このレポートについて
2024年(令和6年)の夏、スーパーの棚からお米が消え、価格が急騰した「令和の米騒動」は記憶に新しいところです。その背景を数字で読み解くカギが、「民間在庫量」です。
ここでいう民間在庫とは、農林水産省が毎月公表する主食用米の月末在庫量(出荷段階=集荷業者+販売段階=卸・小売)のこと。生産者(農家)の手持ちは含みません。お米は秋に一度に収穫され、そこから1年かけて消費されるため、在庫は「新米入荷の秋(10〜12月)に積み上がり、翌夏の端境期(6月ごろ)に最も少なくなる」という毎年のサイクルを描きます。
このレポートでは、直近3つの米穀年度(2023/24・2024/25・2025/26年産)を中心に、在庫がどこまで細り、どう回復したのかを4つのグラフで見ていきます。
- 📉 2024年産(2024/25年度)は在庫が過去最低水準まで低下 ― 米騒動の実態
- 📈 2025年産(2025/26年度)は豊作で大きく回復 ― 2026年6月末は194万トン
- 🍚 端境期(6月末)の在庫は、2024年の115万トンが際立って低い水準でした
※「米穀年度」は毎年7月から翌年6月まで。例:2025/26年度=2025年(令和7年)産の主食用米が流通する2025年7月〜2026年6月。単位はすべて万トン(玄米換算)。
① 月末民間在庫の推移(直近3米穀年度の比較)
横軸は7月〜翌6月の1年サイクル。3つの米穀年度を重ねることで、同じ時期どうしの在庫の多い・少ないを比べられます。
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、民間在庫の推移」(全国・出荷段階+販売段階)。直近は2026年6月末。
② 端境期(6月末)の民間在庫量の推移
1年で在庫が最も少なくなる6月末(端境期)だけを取り出して、7年分並べました。ここが「お米が足りるかどうか」の毎年のボトルネックです。
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、民間在庫の推移」。各年6月末(出荷段階+販売段階)。
📊 このグラフのポイント
例年150〜170万トン前後で推移していた端境期の在庫は、2024年6月末に115万トンまで急落。これは平年より3〜5割少ない、際立って低い水準でした。翌2025年も121万トンと低迷しましたが、2025年産の豊作を受けて2026年6月末は194万トンへ急回復(前年比+73万トン)。むしろ近年で最も潤沢な水準となりました。
- 2024年の底(115万トン)は、猛暑による品質低下・作柄不良と需要増が重なった結果とされます
- 2026年の194万トンは、作付け拡大・豊作と、政府備蓄米の放出などの需給対策も背景にあります
- 端境期の在庫が薄いと、夏場に一時的な品薄・値上がりが起きやすくなります
③ 出荷段階と販売段階の内訳(2025/26年度)
民間在庫は「出荷段階(集荷業者・JA等が持つ在庫)」と「販売段階(卸・小売が持つ在庫)」に分かれます。最新の2025/26年度の内訳を積み上げで示しました。
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、民間在庫の推移」(2025/26年度・全国)。
📊 このグラフのポイント
在庫の大半(およそ7〜8割)は出荷段階が占めます。集荷業者が新米をいったん抱え、そこから卸・小売へ順次供給していく流れです。販売段階(卸・小売)の在庫は年間を通じて50〜80万トン程度と薄く、消費者に近いほど在庫は少なくなります。
- 小売店頭の在庫はごくわずかで、供給が少し滞るだけで「棚から消える」現象が起きやすい構造です
- 出荷段階の在庫水準が、その後数か月の供給の安定度を左右します
- 飲食・中食業の仕入れでは、端境期(初夏)の在庫動向を早めに把握することがリスク管理になります
④ 新米(当年産)と古米の構成(2025/26年度)
在庫は「その年に収穫された新米(当年産)」と「前年から持ち越した古米」で構成されます。1年でどう入れ替わるかを見ました。
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、民間在庫の推移」(2025/26年度・全国)。新米=2025年産、古米=2024年産。
📊 このグラフのポイント
年度初め(7月)は前年産の古米(83万トン)でつなぎ、秋(9〜12月)に新米(当年産)が一気に積み上がって主役が交代します。古米は年度末に向けて7万トンまで消化され、ほぼ入れ替わります。2025/26年度は新米が潤沢で、年末の在庫340万トンのうち約9割を新米(2025年産)が占めました。
- 古米の持ち越しが少ないと、新米が出るまでの端境期(夏)に在庫が細りやすくなります
- 2024年の品薄は、前年からの古米在庫が薄かったことも一因でした
- 安定供給には「新米の作柄」と「適度な古米の持ち越し」の両方が重要です
月末民間在庫データ(直近3米穀年度・万トン)
グラフ①のもとになった月末在庫(出荷段階+販売段階)の一覧です。横にスクロールできます。
※ 各米穀年度は7月〜翌6月。例:2025/26年度=2025年産(令和7年産)。単位:万トン。
💡 中小企業経営へのヒント
- お米の需給は「端境期(初夏)」に最も締まる。飲食店・弁当・中食など米を多く使う事業は、6月前後の在庫動向を早めにチェックし、仕入れ計画に織り込みましょう。
- 在庫は1年の作柄で大きく振れる。2024→2026年で在庫は115→194万トンと大きく動きました。価格も在庫と連動しやすいため、メニュー価格やコスト計画に「米価変動」を前提に置くことが有効です。
- 小売・販売段階の在庫は薄い。店頭在庫はわずかで、供給が滞るとすぐ品薄になります。複数の仕入れ先の確保や、産地・銘柄の柔軟な切り替えがリスク分散になります。
- 「古米の持ち越し」も安定供給のカギ。極端な品薄を避けるには一定の在庫の厚みが必要です。取引先との中長期の数量契約は、価格・供給の両面で安心材料になります。
📊 このグラフのポイント
どの年も秋の新米入荷で在庫が積み上がり、翌夏にかけて減っていく「山なり」の形は共通です。しかし2024/25年度(赤)は1年を通して最も低い水準で推移し、前年同月比で毎月30〜45万トンも少ない状態が続きました。これが2024年夏〜秋の品薄・価格高騰、いわゆる「令和の米騒動」の正体です。一方、2025/26年度(緑)は一転して最も高い水準まで回復しました。