このレポートでわかること
ニュースでよく耳にする「消費者物価指数(CPI)が前年より○%上がりました」。 この消費者物価指数と、その土台になっている小売物価統計調査は、 じつは「親子」のような関係にあります。名前は似ていますが、役割がはっきり違います。
このページでは、食パン・鶏卵・キャベツ・豆腐・ガソリン・お米という身近な6商品を例に、 「実際にいくらだったのか(円)」と「2020年を100とした指数」を並べて、 2つの統計の違いと関係を、グラフを見ながらやさしく確認していきます。
・小売物価統計調査=お店で「実際の値段(円)」を調べる調査。家計の実感に近い“生の価格”。
・消費者物価指数(CPI)=その価格データを主な材料にして計算した“物価のものさし(指数)”。
つまり、小売物価統計調査で集めた価格が、消費者物価指数の原材料になっているのです。
2つの統計のちがい早見表
| 小売物価統計調査 (動向編) |
消費者物価指数 (CPI) |
|
|---|---|---|
| ひとことで | お店の値段を測る「ものさしの目盛りを作る調査」 | その目盛りで測った「物価の温度計」 |
| 何を出すか | 実際の価格(円) 例:食パン1kg = 535円 |
指数(2020年=100) 例:食パン = 126.8 |
| 単位 | 円・銭など(お金) | 数値(基準年=100、単位なし) |
| 主な使いみち | 価格の実態把握、地域差の比較、CPIの計算材料 | 物価の変化率(インフレ率)、年金・賃金・契約の改定基準 |
| 集計の単位 | 都市別が基本(都道府県庁所在市など) | 全国・地域・都市階級など |
| 作っているところ | 総務省統計局 | 総務省統計局(同じ) |
| 関係 | 小売物価統計調査で集めた「価格」→ 加工・品質調整・重みづけ → 消費者物価指数(CPI) | |
ポイントは「指数(CPI)は、価格(小売物価統計)から作られている」という上下関係です。 だから両者は別々の数字に見えて、動き方はとてもよく似ています。以下のグラフで実際に確かめてみましょう。
① 小売物価統計調査でみる「実際の価格(円)」
まずは“生の値段”から。東京都区部での身近な5商品の年平均価格(円)の推移です。 「1個いくら?」「1kgいくら?」という、家計に直結する実感の数字です。
出典:総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)」調査品目の年平均価格(東京都区部)/e-Stat
② 消費者物価指数でみる「指数(2020年=100)」
同じ商品を、今度は消費者物価指数(全国・2020年=100)で見てみます。 金額ではなく「2020年から何%変わったか」がひと目でわかるのが指数の便利なところです。
出典:総務省統計局「2020年基準消費者物価指数」品目別指数(全国)/e-Stat
📊 このグラフのポイント
すべて2020年に「100」でそろってスタートするため、値段の大小に関係なく“上がり方”を横並びで比較できます。 これが実価格(円)のグラフとの一番の違いです。
- お米(うるち米B)は2024〜2025年に指数が急上昇し、100→200超え。いわゆる「令和の米騒動」がくっきり表れています。
- 食パンは指数126前後、鶏卵・キャベツは130〜140台と、多くの品目で「2020年比で3〜4割高」に。
- 単位が「円」ではなく「指数」なので、値段の水準がまったく違う商品どうしでも“上昇率”を公平に比べられます。
③ 同じ商品を「円」と「指数」で重ねると?(お米の例)
では、同じ商品の「実価格(円)」と「消費者物価指数」を1つのグラフに重ねるとどうなるでしょう。 話題のお米を例に、左軸=実価格(円)、右軸=CPI指数で描いてみました。
出典:小売物価統計調査(東京都区部・うるち米)+消費者物価指数(全国・うるち米B)/e-Stat
📊 このグラフのポイント
2本の線はほとんど同じ形で動いています。実価格(円)が上がれば指数も上がり、下がれば下がる。 これは「指数(CPI)が価格(小売物価統計)から作られている」ことの何よりの証拠です。
- お米は2024〜2025年に価格・指数ともに急騰。実価格は2,200円台から4,700円台へと約2倍になりました。
- 片方は「円」、もう片方は「単位なしの指数」ですが、上下の動き(増減率)はぴったり連動します。
- 指数の便利さは、この“動き”だけを取り出して、他の商品や過去と比較しやすくしている点にあります。
④ それでも“少しズレる”のはなぜ?(実価格指数 vs 公式CPI)
最後に、小売物価統計の実価格を自分で「2020年=100」に計算しなおし(=実価格指数)、 公式の消費者物価指数と重ねてみます。ほぼ重なりますが、よく見ると少しだけズレます。 そのズレにこそ、2つの統計の性格の違いが表れています。
出典:小売物価統計調査(東京都区部)を2020年=100に指数化/消費者物価指数(全国)/e-Stat
📊 このグラフのポイント
食パンと鶏卵について、「東京都区部の実価格を指数化した線(点線)」と「公式CPI(実線)」を比べています。 方向は同じでも、線は完全には重なりません。おもなズレの理由は次のとおりです。
- 対象エリアの違い:実価格は東京都区部、公式CPIは全国平均。地域差ぶんズレます。
- 品質調整:CPIは内容量やグレードの変化を補正します(例:量が減れば実質値上げとみなす)。
- 銘柄・集計方法:CPIは代表的な複数銘柄を決まったルールで統合するため、単純平均の実価格とは差が出ます。
- それでも大きな流れは一致。「価格」と「指数」は同じ調査データを源にした別の見せ方だとわかります。
まとめ:使い分けのコツ
- 「今いくらか」を知りたいときは小売物価統計調査(実価格・円)。仕入れ交渉や価格設定、地域比較に向きます。
- 「どれだけ上がった/下がったか」を知りたいときは消費者物価指数(CPI・指数)。インフレ率の把握や、賃上げ・価格改定の根拠づくりに向きます。
- 両者は別物ではなく「価格(小売物価統計)→ 指数(CPI)」という親子関係。だから動きはほぼ連動します。
- 中小企業の実務では、自社商品の値上げを説明する材料としてCPIの品目別指数が便利。「原材料であるお米はCPIで2020年比2倍」など、客観的な数字で価格改定の納得感を高められます。
📊 このグラフのポイント
いずれの商品も2020年ごろまでは横ばい〜ゆるやかでしたが、2022年以降にはっきりと上向いています。 原材料・エネルギー価格の上昇と円安が、身近な食品にまで波及したことが読み取れます。