このレポートの狙い ― 「稼ぐ力」を産業で比べる
「経済構造実態調査」は、5年ごとの経済センサスの中間年に毎年実施される、 日本のほぼ全産業の企業活動をとらえる調査です。売上だけでなく付加価値額(企業が生み出した正味の価値)まで把握できるのが特徴で、 日本経済の「構造」を測るために設計されています。
このレポートでは、e-Stat(政府統計の総合窓口)から取得した最新データ(2025年)をもとに、 ①売上の大きさ、②付加価値額、③付加価値率(稼ぐ力)、④労働分配率(人件費の重さ)の4つの角度で 18の産業大分類を比較します。「売上が大きい産業=儲かる産業」とは限らないことが見えてきます。
🔑 2つのキーワード
付加価値額=売上から外部に支払ったコスト(原材料・仕入れ等)を差し引いた、その企業が新たに生み出した価値。給与・利益・税などの源泉です。
付加価値率=付加価値額 ÷ 売上高。高いほど「薄利多売でなく、価値で稼ぐ」産業。
労働分配率=給与総額 ÷ 付加価値額。高いほど生み出した価値の多くが人件費に回る「労働集約型」。
① 産業別の売上高 ― 二強は「卸売・小売」と「製造業」
18の産業大分類を、売上(収入)金額の大きい順に並べたグラフです。
出典:e-Stat|経済構造実態調査 2025年 企業産業別 売上(収入)金額(全国・全経営組織)
② 産業別の付加価値額 ― 日本の「稼ぎ」の源泉
企業が生み出した正味の価値=付加価値額の大きい順です。給与・利益・税の源泉になります。
出典:e-Stat|経済構造実態調査 2025年 企業産業別 付加価値額(全国・全経営組織)
📊 このグラフのポイント
製造業(87兆円)が付加価値額でトップ。売上1位の卸売・小売業は付加価値では52兆円で4位に後退します。
- 順位が入れ替わる:売上2位の製造業が付加価値では1位に。逆に売上1位の卸売・小売は、医療・福祉(33兆円)にも迫られます。
- 医療・福祉・情報通信の存在感:医療・福祉33兆円、学術研究26兆円、情報通信24兆円と、サービス・知識産業が上位に食い込みます。
- 中小企業への示唆:自社が「売上を追う産業」にいるのか「付加価値で稼ぐ産業」にいるのかで、経営の勝ち筋は変わります。
③ 付加価値率ランキング ― 本当に「稼ぐ力」が高い産業
売上に対してどれだけ付加価値を残せるか(付加価値率)の高い順です。この数字こそ産業の「稼ぐ力」を表します。
出典:e-Stat|経済構造実態調査 2025年より算出(付加価値額÷売上高)
📊 このグラフのポイント
付加価値率のトップは教育・学習支援(44.6%)、学術研究・専門技術(43.2%)、サービス業(40.7%)。一方、売上最大の卸売・小売業はわずか9.6%で最下位です。
- 「知識・人」で稼ぐ産業が高い:コンサル・士業・教育・専門サービスは、仕入れが少なく人の知恵で稼ぐため付加価値率が高くなります。
- 流通・装置産業は低い:卸売・小売(9.6%)、電気・ガス・水道(9.9%)、金融・保険(12.4%)は、大きな売上を「通す」構造で率は低めです。
- 中小企業への示唆:薄利多売の業種ほど「価格転嫁」と「粗利改善」が生命線。付加価値率を1ポイント上げる工夫が利益を大きく左右します。
④ 労働分配率 ― 生み出した価値の何割が「人件費」か
付加価値額のうち給与に回る割合(労働分配率)の高い順です。人手に頼る産業ほど高くなります。
出典:e-Stat|経済構造実態調査 2025年より算出(給与総額÷付加価値額)
📊 このグラフのポイント
教育・学習支援(93%)、医療・福祉(90%)は、生み出した付加価値のほとんどが人件費に回ります。逆に鉱業(13%)、電気・ガス・水道(30%)など装置産業は低めです。
- 労働集約型は余力が薄い:教育・医療福祉・宿泊飲食は、人件費を払うと利益や投資に回る余力が小さく、賃上げ原資の確保が課題です。
- 漁業は100%超:付加価値を上回る給与=構造的に厳しい状況を示します。
- 中小企業への示唆:労働分配率が高い業種は、省人化・単価改善なしの賃上げが経営を圧迫します。生産性向上(=付加価値額を増やす)が賃上げの前提です。
⑤ 産業大分類 全18分野データ一覧
売上高の大きい順。付加価値率・労働分配率も含めた全体像です(表は横スクロールできます)。
| 産業大分類 | 企業等数 | 売上高 (兆円) | 付加価値額 (兆円) | 付加価値率 | 労働分配率 |
|---|
※企業等数は法人(会社企業+会社以外の法人)。売上高・付加価値額は年間額。付加価値率=付加価値額÷売上高、労働分配率=給与総額÷付加価値額。
⑥ まとめ ― 「売上」ではなく「付加価値」で自社を見る
- ① 売上と付加価値で主役が変わる。売上1位は卸売・小売(542兆円)だが、付加価値1位は製造業(87兆円)。売上の大きさ=稼ぐ力ではありません。
- ② 稼ぐ力(付加価値率)は知識・人サービスが高い。教育44.6%・学術研究43.2%に対し、卸売・小売は9.6%。仕入れの少ない産業ほど率が高くなります。
- ③ 労働分配率が高い産業は賃上げ余力が薄い。教育93%・医療福祉90%。生産性向上(付加価値額の増加)なしの賃上げは経営を圧迫します。
- ④ 自社の立ち位置を数字で。「自社は付加価値率・労働分配率が業界平均に対しどうか」を知ることが、価格戦略・賃上げ・投資判断の出発点になります。経済構造実態調査は、その業界ベンチマークとして活用できます。
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データについて
出典:e-Stat|総務省・経済産業省「経済構造実態調査」2025年(statsDataId 0004055461ほか)。企業産業(大分類)別・全経営組織・全国の集計値。 売上(収入)金額・付加価値額・給与総額は年間額(単位換算:百万円→兆円)。付加価値率・労働分配率は当該値から算出。 経済構造実態調査は経済センサス‐活動調査の中間年に毎年実施され、主に法人企業を対象とします(個人経営は含みません)。調査年により集計対象・定義が一部異なるため、経年比較には注意が必要です。データ取得:2026年7月。
📊 このグラフのポイント
売上のトップは卸売・小売業(542兆円)、次いで製造業(475兆円)。この2産業だけで全産業売上の約半分を占めます。