このレポートについて
経済産業省が2026年6月に公表した「2040年の就業構造推計(改訂版)」は、AI・ロボットの普及や産業構造の転換が進む2040年に、日本の労働市場でどんな人材が「足りて」どんな人材が「余る」のかを試算したものです。(独)経済産業研究所(RIETI)と共同で作成されました。
ポイントは、人口減少で就業者は約400万人減るものの、AI・ロボットの活用やリスキリングで労働需要が効率化され、「全体では大きな人手不足は生じない」一方、職種・学歴・地域ごとに大きな「ミスマッチ(偏り)」が生じるという点です。「量」ではなく「質と配置」の問題へと、人材課題の焦点が移っていきます。
- 🖥️ 事務職は約440万人の余剰 ― AI・ロボットによる省力化で需要が縮小
- 🔧 専門職・現場人材・理系は不足 ― 成長のボトルネックになるリスク
- 🗾 地域差が鮮明 ― 東京圏は事務職が余り、地方は現場人材が大きく不足
※本推計は「国内投資が名目+4%で拡大し、GDP成長率が名目+3.1%(実質+1.7%)となる」積極的な産業政策シナリオを前提にしています。就業者数は日本人・外国人の区別なく推計されています。
① 職種別に見た2040年の需給ミスマッチ
2040年に「需要(必要な人数)」と「供給(実際に働ける人数)」がどれだけズレるかを職種別に示しました。プラス(青)は人が余る「余剰」、マイナス(赤)は人が足りない「不足」です。
■ 余剰(+)=人材が余る / ■ 不足(−)=人材が足りない
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年6月)。単位:万人。
② 学歴別に見た2040年の需給ミスマッチ
同じミスマッチを「学歴」の切り口で見ると、文系と理系、普通科と工業科で明暗が分かれます。
■ 余剰(+) / ■ 不足(−) 単位:万人
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年6月)。
📊 このグラフのポイント
大卒・院卒の理系人材は合計で約120万人の不足(大卒理系−96万・院卒理系−27万)。同じく高卒(工業科)が−91万人、高専卒が−15万人と、ものづくりを支える理系・技術系が軒並み足りません。一方で大卒・院卒の文系人材は約80万人の余剰(大卒文系+61万・院卒文系+15万)。事務職需要の縮小が、文系人材の余剰につながっています。
- 「理工系人材の育成」が国全体の成長を左右する構造がはっきり表れています
- 工業高校・高専の役割が再評価されるべき局面。産業界と教育界の連携がカギに
- 文系人材こそリスキリング(AI活用・データ・専門スキル)で「余剰側から不足側へ」動くことが求められます
③ 地域別に見た2040年の需給ミスマッチ
ミスマッチには大きな地域差があります。地域ブロックごとの需給ギャップ(余剰+/不足−)です。
■ 余剰(+) / ■ 不足(−) 単位:万人
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年6月)。関東は一都三県/それ以外で二分。沖縄は九州に統合。
📊 このグラフのポイント
関東(一都三県=東京圏)だけが+193万人と突出した余剰で、その多くを事務職が占めます。一方、関東の一都三県以外(−89万)、東北(−53万)、北海道(−41万)、九州(−31万)など地方は軒並み不足。特に地方では現場人材の不足が深刻です。人材が東京圏に集まり、地方の産業を支える人手が足りなくなる構図です。
- 「都市に事務職が余り、地方に現場人材が足りない」という地理的なミスマッチ
- 地方の中小企業にとって、人材確保は今後さらに厳しさを増す可能性
- 省力化投資・多様な人材(女性・高齢者・外国人)の活用・広域からの人材誘致が対策の柱に
④ 主な産業別に見た職種ミスマッチ
産業ごとに、専門職・事務職・現場人材の過不足がどう出るかを比べました(2040年・万人)。バーが下(マイナス)に伸びるほど不足を意味します。
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年6月)。主な産業を抜粋。単位:万人。
📊 このグラフのポイント
製造業は現場人材−256万人・専門職−149万人と、あらゆる職種で大幅な不足。農林水産業も現場人材が−110万人と深刻です。一方、情報通信業だけは専門職+116万人など全職種で余剰(プラス)という珍しい構図。成長産業に人材が集まりやすい一方、ものづくりや一次産業の担い手不足が際立ちます。
