に実施しています。令和7年度の実施件数は105件(基幹統計調査17件、一般統計調査88件)。取組開始(2020年10月)から令和7年度末までの累計では、対象324調査のうち304調査(94%)で点検・評価が完了、基幹統計調査に限れば53調査すべて(100%)が済んでいます。
さらに、外部の目で統計作成プロセスを診断する「統計作成プロセス診断」が令和5年度4件、令和6年度9件、令和7年度11件と拡大中。診断からは、業務委託先のブラックボックス化(作業手順や判断基準が委託先にしか分からず、委託先が変わると継続性が失われる)といった課題と、その改善策が抽出されています。
それでも年間119件の誤り
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表46・図表48
📊 このグラフのポイント
誤り発見ルールに基づく報告件数は、令和4年度の131件をピークにゆるやかに減少し、令和7年度は119件。ただし「報告が減った=誤りが減った」とは限らず、ルールの定着によって発見・報告される件数が安定してきた、と読むのが妥当でしょう。
- 原因の内訳が示唆的です。作成者側では「手作業による誤り」が88件と圧倒的多数。作業ファイルの計算式の設定誤り、集計表やグラフの表記誤りといった内容です。プログラム等の改修漏れ・不具合は12件にとどまります。
- 報告者側では「記入漏れ、記載ミス等による報告誤り」が27件、「調査定義等の誤認による誤報告」が13件。
- 再発防止策として最も多いのは「業務マニュアル等の整備・追記」77件、次いで「複数人チェックの実施・徹底」57件。人手のミスを人手のチェックで防ぐという構図が続いています。プログラムの改修・徹底は30件、手作業業務のシステム化は21件。自動化による構造的解決はまだ主流になっていません。
ここは行政DXの観点から見ると、大きな伸びしろがある領域です。誤りの主因が「Excelの計算式設定ミス」である以上、マニュアルとダブルチェックの強化には限界があります。集計処理のコード化、テスト自動化、公表前の機械的検証といったソフトウェア開発の標準的な手法をどこまで持ち込めるかが、次の課題になるはずです。
公表の遅延
品質のもう一つの側面は「適時性」です。令和7年度に第一報の公表を行った基幹統計は45件で、うち予定より遅延したものが3件(前年度は4件)。一般統計調査の結果公表は156件で、遅延が19件(前年度15件)と増加しました。早期化されたのは1件のみ。基幹統計は守られているが、一般統計調査の適時性はやや悪化している、という構図です。
9. 人と予算:静かに進む縮小
ここまで見てきた課題──オンライン化、機械可読化、行政記録情報の活用、品質管理──のすべてに共通する制約が、リソースです。
(R8当初+R7補正)
(延べ人数)
5年間の合理化計画
予算は積まれている
統計委員会の「リソース建議」に基づき重点配分すべきとされた取組について、令和8年度当初予算は約184億円。これに令和7年度補正予算の約32億円を加えると、総額約216億円となります。定員も新規増10人、振替2人が措置されました。予算面では一定の手当てがなされていると言えます。
配分先を見ると、「社会経済の変化に的確に対応する公的統計の整備」に約184億円(総務省の国勢調査関連が大半)、「品質の高い統計作成のための基盤整備」に約23億円、「統計データの利活用促進」に約6.7億円、「デジタル技術や多様な情報源の活用等」に約5.6億円といった構成です。
しかし現場の人は減っている
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表52
📊 このグラフのポイント
国の統計調査の実務を地方で担う都道府県統計専任職員の定員は、令和6年度の1,621人から令和7年度1,604人、令和8年度は1,588人へと減少しています。
- 背景は「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」(閣議決定)です。国家公務員の定数を5年間で5%以上(年平均1%)合理化する方針に準じ、統計専任職員も令和7〜11年度の5年間で81人の合理化減に取り組むこととされています。
- 緩和策として、業務の周辺部分を補助する会計年度任用職員が令和8年度に4人増の63人に。ただし専任職員16人減に対して補助職員4人増ですから、量的な穴埋めにはなっていません。
- 一方、統計調査の現場を支える登録調査員は令和7年度末で141,599人(新規登録22,738人)、登録基準数に対する登録率は114.3%と基準を上回っています。ただし報告書は「プライバシー意識の高まりによる協力意識の低下など、統計調査環境の悪化に伴い統計調査員の確保が困難となっている」と現状認識を示しています。
基幹統計の作成に従事する本府省職員は延べ852人。令和5年度は894人、令和6年度は879人でしたから、こちらも減少傾向です。統計を作る調査は減っていないのに、作る人は減っている。この構図が、デジタル化・自動化を「やったほうがいい施策」から「やらないと回らない施策」に変えつつある、というのが実態でしょう。
