会議の概要とポイント
令和8年4月22日、総理大臣官邸で「日本成長戦略会議(第4回)」が開催されました。
今回のテーマは、17の戦略分野に共通する「分野横断的な課題」への対応の方向性です。
この会議は、日本経済を「強い経済」に押し上げるための司令塔となる場です。政府は、「危機管理投資」と「成長投資」という2種類の投資を徹底的にてこ入れすることで、国内投資を拡大し、賃上げや消費マインドの改善、税収の自然増という「好循環」を生み出すことをめざしています。
会議の3つのポイント
- 17の戦略分野(AI・半導体、創薬、防衛、コンテンツなど)を加速させるには、それを横串で支える8つの分野横断的課題の解決が不可欠であることが確認された。
- AX(AIトランスフォーメーション)が、成長戦略全体の「加速装置」として位置づけられ、最優先で取り組むべき課題と明記された。
- 高市総理は、この夏の「日本成長戦略」策定に向け、「リミッターを外して施策を具体化せよ」と各大臣に指示した。
日本の現状を示す数字
主要国における民間AI投資額(2024年)
出所:Stanford HAI "Artificial Intelligence Index Report 2025" 単位:億ドル
日本成長戦略の基本的な考え方
日本成長戦略の柱は、「時間軸を意識した複線的投資」です。これは、足元の収益源・次の稼ぎ頭・未来に向けた成長の芽の3つに、同時並行でアプローチするという考え方です。
自律性・不可欠性を起点とした成長
経済安全保障、食料・エネルギー・健康医療の各安全保障、国土強靱化、サイバーセキュリティなど、国内の様々なリスクに備える「危機管理投資」で、日本が「自律性」「不可欠性」を持つ製品・技術を強化する。
イノベーションを通じた成長
日本が強みを持つ先端技術への「成長投資」により、国内での早期の社会実装と海外市場への展開を実現。これにより、技術優位をビジネスの利益につなげる。
AXによる高付加価値化
豊富な現場データとものづくり基盤という日本の強みを活かしたフィジカルAIを軸に、全産業の高度化を推進。人口減少下でも高付加価値を生む経済構造へ。
これらを実現するため、政府は「グローバル産業の競争力強化」と「ローカル産業の生産性向上」の両方を同時に進めます。つまり、世界で勝つ産業と、地域に根ざしたエッセンシャル産業(医療・福祉・インフラなど)の両輪で日本経済を底上げするという考え方です。
8つの分野横断的課題
17の戦略分野に共通する「横串の課題」が、今回の会議の中心テーマです。
これらを解決しなければ、いくら個別分野に投資しても効果が出ないという考え方です。
新技術立国・競争力強化
8つの課題をつなぐ「結節点」となる最重要テーマ。AXによる産業・就業構造の転換、「責任ある積極財政」による投資促進、新技術立国の実現の3本柱で推進。
- 複数年度の予算措置で予見可能性を向上
- 『成長投資ガイダンス』の策定
- 産業競争力・研究力中核大学群の形成
スタートアップ
2022年開始の「スタートアップ育成5か年計画」を強化。ユニコーン100社、スタートアップ10万社という将来目標に向け、スケールアップ・ディープテック・地域の3本柱で推進。
- 投資額を2027年度までに10兆円規模へ
- ディープテック向けSBIR制度の抜本強化
- 政府系金融機関の資金供給強化
金融を通じた潜在力の解放
「資産運用立国」の取組を発展させ、戦略17分野への成長投資を支える金融機能を強化。家計・企業・アセットオーナー・金融機関それぞれで改革を進める。
- 銀行の大口信用供与等規制の緩和
- コーポレートガバナンス・コード改訂
- NISA・iDeCoの制度改善
人材育成
AX時代の産業変化に対応できる人材を育成。文理分断を脱却し、理工・デジタル系人材と現場人材を戦略的に育てる。高校から大学・大学院までの一貫した教育改革を推進。
- 大学の理工農・デジタル・保健系の定員を5割へ(2040年)
- 博士課程入学者・博士号取得者を年2万人に
- リ・スキリング人口を年60万人に
労働市場改革
人手不足の中、労働生産性向上・労働移動の円滑化・労働参加の確保の3本柱で対応。成長分野を支える専門人材と現場人材の育成・確保をめざす。
- 労働生産性を5年で15%上昇
- 転職入職率を8.3%→9.0%に
- 70歳までの就業確保措置を40%以上に
家事等の負担軽減
育児・介護による離職を防ぐため、ベビーシッターや家事支援サービスの利用を促進。品質向上・経済的支援・国家資格化の3つで取り組む。
- 家事支援サービスの国家資格を2027年秋に創設
- 質の高いサービス利用への税制措置を検討
- 第一子出産前後の継続就業率を80%へ
賃上げ環境整備
「投資と賃上げの好循環」を加速。中堅・中小企業の稼ぐ力強化、価格転嫁・取引適正化、成長支援・生産性向上を通じて、実質賃金プラスの定着をめざす。
- 中小企業の労働生産性を5年で15%増
- 取適法・振興法の着実な執行
- 100億企業創出メカニズムの強化
サイバーセキュリティ
安全なサイバー空間の確保は、全分野の投資の前提となる基盤。AI時代に対応した国産セキュリティ製品・サービスの育成と、官民のDX基盤の強靱性確保が柱。
- 国内セキュリティ産業のエコシステム構築
- 重要インフラ分野のサイバー耐性強化
- 政府・地方公共団体のDX基盤のセキュア化
17の戦略分野(主要な製品・技術等)