- 製造業・建設業・農林水産業など「日本のものづくり・現場」の人手不足がとりわけ深刻
- 卸売・小売や運輸・郵便では、事務職は余る一方で現場人材が不足するなど職種内のねじれも
- 省力化(自動化・ロボット・AI)と処遇改善を同時に進めることが、現場を持つ企業の生命線です
⑤ 生成AI・ロボットの進展による労働需要の変化
生成AIやロボットがさらに進展すると、必要な人数はどこまで減るのか。代表的な3職種で「①現状(導入なし)→②今回の推計→③AIがさらに進展した場合」の労働需要(万人)を比べました。
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」(2026年6月)。Fukao, Kyoji et al.(2025) RIETI Technical Paper 25-T-001 等を参考に作成。単位:万人。
📊 このグラフのポイント
職種によってAIの影響は大きく異なります。事務従事者は1,530万人→(推計)1,040万人→(AI進展)680万人と、半分以下まで減る可能性。定型的な調整・要件分析などが代替されやすいためです。運搬など現場型も240万→130万と大きく減少。一方、保健医療などの対人業務は62万→52万とほぼ横ばい。傾聴・対人対応・臨機応変な判断は、AIに置き換わりにくい「人ならでは」の仕事です。
- 「調整・要件分析・定型操作」が中心の仕事はAI代替が進みやすい
- 「対面での対応・ケア・判断責任」が求められる仕事は残りやすく、むしろAIで生産性が上がる
- キャリアや採用を考えるうえで、"AIに任せる仕事"と"人が担う仕事"の見極めが重要になります
⑥ ミスマッチ解消に向けた取組 ―「スキルベース労働市場」へ
経済産業省は、このミスマッチを放置すると経済成長のボトルネックになるとして、文部科学省・厚生労働省とも連携し、大きく3つの方向で対策を進めています。
1. スキル情報の可視化
産業・職種ごとに求められるスキルを整理した「スキル標準」を策定。産業横断で使える専門スキル体系(約30カテゴリー・約1,300スキル)をAIも活用して整備し、賃金水準とあわせて見える化します。
2. リスキリング提供
スキル標準とリスキリング講座をひも付け、「需要の高いスキル」を学べる講座を拡充。習得したスキルを蓄積・証明できるデータ基盤も整えます。
3. 円滑な労働移動
求人サイトとスキル標準をデータ連携し、各求人に必要なスキルを明記。「余る分野」から「足りない分野」へ、人が動きやすい環境を整えます。
あわせて、地域ごとに産業界・教育界・労働界が集まる「地域人材育成構想会議」を開催(北海道・東北・沖縄・北陸・四国・近畿などで順次)。工業高校・高専・大学の学部再編など、教育段階からの戦略的な人材育成を、産学官連携で進める方針です。参考にしているのは、生涯学習とキャリア開発を国全体で支えるシンガポールの「Skills Future」の仕組みです。
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)と人材需給ミスマッチを踏まえた取組について」(2026年6月)。
💡 中小企業経営へのヒント
- 課題は「人手不足」から「人材ミスマッチ」へ。単に人数を確保するだけでなく、「どのスキルの人が必要か」を見極める経営が問われます。
- 事務のAI化で生まれた余力を、付加価値の高い仕事へ。定型事務を自動化し、その人材を営業・企画・現場支援など不足する役割へ再配置しましょう。
- リスキリングは「守り」でなく「攻め」。文系・事務系の社員がAI活用や専門スキルを身につければ、余剰側から不足側の戦力へと変わります。スキル標準・公的講座の活用が有効です。
- 地方の現場を持つ企業は、省力化投資と処遇改善を同時に。製造・建設・介護・運輸などは特に人手が不足します。ロボット・AIの導入と、選ばれる職場づくりの両輪が欠かせません。
- 産学官連携のチャンスを活かす。地域人材育成構想会議や工業高校・高専との連携は、地元中小企業が将来の担い手を確保する好機になります。
📊 このグラフのポイント
いちばん目立つのは事務職の+437万人(余剰)です。AI・ロボットによる定型業務の自動化で、事務の仕事の必要人数が大きく減るためです。反対に、専門職は−181万人、現場人材は−260万人の不足。特に専門職のうち「AI・ロボット等を使いこなす人材」は−339万人と、最も深刻な不足が見込まれます。