人材育成のいま
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表51
📊 このグラフのポイント
統計データアナリスト等の認定は順調に伸びています。制度開始年度(令和3年度)末の延べ65人から、令和7年度末にはアナリスト174人・アナリスト補531人(累計705人)に達しました。
- 令和7年度だけで、アナリストが51人(123→174人)、アナリスト補が96人(435→531人)増えています。認定要件となる統計研修は、令和7年度に延べ約2,400人が修了しました。
- 令和8年1月に認定の基本的な考え方が改定され、各府省が確保・育成・配置計画を設定する仕組みへ移行します。資格保有者を増やすフェーズから、必要な部署に配置するフェーズへの転換です。
- その他、統計品質アドバイザー・統計技術アドバイザーの活用が4府省等で延べ17件(内容は集計・分析手法5件、統計のシステム化・デジタル化5件、標本設計2件など)、府省の統計部局間の人事交流が8府省42人。外部知見と横断人材の両輪で専門性を補う設計になっています。
10. 基本計画118事項の進捗
第Ⅳ期基本計画の別表には、5年間に各府省が講ずべき具体的措置が118事項掲げられています。中間年である令和7年度末時点の自己評価が、次のとおり集計されました。
出典:令和7年度統計法施行状況報告 図表2(「実施済」には「実施済(課題あり)」を含む)
📊 このグラフのポイント
「実施済」と「継続実施」を合わせた件数は、公的統計の整備に関する事項が57事項中44事項(77.2%)、公的統計の作成・提供・利用の基盤整備が61事項中58事項(95.1%)。全体では102事項・86.4%となりました。
- 報告書は「実施時期が令和7年度までに到来しているもので、検討が未着手となっている事項はみられない」と記しています。少なくとも手続的には計画どおり進んでいる、という自己評価です。
- ただし2つの区分で温度差があります。基盤整備は「実施済」が8事項(13.1%)と少なく「継続実施」が50事項(82.0%)。これは制度・システム整備が性質上、期限を切らずに継続する取組だからです。一方、公的統計の整備に関する事項は「実施済」22事項・「継続実施」22事項と拮抗し、「実施・検討予定」が13事項(22.8%)残っています。国民経済計算の精度向上など、時間のかかる技術的課題が多い領域です。
- ここで注意したいのは、これが各府省の自己評価だという点です。「継続実施」というラベルは進捗が良いことも、期限がないまま漂流していることも意味しえます。実際、行政記録情報やビッグデータの活用は「継続実施」に分類されながら、数字は7年間ほぼ横ばいでした。進捗率86.4%という数字を、成果の86.4%と読むのは危ういということです。
なお統計委員会は、前年度(令和6年度)の施行状況について令和7年7〜9月に企画部会で計3回審議し、消費動向指数(CTI)と観光関連3統計を重点的に取り上げました。CTIについては寄与度・季節調整値の算出による公表内容の充実などを「一定の取組が進展している」と評価しつつ、民間データの利活用を含むさらなる発展を求めています。観光統計については、インバウンド需要の高まりを背景に、標本設計等の改善を評価しつつ調査の安定性確保と精度向上を求めました。
11. 国際的な立ち位置
統計行政は国際協調の色が濃い分野です。SDGsのグローバル指標、SNA(国民経済計算)の国際基準、統計分類の国際比較可能性──いずれも国連統計委員会を中心とした枠組みのなかで動いています。
令和8年1月のSDGs推進本部幹事会で新たに8つのグローバル指標の作成方法が決定され、全251指標のうち182指標が公表済みとなりました。公表率にして約73%です。算出値は外務省の「JAPAN SDGs Action Platform」で公開されています。
人的な国際貢献も継続しています。令和7年度は10府省から延べ148人の職員が41の国際会議に出席。6府省が10の国際機関・国に延べ28人を派遣し、2府省が37か国から延べ66人の研修生を受け入れました。国連アジア太平洋統計研修所(SIAP)に対しては1970年の設立以来の協力を続けており、令和7年度は139か国・地域、合計4,057人に研修を実施しています。
また令和8年3月の国連統計委員会では、SDG指標に関する日本の取組を発信するとともに、2025SNA(国民経済計算の新しい国際基準)の導入について、各国の推計方法や実験的な推計結果を共有し、必要に応じて再検討がなされるよう要望する発言を行っています。データの資本化(データを資産として計上する扱い)など、デジタル経済を国民経済計算にどう取り込むかは、いま国際的に議論が進んでいる最前線のテーマです。内閣府はデータ・データベース・データ分析のフロー計数の試算や実質ストック額の試算を行い、国際タスクチームにも参画しています。