参考資料1では、17の戦略分野において合計61項目の「主要な製品・技術等」が官民投資の優先支援対象として戦略的に選定されました。選定の観点は、①経済安全保障等のリスク低減、②海外市場の獲得可能性、③関係技術の革新性、の3つです。
主要分野の2030〜2040年の世界市場規模見通し
参考資料1をもとに作成(分野により到達年度が異なるため比較は目安) 単位:兆円
| 分野 | 主要な製品・技術等(抜粋) |
|---|---|
| AI・半導体 | フィジカルAI、半導体(先端〜アナログ)、バーティカルAI |
| 情報通信 | オール光ネットワーク、海底ケーブル、次世代ワイヤレス(6G等) |
| 量子 | 量子コンピューティング、量子通信・ネットワーク、量子センシング |
| デジタル・サイバー | データプラットフォーム、政府DX基盤、クラウド・データセンター、自動運転 |
| 防衛産業 | 小型無人航空機、艦艇、デュアルユース技術 |
| 航空・宇宙 | 民間航空機、無人航空機、空飛ぶクルマ、ロケット・射場、人工衛星、月面・低軌道 |
| 海洋 | 海洋ドローン、海洋状況把握(MDA)、革新的海底開発技術 |
| 造船 | 次世代船舶(ゼロエミッション船等)、船舶修繕 |
| マテリアル | 永久磁石、グリーン鉄、革新的金属部素材、リサイクル技術、AI活用複合新素材 |
| 創薬・先端医療 | ファースト/ベストインクラス製品、感染症対応製品、バイオ医薬品、医療DX機器 |
| 合成生物学・バイオ | バイオものづくり、バイオ医薬品・再生医療 |
| 資源・エネルギー・GX | ペロブスカイト太陽電池、水素、グリーン鉄、次世代型地熱、洋上風力、次世代革新炉、GXケミカル |
| フュージョンエネルギー | フュージョンエネルギー(核融合) |
| 防災・国土強靱化 | 防災技術(自動施工、老朽化対策、防災資機材 等) |
| 港湾ロジスティクス | 港湾荷役機械、サイバーポート、次世代型倉庫 |
| フードテック | 植物工場、陸上養殖、食品機械、新規食品(代替たんぱく等) |
| コンテンツ | ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写 |
これら17分野の具体的な投資ロードマップは、3月10日に27項目、4月16日に34項目の素案がすでに提示されています。今夏の「日本成長戦略」策定に向けて、随時項目の追加が行われていく予定です。
高市総理のとりまとめ発言
会議の最後に、高市総理は議論を踏まえたとりまとめを行いました。ここでは各大臣への具体的な指示と、政府全体の姿勢が示されています。
Key Messages from the Prime Minister
【働き方改革】裁量労働制や変形労働時間制など労働時間制度の見直しを加速。濫用防止措置を前提に、制度対象の在り方について見直しを進める。
【リ・スキリング】17の戦略分野とエッセンシャルサービスの担い手育成のため、スキル標準化が進んでいなかった業種についてもリ・スキリング講座の開発・提供まで一気通貫で支援する。
【家事支援】育児・介護等による離職を防止するため、家事支援の国家資格化について、来年秋の試験実施・税制措置を含む支援の実現に向けた検討を加速。
【大学改革】産業競争力強化に貢献する新たな大学群の形成に向け、17の戦略分野を中心に、特定分野で高い研究力を有する大学を中長期的に支援する制度を検討。
【ディープテック】SBIR制度を抜本強化し、研究開発支援を超えて本格調達につなげる試験導入の新たな枠組みの創設を検討。
【新たな投資枠】スタートアップ、中堅・中小企業の稼ぐ力強化など、民間企業の投資を引き出す取組について、成長投資として新たな投資枠の対象とすることを検討。
総理が特に強調したこと
「政府全体として、リミッターを外して、真に必要な施策を躊躇なく提案し、やり抜く姿勢が必要」
また総理は、施策を進める上で「誰が、いつまでに、何を、どのように行うのかという5W1H」が重要だと述べ、夏の「日本成長戦略」策定に向けて、施策の具体化を一層加速するよう各大臣に要請しました。
今後の展望:夏に「日本成長戦略」策定へ
第4回の会議では、8つの分野横断的課題の方向性と、17の戦略分野の具体的な製品・技術等が整理されました。これらは、今夏に策定される「日本成長戦略」の骨格となるものです。
すでに動き出している施策(2025年度内)
- 産業競争力強化法等改正案を2026年3月に閣議決定・国会提出(大胆な投資促進税制、エッセンシャルサービス支援等)
- 産業技術力強化法改正案を2026年3月に国会提出(AI・ロボット、量子、半導体・通信等の重点産業技術を指定)
- 経済安全保障推進法等改正案を2026年3月に国会提出(基幹インフラ制度に医療分野を追加 等)
- 「AIロボティクス戦略」を2026年3月に策定(世界先駆けの社会実装と中核産業化)
- 第7期「科学技術・イノベーション基本計画」(令和8〜12年度)の閣議決定
- 東証グロース市場の上場維持基準の見直し(時価総額100億円以上/上場5年経過後)
- 防衛省による「ファストパス調査」開始(スタートアップ技術の迅速な防衛調達)
今後のKPI(抜粋)
次回以降の日本成長戦略会議では、今回示された8つの分野横断的課題の方向性と17の戦略分野の投資ロードマップが組み合わされ、「日本成長戦略」としてとりまとめられる見込みです。