12. まとめ:行政DXの視点から見た5つの論点
168ページを通読して見えてきたことを、5つの論点として整理します。
論点1:需要は爆発しているが、供給フォーマットが追いついていない
e-Statのアクセスは2年で2.3倍。この伸びは、データを機械的に扱う利用が広がっていることを強く示唆します。ところが機械判読可能な形式で登録されている統計は、基幹統計で約8割、全体では約6割。令和8年3月に「行政データにおける機械可読性に関するルール」が決定されたのは前進ですが、既存の統計表がいつまでにどう置き換わるかは、この報告書からは読み取れません。データ利活用の実務者にとって、当面いちばん影響が大きいのはここだと思います。
論点2:デジタル化は「取りやすいところ」を取り終えた
オンライン調査の導入率94.3%に対し、実際の回答率は企業系62.3%・世帯系28.8%。回答率が上がらない理由として挙がったのは、高齢の回答者、複数部署にまたがる回答フロー、聞き取りが必要な調査内容──いずれもUI改善では解けない構造的な要因です。ここから先は、調査そのものの設計を変えるか、調査せずに済ませるかの二択に近づいていきます。
論点3:「調査せずに済ませる」道はまだ塞がっている
その「調査せずに済ませる」道が、行政記録情報とビッグデータの活用です。ところが行政記録情報を使う統計調査は7年間ほぼ横ばい(107件→109件)、そのうち報告者負担の軽減に直結する調査事項の代替は37件のみ。他府省が持つデータを使えているのはわずか7件です。原因はデータカタログの未整備とフォーマット非標準化、そして提供を「任意」でしか求められない法的枠組み。報告書自身が規定整備の検討を促しており、今後の制度改正論議の焦点になりそうです。
論点4:窓口の一元化は、確実に効く
数少ない明確な成功例が、ミクロデータ利用の電子申出窓口(e-Micro)です。府省ごとにバラバラだった申出窓口を一つにまとめ、審査を標準化・効率化しただけで、提供件数が319件から494件へ約1.5倍に増えました。平均審査日数は7.7日。技術的に難しいことをしたわけではありません。摩擦を減らせば利用は増えるという、行政DXの基本が数字で証明された事例です。同時に、府省間で審査日数が4.1日〜21.9日と5倍の開きがある点は、まだ改善余地があることを示しています。
論点5:人の減少が、自動化を「選択肢」から「必須」に変える
都道府県統計専任職員は5年間で81人の合理化減。基幹統計の作成に従事する本府省職員は894人(令和5年度)から852人(令和7年度)へ。一方で調査の数は減っていません。そして誤りの原因は、いまだに「手作業による誤り」が88件と最多で、再発防止策の主流はマニュアル整備とダブルチェック。
この組み合わせは持続しません。人を減らしながら手作業とチェックを増やすことはできないからです。集計処理のコード化、検証の自動化、公表前の機械的チェックといった、ソフトウェア開発では当たり前の手法を統計作成プロセスに組み込めるかどうか。令和8年度以降の統計行政の成否は、かなりの部分がここにかかっていると思います。統計データアナリストの育成が「配置」フェーズに移ったのも、同じ問題意識の表れでしょう。
データを使う側として、何を見ておくべきか
- 機械可読化ルールの適用状況──自分が使う統計表がいつ標準フォーマットになるか
- e-Micro経由のミクロデータ利用──従来より格段に申請しやすくなっている
- オンサイト施設25か所・190調査──個票分析のインフラが整いつつある
- 2025SNAの国内実装──デジタル経済の測り方が変わる可能性
- 統計法改正の議論──行政記録情報・ビッグデータの活用規定が焦点になりうる
出典・注記
本記事は、総務省 政策統括官(統計制度担当)が令和8年7月27日に公表した「令和7年度(2025年度)統計法施行状況報告」(全168ページ)の記載内容にもとづいて作成しています。数値・図表番号はすべて同報告書によります。
・グラフは同報告書掲載の数値を再構成したものです(図表2、7、9、11、24、26、46、48、51、52、59)。
・「実施済」「継続実施」等の区分は各府省の自己評価にもとづくものです。
・オンライン回答率の時系列は、令和5年(2023年)から他計方式調査で統計調査員等がオンライン送信する方法も「オンライン調査」に計上されているため、単純な時系列比較には注意が必要です。また、令和元〜5年度の値は各年度12月末現在、令和6年度以降は各年度3月末現在です。
・本記事中の見解・整理は筆者によるものであり、総務省その他の公的機関の見解を示すものではありません。
参考リンク:政府統計の総合窓口(e-Stat)
📊 このグラフのポイント
e-Statの統計表アクセス件数は、令和5年度の約3,487万件から令和6年度に約6,653万件(前年比約1.9倍)、令和7年度に約7,878万件(同約1.18倍)へと伸びました。2年間で約2.3倍という急拡大です。